北欧の大手パブリッシャーであるシブステッド・メディア(Schibsted Media)がペイウォールの導入をはじめて15年が経つ。同社の発表によると、シブステッドは紙媒体とデジタル版を合わせて100万以上のサブスクライバーを抱え、メディア部門の収益の40%を読者からの売上が占めている。
北欧の大手パブリッシャーであるシブステッド・メディア(Schibsted Media)がペイウォールの導入をはじめて15年が経つ。同社の発表によると、シブステッドは紙媒体とデジタル版を合わせて100万以上のサブスクライバーを抱え、メディア部門の収益の40%を読者からの売上が占めている。
シブステッドの目標は、2020年までに読者から1億ユーロ(約129億円)の売上をあげることだ。そんな同社だが、月間の解約率は9%となっており、維持率が問題となっている。
維持率を高めるに
去る10月31日にロンドンで行われた、AOP(アライアンス・オブ・オンラインパブリッシャー)のイベントで、シブステッド・メディア・グループで製品管理ディレクターを務めるシャスティ・ソーニュース氏は、「利益はコンバージョンで得られるわけではなく、得た客を維持することで得られる。毎月、マイナス9%からスタートするとなれば、これはやはり大きな損失だ。購買にともなうユーザー体験が、無料でのユーザー体験よりもはるかに優れていると感じさせなければならない」と語っている。
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維持率を高めるため、シブステッドはどういうときに解約が行われるかを予測し、より主題に特化したカスタマージャーニーモデルを構築して、どのようなコンテンツが客の引き止めにつながるのかを把握しようと努めてきた。
同社傘下でスウェーデンの日刊紙であるスベンスカ・ダーグブラーデット(Svenska Dagbladet)は、5万7000人のデジタル版のみの購読者を抱えており、コンバージョンにつながるコンテンツ(世界での出来事などの、知る必要のあるニュース)と、引き止めにつながるコンテンツ(芸術作品のレビューなどの必ずしも必要ではない情報)は異なることを発見した。それにともない、同社は複数部門にまたがって1種類のコンテンツを担当する編集者を2人雇用している。
それにより異なる視点や異なる種類のコンテンツをまとめてひとつの記事にするという、部門間での協力関係が醸成された。たとえばスウェーデンの住宅市場についての一連の特集を行った際には、事業部門が金融面の分析を、芸術文化デスクが心理面の分析を行った。世界新聞・ニュース発行者協会(World Association of Newspapers and News Publishers)の読者収益レポートで、同紙はこの結果として、人気記事が前年度と比べて倍増したと記述している。
最新性、頻度、量
シブステッド・メディアでB2Cコンシューマービジネスディレクターを務めるバード・スカー・バイケン氏によると、購読料の支払い回数が1回以下の購読者の解約率は、3回以上支払いを行っている購読者と比べて2.5倍になっているという。同氏は「サブスクリプションにおいて最初の100日は極めて重要だ。今年、当社はこの期間を最適化するため40以上の実験を行った」と語る。
最新性、頻度、そして量。支払い意欲と解約に関連している要素はこの3点だ。また、ほかのサブスクリプションを実施しているパブリッシャーと同様に、シブステッドもまたカスタマーに対して再びメールを送り、解約を防ぐ試みを行っている。一定期間内にサブスクリプションを解約する兆候を見せた購読者に対して、自動的に、サブスクリプションを割引価格で延長するオファーを提示しているのだ。それ以外にも、カスタマーサービス担当がこうしたオファーを提示しやすくするため、購読者の横に緑、黄、赤のフラグを記載している。
同紙は解約手続きを煩雑化したり解約の取りやめを求めたりといった手段はとっていない。だが解約手続きはシンプルでありながらも、手続きを開始した購読者のうち10から15%の引き止めに成功している。
北欧には、ニュースは有料で手に入れるものという伝統が存在する。ロイターによるデジタルニュース調査の対象となった各国のうち、昨年オンラインニュースを購読した人の割合がもっとも高かったのはノルウェーとスウェーデンで、その割合はそれぞれ30%と26%に達する。これはイギリスの7%とは対照的だ。
一致団結できる精神性
昨年、シブステッドは部門の垣根をこえて、グループ全体でサブスクリプションを増やし、維持率を高めるためのチームを新たに立ち上げた。このチームはコンシューマービジネス部門のシニアバイスプレジデントを務めるトール・ヤコブセン氏が率いており、同社のサブスクリプションを行っている各紙のコンシューマービジネス部門のトップと、財務部門、人事部門、商品部門、技術部門、戦略部門、印刷部門から人材を集めたチームとなっている。
戦略マーケティングコンサルタントを手がけるサイモン・クチャー&パートナース(Simon-Kucher & Partners)でディレクターを務めるグレッグ・ハーウッド氏は、シブステッドのデジタル版の月間解約率である9%は市場平均と比べると良い数字だと指摘したうえで、次のように述べた。
「シブステッドはカスタマーライフタイムバリューを重視するようになっている。解約を完全に防ぐ魔法は存在しない。結局のところ、データを重視してカスタマー体験を向上させ、金を払うだけの価値があると感じさせるほかにないのだ。単に良いパブリッシャーチームと、素晴らしいパブリッシャーチームを隔てるのは、組織全体に目標のために一致団結できる精神性を植え付けられるかどうかであり、それこそが成功のための重要な条件となっている」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:SI Japan)