D2C(Direct to Consumer)の期待の星が、いよいよ新規株式公開(IPO)に進もうとしている。 マットレスブランドのキャスパー(Casper)は1月10日(米国時間)、待望のフォームS-1(証券登録届出書 […]
D2C(Direct to Consumer)の期待の星が、いよいよ新規株式公開(IPO)に進もうとしている。
マットレスブランドのキャスパー(Casper)は1月10日(米国時間)、待望のフォームS-1(証券登録届出書)を提出した。同社が引受会社を探しているとのウワサが最初に流れてから1年近くが経過している。
D2Cブランド各社の創業者は以前、キャスパーこそがD2Cスタートアップの初期モデルの「先駆者」だと、米DIGIDAYに語っていた。こうしたスタートアップは、通常オンラインでブランドを立ち上げ、eコマース事業の売り上げを数百万~数千万ドル(数億~数十億円)規模まで成長させたのち、数十軒の実店舗を展開している。創業者たちは、キャスパーのIPOと、それがウォール街でどれだけ支持を得られるかが、今後、ほかのD2CブランドによるIPOの成功に影響を及ぼすとの見方を示した。
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「(失敗した場合)キャスパーにすらできなかったのに、この企業でできるのだろうか、という考えが生まれる」と、メンズウェアブランドのミゼンプラスメイン(Mizzen + Main)の創業者ケビン・ラベル氏は2019年、米DIGIDAYに述べている。
キャスパーの申請書類からは、同社の売り上げが急拡大していると同時に、主要分野での損失と経費も拡大していることがわかる。キャスパーの2018年の売上高は3億5790万ドル(約394億円)と、2017年の2億5090万ドル(約276億円)から増加した。一方、損失も2017年の7340万ドル(約81億円)から2018年は9200万ドル(約101億円)に膨らんでいる。D2Cからはじまった企業が利益を上げる事業になりうることを、キャスパーが投資家たちに納得させるのは骨が折れるだろう。
以下に、キャスパーが提出したフォームS-1の要点を抜き出し、その行間を読み取って解説を加える。
キャスパーのビジネスの中核にあるのはマーケティング
キャスパーの主張:「当社のブランド名およびイメージは、ビジネスを成長させ、事業の拡大戦略を実行に移すうえで不可欠なものだ。当社のブランドイメージはビジネスの成功に大きく貢献しており、顧客基盤の維持と拡大に極めて重要である。ブランドを維持・強化するには、研究開発、マーケティング、eコマース、顧客体験といった分野に多額の投資を必要とする可能性があるが、これらの投資が実を結ぶとは限らない」。
解説:キャスパーが2018年、営業とマーケティングに投じた経費(1億2350万ドル[約136億円])は、マットレスや枕といった販売製品に費やした経費(1億5780万ドル[約174億円])とほぼ同額に上る。マーケティング費用1ドル当たりの売り上げは3ドルだった。
マーケティングにこれだけ費やす理由は、オンライン販売からスタートしたキャスパーのような企業は、新規顧客を引きつけ、自社の存在を知ってもらうためには多額のマーケティング費用を投じる必要があると認識しているからだ。IPO目論見書(フォームS-1)のリスク要因の項目においてキャスパーは、デジタルマーケティング各種にダイレクトメールとテレビからなる自社のペイドマーケティングは「多額の費用がかかり、コスト効率の良い顧客獲得方法とはならない可能性がある」と警告している。
しかし、新規顧客の獲得に関しては小売への依存度を高めつつある
キャスパーの主張:「顧客は製品をオンラインで調べ、店舗で試し、友人に相談し、カスタマーサービスに問い合わせる。そして問い合わせ先の企業がこのジャーニーを促進してくれることを期待している。当社のマルチチャンネルによる事業拡大は相乗効果をもたらすものであり、また、それらのチャンネルは現在のところ互いを食いあうのでなく、補完しあっていると当社は考えている。実際、2019年の最初の9カ月間(9月30日まで)で、当社のネット直販の売上高は、キャスパーの小売店舗がある都市の成長率が、店舗のない都市を平均で100%超上回っている」。
