社会や経済の不確実性が増すなか、ブランドに求められるのは、プロダクトやサービスの価値、それらを届けるメッセージやコミュニケーションに一貫性を保ち続けるブランドインテグリティ(Brand Integrity)の実現だろう。 […]
社会や経済の不確実性が増すなか、ブランドに求められるのは、プロダクトやサービスの価値、それらを届けるメッセージやコミュニケーションに一貫性を保ち続けるブランドインテグリティ(Brand Integrity)の実現だろう。一方で、デジタル広告領域では、不正アクセスなどを引き起こす「アドフラウド」といった問題が深刻さを増している。ブランド価値を毀損しかねない不正問題に向き合うことは、ブランドインテグリティ確立のためにも欠かせないといえる。
では、ブランドの価値と信頼性を向上させ、効果的な広告戦略を実現するために、いま取り組むべきことや、解決すべき課題は何か。こうした問いに対して議論するため、DIGIDAYがチェク・ジャパンと2023年7月4日に都内で開催したのが、「DIGIDAY BRAND INTEGRITY FORUM」だ。
アドフラウド対策を含むデジタルに潜む不正トラフィックを検知・ブロックするソリューションを提供するチェク(CHEQ)は、2016年にイスラエルで創業。イスラエル軍で暗号解読やサイバーセキュリティなどに関わる特殊部隊8200部隊出身のエンジニアを中心に設立されたことでも知られる。チェクのペイドマーケティング向けのソリューションは、不正ユーザーのアクセスをリアルタイムに検知し、二度と不正ユーザーに広告が配信されないようにブロックするのが大きな特徴で、現在は全世界で1万5000社以上が利用する。
同社のソリューションについて紹介したチェク・ジャパンのシニア・ストラテジック・アカウントエグゼクティブ、廣瀬健一氏とともに登壇したのが、サッポロビールのシニアメディアプランニングマネージャー、福吉敬氏だ。サッポロビールでは、チェクのソリューションを活用し、広告効果やブランド価値の維持に取り組んでいる。福吉氏は、イベント参加者との議論をより深めるため、ブランドインテグリティとアドフラウド対策の必要性について、同社での取り組みを交えながら語った。
まず福吉氏は、ブランドインテグリティについて、「ブランドの本質や中心にあるものを守ることを指し、ブランドの一貫性を保つこと。ブランドはファンが作り上げるものであり、ブランドを形成するためには、我々がどのように行動し、どのように見せるかが重要だ」と説明。さらに、ブランドインテグリティの実現には、「自社が見せたいこと、伝えたいことと、お客様が受け取るイメージの一致が必要だ」と語り、その上で「ブランドインテグリティの確保に、チェクが果たす役割は大きい」と強調した。
現在、不正トラフィックの増大を誘発するアドフラウドについては、広告の無駄クリックやリターゲティングへの影響、ボットや不正ユーザーによる購入、偽装予約やクレジットカードの不正利用など、ビジネスにおける影響拡大が指摘されている。チェクのソリューションは、ブランドの広告やプロモーション活動を監視し、ブランドイメージが損なわれる可能性を早期に検知・可視化する。これにより、ブランドの一貫性を保ちながら、ブランドインテグリティを守ることができるのだ。福吉氏は、「自社の広告がどこに出稿されているか、自社で管理・把握できているようで意外とできていないこともある。ブランドインテグリティの確保するためにも、アドフラウド対策は欠かせない」と付け加えた。
ブランドの一貫性を保ちながら、顧客に正しいイメージを伝えることは、ブランドの成功に欠かせない要素であり、そのためにもアドフラウドの問題は避けて通れないことがうかがえる。両者の登壇に続いて実施したワーキンググループディスカッションでは、「ブランドインテグリティを確立するためにブランドが成すべきことを考察する」をテーマに、イベントに参加した有識者や第一線で活躍するマーケターらが、7つのテーブルに分かれて議論を進めた。以下は、ディスカッションで交わされた意見や考えをまとめたものだ。箇条書きで紹介していく。
◆ ◆ ◆
1. アドフラウド対策を進める企業から学ぶ姿勢が欠かせない
- 広告配信について、これまで代理店やメディアプランナーと話をするなかで、CPA(顧客獲得単価)といった指標に関する報告はあったが、「ブランドインテグリティをどう確立するか」といったより上流の話はしてこなかった。また、アドフラウド対策の予算や実際の取り組みも、十分とは言えない状況にある。企業によってはブランドインテグリティの重要性が浸透しており、アドフラウド対策も進んでいる。より進んでいる企業から、学べることが多くある。
- 獲得効率に偏重することなく、改めて広告を出稿する目的とその効果を最大化するための無駄を省く重要性について、ディスカッションを通じて痛感させられた。一方、アドフラウド対策などに予算を回すことで広告出稿のパフォーマンスが落ちる可能性があることについて、社内をどう説得するかも課題として挙がった。
2. 社会全体を巻き込んで、アドフラウド対策を推進できるか
- アドフラウドの問題を、一企業だけで解決するのは現実的ではない。個人やメディア・代理店、国を巻き込んだ社会全体に不利益をもたらす問題としての取り組みが必要ではないか。
