顔の横で女優が人差し指を立て、笑顔で人材系のサービス名を連呼するCM。家庭用ゲーム機を有名タレントたちがリビングで楽しそうにプレイするCM。ひときわ目立つカラーのスーツ姿で、印刷系商材と社のキャッチコピーを有名女優が簡潔 […]
顔の横で女優が人差し指を立て、笑顔で人材系のサービス名を連呼するCM。家庭用ゲーム機を有名タレントたちがリビングで楽しそうにプレイするCM。ひときわ目立つカラーのスーツ姿で、印刷系商材と社のキャッチコピーを有名女優が簡潔に述べるCM。
誰もが目にしたことのあるこれらのCMを手掛けたのが、クリエイティブ・ディレクターの北尾昌大氏だ。同氏は、電通でクリエイティブを磨いたのち、英国の大学でMBAを取得、次いでベンチャーキャピタルへ転職し、その後独立と、クリエイターとしては異色の経歴の持ち主であり、時によっては制作の約半分がタクシー広告という、これまた珍しいタクシー広告に精通したクリエイターだ。
ビジネスパーソンにリーチしやすいという特性から、B2B業態と相性がよいと言われてきたタクシー広告だが、近年はB2C業態の広告出稿も増えている。活用の幅が広がっているタクシー広告の魅力とは何なのか。今回は、タクシー広告においてヒット作を生み出し続け、タクシーサイネージメディア「GROWTH」に出稿するCMを数多く手掛ける北尾昌大氏(北尾企画事務所)に、事業の成長に貢献する広告について、加えて今後のタクシー広告の可能性について話を聞いた。
◆ ◆ ◆
――テレビCMと比べて、広告枠としてのタクシー広告の特徴は何でしょうか?
まず、フリークエンシーが高いことです。テレビCMと違って、タクシー広告は特定の人が同じ広告に何度も接触します。次に、クリエイティブが配信される順番(枠/フレーム)が決まっていることです。そして、後部座席に座った目の前にディスプレイがあるという視聴環境。この3つがタクシー広告の特徴です。特に最近はディスプレイが大型化しており、ながら視聴が基本のテレビCMと異なり、プライベートな移動空間で、じっくり視聴される環境となっています。
また、幅広い視聴者層に見てもらえるテレビCMと違い、ターゲットがある程度限定されているところも大きな特徴です。GROWTHの調査によると、都内のタクシー利用者のボリュームゾーンは30歳以上、仕事での決裁権があり、プライベートでも購買力が高く、ある程度生活に余裕がある層が中心となっています。また、GROWTHは港区、千代田区、中央区、新宿区、渋谷区を中心に、約1万1500台のタクシーに設置しているので、そのエリアに居住している人や、オフィスに通勤している人が繰り返し情報コンテンツに接触していると捉えていいでしょう。
高所得層を中心としたビジネスパーソンや意思決定層に繰り返しリーチできるメディアという点で、圧倒的な強みがある。それがタクシー広告の大きな特徴であり、テレビCMとの大きな違いになると思います。
――タクシー広告において最適なクリエイティブとはどのようなものでしょうか?
一番大事なのは、わかりやすいこと。伝えるメッセージを絞り込む必要がありますが、タクシー広告はフリークエンシーが高く、乗客に何度も訴求できるのが特徴であるため、一度で強烈に印象づけるというよりは、何度か見るうちにしっかりと伝わればよいと思っています。また、タクシー広告は画面をオフにできるため、観る人に嫌われないこととわかりやすさのバランスも重要です。
さらに、タクシー広告は放映される広告の数が限られているため、前後のクリエイティブと表現が似通ってしまうことは避けた方がよいと思います。ほかの広告とは明確に差別化できて、印象に残るクリエイティブとはどのようなものか。制作中は、タクシーに乗って座っている状態で、どういうクリエイティブがよいのか、ユーザー視点で考えるようにしています。
「広告は視聴者の貴重な時間をいただいていると思え」という電通時代の教えがありますが、それはタクシー広告も同じです。何度も繰り返し観ることを前提にした遊びや仕掛けを入れつつ、飽きずに観てもらえるようなクリエイティブで、ちょっと知的な喜びがあるぐらいのものが適切だという気がします。
北尾 昌大/株式会社北尾企画事務所代表、 株式会社ants CEO。2000年に株式会社電通に入社し、クリエイティブ・ディレクターとして日本を代表する企業の世界キャンペーンなどを手掛け、100社以上の企業の広告コミュニケーションに従事。その後、Incubate Fundを経て独立し、創業間もないスタートアップ企業のブランディングを中心に事業を展開。2018年には英Leeds大学にてMBA取得した。企業のクリエイティブ・アドバイザーなどを歴任しており、これまで700本以上のCM制作を手掛けている。
――タクシー広告のクリエイティブを作る際に、北尾さんが特に大切だと思うことは何だと考えていますか?