解説:オンラインのみで成長するのは限度がある。オンラインでしか販売しない企業は、製品をまずはオフラインで試してみたい潜在顧客を遠ざける可能性がある。さらに一部のブランドは、実店舗の小売店を展開するほうが、オンラインのみでマーケティングを行うよりも、ブランド認知を高めるうえでコスト効率が良いことに気づきつつある。キャスパーが指摘するとおり、同社のオンライン売上は、キャスパーの店舗がある都市の成長率が、店舗のない都市を平均100%超上回っている。現在キャスパーは60店舗を展開しているが、今後、北米全体で200店舗以上をオープン可能だと述べている。
D2Cでありながら、キャスパーはAmazonやターゲットといった外部の卸売/小売パートナーから多大な恩恵を受けている
キャスパーの主張:「当社はAmazon、コストコ(Costco)、ハドソンズ・ベイ・カンパニー(Hudson’s Bay Company)、ターゲット(Target)、その他とパートナーシップを結んでいる。もしいずれかの主要パートナーを失ったり、いずれかの主要パートナーが当社の既存製品や新製品の仕入れを減らしたり、あるいは店舗や事業拠点を減らしたり、当社よりも競合他社製品を販促したりすることがあれば、当社の売り上げはダメージを受けるだろう。プレミアムブランドである当社は、パートナーによる当社製品のマーケティングや効果的なディスプレーに売り上げを依存している部分があり、たとえばパートナーの実店舗内に魅力的なスペースや店頭ディスプレーを提供されたり、また彼らのeコマースプラットフォームにおいて、自社製品に魅力的なデジタルスペースを提供されたりすることに左右される。また当社の売り上げは、パートナーが販売員に当社製品を売るためのトレーニングを施すかどうかにも左右される」。
解説:卸売/小売業者がブランドの息の根を止める方法はいくらもある。製品の発注数を減らすだけではない。大幅にディスカウントしたり、競合製品のほうを目立つようにディスプレーしたりすることなども含まれる。だからこそキャスパーのようなD2Cブランドは、店舗内における自社製品のディスプレー方法に関して、もっと自分たちに決定権を与えてほしいと小売業者に要求しているのだ。たとえばブランド専用の小売スペース以外の場所に製品を陳列しない、といったことだ。また、自社製品を購入している人たちについて、もっとデータを提供してほしいとも求めている。
それでも、キャスパーは卸売りへの依存度を高めている。2019年の最初の9カ月間で、卸売りはキャスパーの売り上げの約17.2%を占めており、前年同期の11.8%から増加している。
キャスパーは新たな製品カテゴリーに進出し、顧客の購入機会を増やそうとしている
キャスパーの主張:「当社は、マットレス、繊維製品、寝室用家具など、伝統的な消費者向け睡眠カテゴリーの製品を幅広く扱う一方で、非伝統的なカテゴリーへの注力を強めており、これには照明、サウンド、香り、室温、湿度といった理想的な睡眠環境を促進する製品や、トラッキングデバイス、医療用機器、ベッドサイドクロック、コネクテッドデバイスなどの睡眠テクノロジー、スプレーや錠剤、ビタミン類などの睡眠サプリメント、およびデジタルアプリや瞑想、睡眠改善プログラム、カウンセリングといった睡眠関連サービスが含まれる」。
解説:キャスパーが利益を出すには、顧客にもっと多くの自社製品を購入してもらう必要がある。現在、キャスパーのウェブサイトや店舗を通じて製品を購入した顧客の16%が、再び同社の製品を購入するに至っている。キャスパーによると、これはマットレス業界としては高い繰り返し購入率だという。すでにブランドを認知し信頼している既存顧客の購入回数を増やすことで、キャスパーはマーケティングにかかる費用を削減できるかもしれない。
キャスパーはフォームS-1のなかで、消費者全般が、さらなる睡眠関連製品を購入することに関心を寄せているとする複数の根拠を挙げている。たとえば、ウェルネスや健康関連製品に対する消費者の支出額が増えていることや、ビジネス界の大物やリーダー、アスリートが睡眠の重要性について発言する場面が増えているといったことだ。
しかし、もっとも注目すべきは、サプリメントや瞑想プログラム、睡眠アプリなど、消費者の関心が特に大きいとキャスパーが主張する製品の多くが、繰り返し買い足したり、料金を支払ったりする種類のものだという点だ。これに対し、消費者の多くがマットレスを買い替える頻度は10年に1度。キャスパーはこの1年間で、すでにCBD(カンナビジオール)入りのグミやナイトライトなどを発売している。次の1年間で、同社の標準的な枕やマットレスよりも買い替え頻度が高い製品のラインナップをさらに増やしていくだろう。
Anna Hensel(原文 / 訳:ガリレオ)