YouTube 、「尖った」コンテンツにも広告を開放:ブランドセーフティ感覚に変化の兆し?

ブランドセーフティをめぐって世間の注目を浴びるような不祥事が続いたあと、YouTubeは数年にわたって、問題のありそうなコンテンツに対するハードルを上げてきた。しかし、その広告主寄りの対応は、クリエイターのコミュニティに大きな混乱をもたらし、動画の「収益化ができなくなった」という不満の声が上がった。

ところが最近になって、YouTubeは「尖った(edgy)」コンテンツの隣に広告が出てもかまわないという広告主を対象に、ある実験を試みている。YouTubeのスーザン・ウォジスキー最高経営責任者(CEO)は11月第4週、クリエイターに宛てた四半期ごとの書簡のなかで、こう述べている。「開始からひと月目にして、このプログラムは黄色いアイコン付きの動画に何十万ドル(何千万円)もの広告収入をもたらした」。

ブランド適切性への試み

いわゆる「尖った」動画には、YouTubeのクリエイターツールであるクリエイタースタジオ(Creator Studio)のなかで、広告がまったく表示されない、もしくは制限付きで表示されることを示す黄色いアイコンが付与される。以前の黄色いアイコンは、成人向けのコンテンツという理由で、広告収入がまったく入らない動画を示すものだった。

この試みがより多くの広告主に拡大されるのがいつになるのか、詳細は明らかでない。それでも、この動きが示唆するように、ブランドセーフティをめぐって当初見られた「シャッターをすべて閉じてしまえ」的な恐慌状態は、ブランドの適切さをめぐる議論へと収束しつつあるのかもしれない。

「これはなかなか大きな動きだと思う。というのも、ここ数年、我々はブランドセーフティ絡みの逆風を目にしてきたが、さすがに広告主側に振れすぎではないかという兆候も見られるからだ」と、イーマーケター(eMarketer)の主席アナリスト、ニコール・ペリン氏は指摘する。「そのような認識が見られること、そしてブランドの適切性に向き合う試みが出てきたことは良いことだと思う。すべてのブランドがファミリーフレンドリーや一般向けである必要はない」。

YouTubeは、上記ウォジスキー氏の書簡以上のコメントは控えるとした。

YouTubeの意思表明

英タイムズ紙(The Times)が2017年に「大手企業がテロの資金源に」と題する記事を一面に掲載し、主要なブランドが過激派のコンテンツを扱うYouTubeのチャンネルに、無意識のうちに広告を出していると詳しく報じて以来、多くのマーケターは、いかなる潜在的な隣接事故も未然に防ぐため、ネットでのブランドセーフティに対して単刀直入な措置を講じた。当時、YouTubeをボイコットしたものの多くはその後戻ってきたが、一部の広告主はいまもまだ広範なキーワードやカテゴリーのブロックリストに依存しつづけている。これは、ニュースや政治問題を扱うメディアはもとより、コンテンツのなかで「ショット」や「ファイト」など、禁止用語に指定されがちな言葉を避けられないスポーツ関係のパブリッシャーにとっても、頭の痛い問題だ。なかには、適切なコンテンツまで広範な網の目にひっかかり、不用意にブロックされてしまうことを避けるため、オープンスレート(OpenSlate)のようなサードパーティのサービスを活用する広告主も出てきた。

広告代理店のUMワールドワイド(UM Worldwide)でデジタルとブランドセーフティの最高責任者を務めるジョシュア・ロウコック氏は次のように述べている。「直接的な受益者はエンターテインメント業界とストリーミング業界だろう。具体的には、多様な趣味嗜好を満たすコンテンツを持つ映画、テレビ、音楽などのブランドだ」。UMワールドワイドは「尖った」YouTube動画に出稿するという今回のベータテストにも参加の機会をオファーされたが、この申し出を辞退した。

なかには参加を望まない広告主もいるだろうが(そもそも「尖って」いるか否かは見る人次第で、一部のコンテンツには一線を越えてしまうリスクが常につきまとうのだが)、今回のYouTubeの動きはひとつの強い意思表明と言えるだろう。

インフルエンサーの救済

YouTubeでは、いたずらで互いにしのぎを削るYouTuberたちから、ゲーム内のバイオレンスをある程度は取り上げざるをえない人気ビデオゲームの解説チャンネルまで、「尖った」コンテンツには事欠かない(ウォジスキー氏は先の書簡のなかで、現実世界の暴力とゲーム内の暴力をより効果的に区別するようにYouTubeのポリシーを改訂中であることにも言及している)。YouTubeとしては「アポカリプス」ならぬ「アドカリプス(広告的大惨事)」から抜けだして、抗議の意味を込めてほかのプラットフォームに逃れたクリエイターたちに戻ってきてほしいと願っている。

「今回のYouTubeの動きは、『尖った』広告主をもっと自社のプラットフォームに呼び込むための対応だが、一番恩恵を受けるのは、収益化されないという理由で動画の投稿を停止した、苦悩するインフルエンサーたちだろう」。こう指摘するのは、ソーシャル動画会社ブレーブバイソン(Brave Bison)でオペレーションを統括するクリストス・コンスタンティノ氏だ。「彼らのようなクリエイターを自社のプラットフォームにとどめておけるという意味では、YouTubeは良い手を打ったと思う。こうしたインフルエンサーの多くは、YouTubeのエンゲージメント率を高めてくれる、膨大な数の熱心なチャンネル登録者を抱えているのだから」。

Lara O’Reilly(原文 / 訳:英じゅんこ)