スポットでタクシー広告を作ってくださいという依頼よりも、中長期でクライアント企業と契約し、事業成長のお手伝いを請け負うことが多いです。その活動の一環としてタクシー広告を制作します。
その際には、タクシー広告を実施するタイミングを「祭り」、あるいは「モメンタム(勢い)」と位置付けます。タクシー広告を、業績を上げるためのフックに使うという考え方です。タクシー広告を実施して、ただそれだけで業績があがった! とはなかなかなりません。クライアント企業には、「タクシー広告を配信するタイミングを、全社をあげて一致団結して盛り上げ、投資を回収することが大事だ」と伝えています。
たとえば、タクシー広告配信中の商談では、相手側から「昨日タクシーで広告を見たよ」と言ってもらえたり、こちらからも「タクシー広告を始めたんです」と動画を見せたり、商談の武器のひとつとして商談成功率アップに使えます。タクシー広告配信のタイミングに合わせてLPを変えたり、連動したデジタルマーケティングを展開し、獲得効率を高めたりする必要もあります。こうした一連のイベントの起点とすることもタクシー広告の重要な役割であり、全体を数値化して追いかけていくように取り組んでいます。
もちろんタクシー広告は、幅広い目的で活用できます。だからこそ、クリエイティブを作る前に、目的は何かをきちんとすり合わせることは必須です。リードを取りたいのか、認知だけでいいのか、狙う目的に応じて伝えるべきメッセージとクリエイティブは大きく変わります。認知、ブランディング、興味・関心、獲得と、マーケティングファネル全般に使える広告媒体だからこそ、きちんと目的を明確にしてフォーカスを絞るという作業がとても重要になってくると思っています。
――認知目的で出稿する場合、出稿期間、クリエイティブのパターン数、差し替えタイミングはどのように考えたらいいでしょうか?
当然、長い期間出稿した方が、認知獲得に寄与します。出稿期間が短い場合には、より印象に残る強めのクリエイティブを作らなくてはなりません。
逆に、そこそこの期間出稿するのであれば、繰り返し見てもらうことを前提に、メッセージがわかりやすく伝わることはもちろん、不快感がなく、広告や企業が好かれる設計にするのがよいと思います。
また、長期間にわたって出稿するのであれば、複数パターンのクリエイティブがあってもよいかも知れません。以前私が制作を担当したデジタルコネクトプラットフォームの「ビットキー」のタクシー広告では、掲載枠を1年間購入し、1回の撮影で3本制作して、4カ月ごとに差し替えて配信しました。
――タクシー広告を多く制作したことで、北尾さんの制作スタイルに変化はありましたか?
私はおそらく日本で一番たくさんのタクシー広告を作っているという自負があるのですが、タクシー広告に限らず、映像制作のフロー自体をハックしたいという想いがあり、自分で制作フローのコントロールができる映像制作会社を(株式会社ants)を立ち上げました。
編集室にはGROWTHのタクシー広告を表示しているディスプレイの実物をお借りして設置してあります。テロップの大きさの調整や、音の聞こえ方など、実際にタクシーの車内で見る環境に近い状態を再現してチェックしています。クライアントからも臨場感があると、好評です。企画から制作・納品まで一気通貫で制作できる体制になっていますので、ご興味のある方はぜひご相談ください。
――北尾さんから見て、タクシー広告と相性のいい業種、業界はありますか?
やはり現在もっとも多いB2B企業との相性は抜群だと思いますが、B2Cで言えば、いわゆるラグジュアリーな商品は相性がよいのではないでしょうか。たとえば、高級車やファッション、美容、住まい、インテリア、宝飾品、時計、旅行などは良さそうです。
また、タクシーで帰宅する時には、家の最寄りのコンビニ前で降りて、食べ物や飲み物を買って帰ることがあります。だとすると、コンビニに置いてある商材の広告も意外と相性がよいかもしれません。CPAが高いのがネックになる可能性はありますが、たとえば、コンビニ商品で認知度を高めて、ECのサブスクリプションに誘導したい場合など、戦略によってはマッチしそうですね。
――今後、GROWTHを使ってどのようなことに挑戦してみたいですか?
今、*完全栄養食「BASE BREAD」の動画がGROWTHで放映されており、一部の車両で商品サンプリングを行っています。動画放映だけでなく、+αの仕掛けをすることで、より効果を高める試みなど、これまでにない方法に積極的に挑戦していけたらと思います。
*農林水産省の定める栄養素等表示基準値に基づき、脂質・飽和脂肪酸・炭水化物・ナトリウム・熱量を除いたすべての栄養素で、1日分の基準値の1/3以上を含む。なお、この栄養素とはベースフード社の独自調査により、脂質や炭水化物などを過剰摂取しがちな現代人の食生活を考慮のうえ、健康を維持するために必要な栄養素を選定したもの。
私は、広告クリエイティブを通じて「商品が売れる」「事業が成長する」ことに寄与し、さらなる事業成長のエンジンになりたいといつも思っています。実際、現在請けている案件では、事業戦略からコミットし、事業成長のために必要なマーケティング戦略は何か、広告戦略はどうあるべきで、そのために最適なクリエイティブは? という視点で、広告クリエイティブの企画・制作だけにとどまらず、クリエイティブを武器にクライアントのビジネス支援をしています。
タクシー起点のメディアでいうとGROWTH以外に、「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」という新しい形態のメディアもあります。「東京の街をギャラリーに変える」をコンセプトに、タクシーの後方のサイドガラスに広告を映し出す日本初のモビリティ車窓メディアです。
GROWTHやCanvasを運営しているニューステクノロジー社はこうした新しい技術にどんどん挑戦しているところがとても魅力的で、クリエイターとしてはとても刺激を受けます。新たなメディアが登場すれば、そのメディアに最適なクリエイティブを考えるという挑戦が生まれます。まだ誰も手がけていない新しいメディアで、他社がこぞってマネしたくなるような新しいフォーマットを作ってみたいですね。
Sponsored by ニューステクノロジー
Written by DIGIDAY Brand STUDIO(内藤貴志)
Photo by 渡部幸和
北尾企画事務所への問い合わせはmail(info@kitao.tokyo)またはHPまで。