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コロナワクチン 輸送、小売の配送にもたらす影響とは?:「場所を取られることもあり得る」

米国内で新型コロナウィルスのワクチンが供給され始めたが、ワクチン輸送に必要なロジスティックスが、他の製品の出荷に影響するのではないかと疑問視する専門家もいる。

ウィスコンシン州では酪農業界が、ワクチンが大量に出荷された場合、世界への出荷に支障が出る可能性があると警戒している。冷蔵製品を運ぶ航空会社は、容量制限を通常の5倍に増やすことを要請し、米連邦航空局(FAA)から注意を促されている。欧州では運送業者が、ワクチン向けの余地を確保するために出荷が取り消しになったと主張している。

米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に答えた物流の専門家たちは、 2020年春に世界が体験したような大幅な遅延や不足の懸念を明らかにはしていない。小売企業も物流企業も同様に、3月にeコマースの注文ラッシュが起こったときよりも、ワクチン輸送の増加への備えができている。だが、ワクチンと同様に冷蔵設備が必要となる食糧品について、特に冷蔵設備チェーンのスロットを争うリソースを持たない中小企業にとっては、小規模な出荷の遅れや価格の上昇が問題にならないとは言えないかもしれない。

オハイオ州立大学で物流を専門とするテリー・L・エスパー教授は、「業界の一角が急成長し、キャパシティの一部を占めるようになると、現実的な懸念があるのではないかと思う」と述べる。

不安の理由のひとつは、パンデミック以前のワクチン出荷が「コールドチェーン」のごく一部を占めていたに過ぎないことがある。コールドチェーンとは、温度管理を必要とする製品輸送についての業界用語だ。医薬品はコールドチェーン出荷の約15%を占めており、ワクチンの割合は通常、そのなかの35%に過ぎないとエスパー教授はいう(医薬品分野における他の製品には薬物や治療薬が含まれる)。

医薬品以外のコールドチェーンの残りの85%は「主に食品流通だ」と、エスパー教授は話す。今後数カ月間に医薬品が占める割合が膨らんでいくと、打撃を受けるのは食品だ。世界規模でみると、新型コロナウイルスワクチンの出荷量は、通常のインフルエンザワクチンの出荷量の倍になるだろう。専門家は、インフルエンザワクチンは通常64億回分必要とされるのに対して、新型コロナウイルスワクチンは世界で120億~150億回分が必要になると予測している。

ワクチンとコールドチェーンの関係

新型コロナウィルスのワクチンがどれも同じというわけでもない。モデルナ(Moderna)製ワクチンとファイザー(Pfizer)製ワクチンの大きな違いは温度管理の要件だ。ファイザー製ワクチンは摂氏マイナス70度で保管する必要があるのに対し、モデルナ製ワクチンの保管温度は摂氏マイナス20度だ。どちらの温度もインフルエンザワクチンの保管温度である摂氏1.6度~7.8度よりはかなり低い。だが、これら3種類のワクチンはすべてコールドチェーンに含まれると見なされる。超低温保管の製品と通常の冷蔵保存の製品を分ける物流ネットワークは存在しない。違う点はただパッケージの仕方だけだ。ファイザー製ワクチンはドライアイスを詰め込んだ大型コンテナに保管されるため、当初はドライアイスが不足する恐れがあったが、今は解消されている。出荷は他の冷蔵製品と一緒にされる。

コールドチェーン自体でさえ、その響きから連想されるより穴が多い。コールドチェーンとは、個々の荷物の取り扱い方や輸送方法のことであり、独立した輸送システムを表すわけではない。モデルナのパートナー、マケッソン(McKesson Corporation)のように、冷蔵保存ワクチンの輸送を専門とする独立系企業はあるが、コールドチェーンの製品は多くの場合、他の出荷品とごちゃ混ぜにされてしまう。「他のあらゆるものと共に出荷される」と、エスパー教授はいう。たとえば、冷蔵製品、特に医薬品は、民間機の機内で荷物と一緒に輸送されることが多い。宅配トラックも同様で、稀に家具などと同じ車両でコールドチェーン製品が輸送されることがある。

つまり、氷点下の温度を必要としないワクチンでさえ、他の製品の場所を取ってしまう可能性があるということだ。物流ソフトウェアプロバイダー、グローバルトランス(GlobalTranz)でカスタマーソリューション担当バイスプレジデントを務めるデビッド・コミスキー氏は「UPSやフェデックス(FedEx)の車内スペースをこれらが取ってしまうこともあり得る」と話す。「ワクチンがメイシーズ(Macy’s)からの荷物より優先される」可能性はあるが、コミスキー氏は、「家庭向けの配送の遅れが出ているとは聞かない。いまはいつもよりたくさんの荷物が配送される時期だ」と述べる。

影響への備えを進める小規模ビジネス

こうした出荷問題は、中小企業をもっとも苦しめそうだ。州政府や食料品チェーンのような大規模なコールドチェーン利用者は、ドライアイスや冷蔵製品の出荷枠を確保するのにそれほど苦労しないだろう。しかし、全米を出荷先とするアイスクリーム屋のような小規模企業は、ピンチを感じることになるかもしれない。「アクセスを得るという点で、彼らがどのような位置付けになるかはわからない」と、エスパー教授はいう。

小規模ビジネスのなかには、最悪の事態への準備をすでに進めているところがある。ウィスコンシン州チーズメーカー協会(Wisconsin Cheesemakers Association)は公開書簡のなかで、ワクチンに必要とされる「計算できない量のドライアイス」が、州内の酪農製品の製造・販売ビジネスに混乱を来す可能性があると述べている。協会は、「酪農業界で利用するために、週あたり約159トンのドライアイスの確保」を要望した。

物流の混乱は、仮に発生したとしても、おそらく小規模なものになるだろう。もっとも可能性が高いのは小規模ビジネスで、たとえば米国内でアイスクリーム容器を出荷するのに、通常よりも時間がかかり、いつもより多くお金を払わなければならないことが考えられる。ドライアイスが人気の理由のひとつは、代替品よりもはるかに安いことだ。だが、ドライアイスが不足した場合、企業はより高価な冷蔵出荷の方法を選択しなければならないかもしれない。

冷蔵品や冷凍品の輸送ビジネスなどを手がける企業の多くが、パンデミックを乗り切るためにオンライン注文に頼るようになっている。自分が心配しているのはそうした企業だ、とエスパー教授はいう。「彼らが生き残れるかは、多くの点で、オンライン販売の品を配送する能力にかかっている」と、エスパー教授は語った。

[原文:‘They could start taking up space’: How vaccines could impact retail shipping

MICHAEL WATERS(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)