- 個人については、アドフラウドに対する理解などリテラシーの向上を図るような施策が求められるかもしれない。またメディア・代理店については、これまでクリックのタイミングなどで発生していたフィーの支払いの仕組みを変える必要があるだろう。
- さらに国に対しては、アドフラウドによって発生する損失を補填する「少額保険」のような仕組みを設けるなど、社会全体でアドフラウドへの対策を推進することが根本解決として望ましい。
3. アドフラウド対策の予算をどう捻出するか
- アドフラウド対策の予算をどう捻出するか、これがなかなか悩ましい。そこに予算を割く代わりに、広告の効率が落ちる可能性があり、マーケティング予算からは出しづらい。そこで考えられるのが、IT予算からの予算捻出。セキュリティ対策の一環としてアドフラウド対策を実施するのが現実的かもしれない。
- サイバー攻撃対策の一環としてアドフラウド対策の助成金があると企業として取り組みやすい。
- 出稿については、ホワイトリストやブラックリストで管理しているケースがある。しかし、いずれにしても問題がないかを定期的に調査する必要があるだろう。
4. 目的の再設定を行う重要性
- 企業ごとに顧客との接点の持ち方は大きく異なる。購入のタイミングやポイントカードの活用などでエンゲージメントを高めていくケースもあれば、子どもの頃から大人になるまでのLTVで測るケースもある。その違いを理解し、経営戦略とKPIなどが正しく設計されていることが欠かせないのではないか。
- 企業ごとの置かれた環境を踏まえて、目的を再設定する重要性を改めて認識した。複数ブランドを抱えている企業では、ブランドごとに投資できるマーケティング予算も自ずと変わってくる。何にアロケーション(配分)するかも「目的」によって大きく変わってくる。
5. 消費者と良いコミュニケーションをとっていた時代から学ぶ
- ブランドインテグリティに大きく関わることのひとつに、デジタル空間がこの20年ほどで変容したことがあるのではないか。インターネットは当初、希望に溢れたものだったはずなのに、いつの間にかさまざまな問題が顕在化するようになった。思いもよらない場所に自社の広告が出稿されるのはその典型であり、その「転換点」はいつだったのだろうかと考えてしまう。
- 四半期ごとの業績開示を義務づけられている上場企業にとっては、株主への還元という観点において、いかに事業が成長しているかを数値で示さなければならないことが多い。その点において、CPAなど数値的な指標が見えるデジタル広告は親和性が高い。ただ、もしかすると、デジタル広告によって数値的面ばかりを追いがちになってきたことが、その「転換点」になってしまったのではないだろうか。これからは、その数字に嘘がないかを見極めることが重要だ。
- インターネット登場前の広告文化を現代に伝えきれていない部分もあるのではないか。素晴らしいクリエイティブが生まれ、消費者と良いコミュニケーションが取れていた時代を振り返ることも必要かもしれない。
6. ブランドを応援してくれる、本当のファンに商品を届けるために
- 参加した企業のなかには、ボットによる大量発注に悩まされている例もある。
- プラットフォームの広告表示とユーザーが求める体験は一致しているのか。グループ内で議論した限りでは、一致しているとは言い難いという声が挙がった。ブランドを応援してくれる本当のファンに商品を届け、そのためにブランドを守っていく重要性を改めて認識した。
7. 課題を可視化することで見えてくるものがある
- デジタル広告を本当に見てほしい人に、適切な場所、適切な価格で出せているのか。またそれができていない場合、実際にどれだけの毀損があるのか。まずはこうした課題を可視化し、認識することが重要であると感じた。課題を可視化することで、かけるべき費用や、媒体社や代理店を巻き込んだソリューションが見えてくるのではないかと感じた。
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ワーキンググループディスカッションでは、広告やコミュニケーションの本質的な目的を再設定する必要性に言及して、それを踏まえた広告費の効果的な配分や投資の重要性、さらには、目的達成のための具体的なアプローチについても意見が交わされた。また、アドフラウド対策に予算をどう捻出するかも議論の対象になっていたことがうかがえる。
福吉氏は議論やプレゼンテーションの内容を振り返り、「ブランドがどうあるべきか、それを実現するために何が課題になっているのか。これを言語化すること欠かせないだろう。さらに、お客さまが誰で、ブランドはその方々にどんなメッセージを伝えたいのかを、今後も掘り下げて考え続け、発信することが望ましい」と総評した。廣瀬氏も、同イベントについて、「同イベントは、異なるバックグラウンドを持つ参加者がひとつのテーブルで意見を交換し、業種を超えてブランドの目的やゴールについて再考することが何より貴重な機会となった。その上で、自社の広告配信の実態とアドフラウドによって自社が把握しているデータが歪められていないかを知り、対策を講じることが大切になってくる」と振り返った。
マーケターたちが今後の改善策やコミュニケーション手段についての議論を行うことで、より良い未来を創造するための取り組みが推進されることを期待したい。
Sponsored by CHEQ
Written by DIGIDAY Brand STUDIO(山田雄一郎)
Photographed by 渡部幸和