この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。 スティッチフィックス(Stitch Fix)は、主力事業のスタイリングサービスの再構築を進めるとともに、コストを削減する戦略を、新しい […]
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
スティッチフィックス(Stitch Fix)は、主力事業のスタイリングサービスの再構築を進めるとともに、コストを削減する戦略を、新しい最高経営責任者のもとで継続する。
同社は6月、メイシーズ(Macy’s)の最高消費者およびデジタル責任者を務めていたマット・ベア氏を、新しいCEOに任命した。同氏は9月18日月曜日、CEOとして初の決算発表を行い、収益性と成長を取り戻すための計画について具体的に要点を説明した。スティッチフィックスはこの数年にわたって、スタイリングサブスクリプションサービスへの登録なしに多くの買い物客を引き寄せようとした試みに失敗し、多くの逆風に直面してきた。
Advertisement
具体的には、ベア氏やほかの経営幹部はフルフィルメントの拠点を縮小するとともに、英国での営業を段階的に終了することで、コストの削減を計画していると述べる。また同社は、前四半期にマーケティング予算を50%近くも削減した。ベア氏は、主力事業のスタイリングサービスを再び重視することで、既存のクライアントのあいだに愛着心を育てることを主眼にしていると語る。「クライアントへの一貫してパーソナライズされたサービスが、当社の業務の中心だ」。
「我々は、スティッチフィックスの中核的な体験に注力することを決定した。これは、在庫、商品、マーケティングの戦略を変えていくことを意味する。この戦略が定着するまでの時間を確保するため、短期的な収益性とキャッシュフローにも注目した。そのために社内の組織を再構成し、ウェアハウスのフットプリントを固め、英国市場から撤退すると決定した」と、CFOを務めるデビッド・アウフダーハー氏は発表で述べた。
スポールディング氏主導によるフリースタイル型体験
スティッチフィックスはこの数年間に何回も経営陣を入れ替えてきた。コンサルティング企業ベイン(Bain)の元シニアパートナーだったエリザベス・スポールディング氏は2021年にCEOとして指名された。スポールディング氏の指揮のもとで、フリースタイル(Freestyle)のeコマースウェブサイトが取り入れられた。この柔軟なオプションにより、顧客は定期的なスタイリングサービスにサインアップせず、オンライン店舗から商品を購入できるようになった。しかし、このフリースタイルのビジネスの成長と、アクティブ会員を満足させることの両立は、困難を極めた。
2022年9月には、フリースタイルのサイトで買い物をするにはアクティブ会員であることという条件が復活した。そして1月にスポールディング氏はCEOを退任することを発表し、創業者のカトリーナ・レイク氏が暫定的にその地位を受け継ぐことになった。
ベア氏が直面する課題は、スティッチフィックスが資金を失いつつあり、アクティブ会員も減り続けていることだ。2023年度第4四半期の決算発表は9月18日に報告されたが、アクティブなクライアント数は6四半期続けて減少し、2023年には330万人にまで減った。これは前年比で13%の減少だ。そして前四半期と同様、収益は前年同期比22%減の3億7580万ドル(約556億円)にまで低下した。2023年度通期の収益は16億ドル(約2370億円)で、昨年より21%減少した。
英国での営業終了の余波
アウフダーハー氏によれば、米国の5つの倉庫を年末までに3つに統合することが計画されている。「英国での営業の終了と、米国での倉庫の統合によるコスト削減は、年間約5000万ドル(約74億円)と予測している」と、同氏は決算発表で述べた。
ウィリアム・ブレア・アンド・カンパニー(William Blair & Company)の調査アナリストを務めるディラン・カーデン氏は、厳選したボックスを毎月発送するというモデルは、アパレルの分野ではニッチに留まっているという現実は変わらないと語る。さらに、より柔軟なショッピング体験を提供するという試みは、顧客の獲得や維持につながらなかった。
「依然として収益の20%減少が続いている」と同氏は述べ、昨年におけるアクティブな顧客の急激な減少に言及した。一方で、スティッチフィックスは2023年度を銀行への負債なし、2億5760万ドル(約381億円)のキャッシュフローで終え、調整済みEBITDA(利払い、税引き、減価償却前の利益)は1040万ドル(約15億4000万円)だった。買い物客の広範なデータが、まだ新しい収益源として活用されていないと、同氏は付け加えている。
2024年に向けて、英国でのビジネスからの撤退により、顧客の減少は続くと見られている。ウェドブッシュセキュリティーズ(Wedbush Securities)の普通株調査担当シニアバイスプレジデントを務めるトム・ニキック氏は、米国でのユーザーの減少について、第4四半期から改善されると期待しているが、「英国で顧客ベースから18万人の顧客を切り捨てることにより、さらに逆風は強まるだろう」と覚書に記している。
ベア氏は、クライアントとスタイリストの関係についても再び重視したいと決算発表で述べ、「スティッチフィックスのスタイリストとクライアントとの関係は、当社は何者で、何を表現しているのかという部分において極めて重要で不可欠なものだ」と強調した。しかし、パンデミック以後にスタイリストを何回もレイオフしたことや、スケジュールの変更によって大勢が一斉に退職したことから、このタスクはさらに困難なものとなった。
主力事業への資源集中
利益率を改善するためコスト削減に取り組んでいるeコマースアパレル新興企業はスティッチフィックスだけではない。レントザランウェイ(Rent the Runway)も収益性の実現をめざし、営業損失を減らすため経費を削減している。昨年、従業員の24%をレイオフし、今月初頭には通期の収益予測を以前の予測より10%ほど少ない、約2億9640万ドル(約439億円)に減らしている。また、将来の配送料率をUPS(United Parcel Service, Inc.)とのあいだで固定するなど、運用効率を向上する戦略を強調している。
スティッチフィックスの経営幹部は、主力のサービスと利益率の改善に注力してモデルの再構築に取り組んでいると語る。しかし、顧客がファッションやそのほかの必需品ではないカテゴリーへの支出を控えているなど、多くのアパレル小売業者が現在直面している逆風を乗り切りながら、それを達成するのは容易ではないだろう。
「スティッチフィックスが市場で独占的なシェアを握るような状況は起きないだろう。ここまで成長しただけでも十分な称賛に値する」と、カーデン氏は述べている。
[原文:Stitch Fix’s new CEO plans to cut costs and refocus on the company’s ‘core’ styling experience]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)