巨大に膨れ上がり続けるオンライン販売市場に対し、ブランドもまた、あの手この手で新たなオンラインストアを展開しようと画策している。そんななか、話題になっているのが「ヘッドレスコマース(headless commerce)」だ。今回の記事では、その内容と、ヘッドレス化に適した企業の条件について検証する。
巨大に膨れ上がり続けるオンライン販売市場に対し、ブランドもまた、あの手この手で新たなオンラインストアを展開しようと画策している。
そんななか、話題になっているのが「ヘッドレスコマース(headless commerce)」だ。ヘッドレスコマースとは、フロントエンドとバックエンドがそれぞれ独立したECサイトのことで、柔軟性が出るため、ウェブサイトのデザイン変更や運用がしやすいというメリットがある。
ここ数カ月、EC企業の「ヘッドレス化」を代行するスタートアップが多数出現し、ベンチャーキャピタルから多額の資金を調達している。たとえば2月上旬にも、ファブリック(Fabric)が4300万ドル(約45億円)、ナセル(Nacelle)が1800万ドル(約19億円)の資金調達に成功した。
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だがヘッドレス化には課題もある。実際の開発者も、米DIGIDAYの姉妹サイトのモダンリテール(Modern Retail)に対し、「ヘッドレスコマースは社内にITチームがあってはじめて最大の効果を発揮できる」と指摘する。
「ヘッドレス化するのであれば、ある種、IT企業のような運用は避けられない」。そう語るのが、アンディー(Andie)やハウス(Haus)といったD2Cブランドのウェブサイト構築を手掛けるプログレスラボ(Progress Labs)のCEO、パトリック・ジョンソン氏だ。「ヘッドレス化には間違いなく効果があるが、技術的な要求も高く、当社ではあくまでオプションとして提案している」。
このようにヘッドレスコマースは、決してひと筋縄ではいかない。今回の記事では、その内容と、ヘッドレス化に適した企業の条件について検証する。
ヘッドレスコマースとは何か?
ショッピファイ(Shopify)をはじめ、基本的にECプラットフォームは、ウェブサイトからの「オーダー管理をはじめとする注文処理を行うバックエンド」と「ユーザーが目にする(注文操作を行う)フロントエンド」が直接結びついている。
EC開発設計企業のネタリコ(Netalico)の創業者兼CTO(最高技術責任者)を務めるマーク・ウィリアム・ルイス氏は、「現在、ショッピファイでは一般的に各ストアのバックエンドで大量のHTMLを生成することで、ECサイト全体を運営している」と語る。
だがヘッドレスコマースではフロントエンドとバックエンドが独立している。フロントエンドのサーバーに必要なのは、「そのページの実行に必要な情報のみ」だ。これをバックエンドのサーバーに要求する。たとえば商品の詳細ページを見る場合は、「商品名や画像、価格」といった情報を要求する。
そのため、ヘッドレス化したウェブサイトは実行が速くなる。これが大きなメリットのひとつだ。ほかにも、ブランドがウェブサイトのデザインや運用について俯瞰的にコントロールできるというのも良い点として挙げられる。
「たとえばショッピファイを利用している企業では、自社でコントロールできるのは8割から9割程度だろう」とルイス氏は語る。確かにショッピファイも写真やフォントをカスタマイズするためのツールを提供しているが、企業はショッピファイの作ったツールの範囲内でしか編集できない。あるいは、会計プロセスはショッピファイの規定に合わせざるを得ない。
ヘッドレス化を進める前に考慮すべき点
ヘッドレスコマースの利点でもっとも多く耳にするのが「ウェブサイトの高速化」だろう。しかし、ルイス氏やジョンソン氏は「たしかに速くすることは可能だが、確実に高速化するわけではない」と釘を刺す。「コードの書き方が悪ければ速くはならない」とジョンソン氏は語る。「それにヘッドレスコマースもまた、車のように適切なメンテナンスが必要だ」。
デザインから運用まで自在にカスタマイズできるという特性上、ヘッドレス化を進める企業には専門エンジニアチームを社内に立ち上げるか、ウェブサイトを継続的に更新してくれるエージェンシーと提携するところが多い。
また、別の注意点として、ショッピファイで立ち上げたウェブサイトにサードパーティ製アプリを接続・統合できない場合もある。ルイス氏は「ヘッドレス化の統一規格の作成には、ある程度の時間を要するかもしれない」と指摘する。「そもそもECサイトと、ショッピファイの出店事業者が選ぶアプリのプログラム言語が一致しているとは限らない」。
さらにジョンソン氏は、ショッピファイの分析用ダッシュボードから閲覧数や商品をカートに入れたユーザー数などを取得している場合、「ヘッドレス化の前にデータ分析方法について理解しておくべきだ」と、ユーザーへのアドバイスを兼ねて指摘する。
ヘッドレス化に適した企業とは?
「年間の売上が1000万ドル(約10億6000万円)から2000万ドル(約21億2000万円)を超えるような企業はヘッドレス化を検討しても良いと思われる」とジョンソン氏は語る。「かならず移行すべきという話ではない。単に、そういった企業にはヘッドレス化を支えられるだけの資金力がある、という話しだ」。
ヘッドレス化に要するコストはマチマチだが、一般的にショッピファイのみでの運用よりも高くつく場合が多い。ルイス氏は「ショッピファイの場合のコストは約2万5000ドル(約265万円)から約5万ドル(約530万円)だが、すべてが自前のヘッドレスコマースの場合は5万ドル(約530万円)以上かかるだろう」と語る。このコストは、たとえばメンテナンスのために雇用するソフトウェアエンジニアの人数などによっても変動する。
ジョンソン氏は、「ショッピファイのようなプラットフォームでは対応できない」ビジネスモデルの企業は、ヘッドレス化を検討すべきだと指摘する。たとえば肉屋が「肉の部位を決めてサブスクで注文する」といった購入フローを設定したいのであれば、この部分をカスタマイズするためにヘッドレス化が必要になる。ほかにも、グローバル化の進んだ企業であれば、国ごとのウェブサイトの表示方法を管理しやすいというメリットがある。
ルイス氏は「現時点で、高速化以外にヘッドレス化する理由がないのであれば、考え直した方が良い」と語る。「明確な理由がある企業のみが採用すべきだ」。
ジョンソン氏も次のように付け添える。「ヘッドレスコマースは、これからのあるべき姿だ。今はまだ、その黎明期にある」。
[原文:Unpacked: Everything retailers need to know about headless commerce]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)