新規上場企業「ヒムズ&ハーズ・ヘルス(Hims &Hers Health)」は6月24日、テレダーマトロジー(皮膚科の遠隔診療)プラットフォームを買収した。ヒムズがアポストロフィーに関心を持ったのは、物理的なプロダクトの垂直統合型での開発、フルフィルメント(受注から発送までの一連の業務)、調合などという。
新規上場企業「ヒムズ&ハーズ・ヘルス(Hims &Hers Health)」は6月24日、テレダーマトロジー(皮膚科の遠隔診療)プラットフォーム「アポストロフィー(Apostrophe)」を買収した。買収額は公表していない。
アポストロフィーの前身は、2012年に皮膚科と患者のマッチングプラットフォームとして立ち上がった「ヨー・ダーム(YoDerm)」だ。その後リブランディングを実施し、2019年7月に遠隔診療の事業モデルへと移行した。ヒムズは6月14日にも、薄毛関連の製品を製造・販売する「オネスト・ヘルス(Honest Health、本拠地ロンドン)」を買収している。
ヒムズが関心を持った理由
ヒムズと、その姉妹ブランドであるハーズは既に、にきび治療やアンチエイジングに効果的なトレチノインやクリンダマイシンを処方するなど、テレダーマトロジーのサービスを提供している。アポストロフィーでもこのような処方薬に加え、処方用量のハイドロキノン、スピロノラクトン錠、経口用の抗生物質なども提供している。ヒムズと比較すると、アポストロフィーの強みは薬局とのネットワークを活かした診療、そして内服薬や外用薬の製剤にあると語るのは、ヒムズのCEOであるアンドリュー・デューダム氏だ。
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「遠隔診療は両ブランドともインフラとしてすでに備えているため、ヒムズがアポストロフィーに関心を持ったのはその点ではない。物理的なプロダクトの垂直統合型での開発、フルフィルメント(受注から発送までの一連の業務)、調合などである」とデューダム氏は語る。
アポストロフィーの収益も患者数も、四半期ごとに倍増していることを以前GLOSSYで報じた。2020年の第1四半期から第2四半期のあいだに、収益は145%増を記録。2019年12月には600万ドル(約6.6億円)ものシードラウンド(スタートアップ時期の資金調達)を実施した。アポストロフィーのCEO、ベン・ホルバー氏は最近の収益や加入者数について公表していない。
テレダーマトロジー企業としてイグジット(投資回収)を早々に果たしたアポストロフィーの買収劇は、キュロロジー(Curology)、ミューズリーRX(Musely RX)、そしてデイビッド・ロートシャー医師(キュロロジーの共同創業者)が4月に立ち上げたエージェンシー(Agency)などのほかのブランドに起こり得る未来を予感させる。
一方のヒムズは2020年10月、SPAC(特別買収目的会社)との合併によって公開された。5月に発表した2021年第1四半期の決算報告によると、その時点での会員数は事業全体で39万1000人(前年比79%増)、収益は5,230万ドル(約57億円:同74%増)であった。ただし、EBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)はマイナス860万ドル(約9億4800万円)で、前年(マイナス460万ドル[約5億700万円])よりも損失が大きくなっている。
遠隔診療における最大の成長機会
「D2Cの遠隔診療が出てくる前は、スキンケアとダーマトロジーの間には明確な違いがあった。スキンケアはドラッグストアの棚に並ぶもの、ダーマトロジーは皮膚科の診療所で入手できるものだった」とホルバー氏。「今日のスキンケア商品の消費者は、テレダーマトロジー(遠隔医療皮膚科)の会員でもあり、その両方で得られる体験に高い期待を寄せている。スキンケアとダーマトロジーの曖昧な境界線は、両者がほぼ完全に重なるまで、ますます曖昧になっていくだろう」。
今のところ、ヒムズ&ハーズとアポストロフィーは別会社、別ブランドとして運営していくとデューダム氏は語る。だがヒムズは2020年4月に、ターゲット(Target)の約1800店舗でOTC医薬品(市販薬)の販売を開始しており、この動きにアポストロフィーの事業を合流させる可能性はあるという。ヒムズは他企業の買収についても前向きに検討しているというが、具体的な社名は挙げなかった。ヒムズのチームは「毎月10~20社ほど」の候補企業と会っており、買収が理にかなうと判断した際には、素早く獲得に動くという。
「ヒムズもアポストロフィーも、ダーマトロジーは遠隔診療における最大の成長機会のひとつだと捉えている。デジタルヘルス領域のコンシューマライゼーション(一般消費者向けに普及していくこと)に向けたパラダイムシフトの、今は初期段階にあると考えている」とホルバー氏は語る。
[原文:Hims acquires teledermatology company Apostrophe]
EMMA SANDLER(翻訳:田崎亮子/編集:山岸祐加子)