美容とファッション分野のインフルエンサーに大きな影響を与えた出来事はTikTokの急激な台頭だ。それに伴い、私たちのコミュニケーション方法やインフルエンサーに求めるものが変化している。ミレニアル世代、とくに「つくる」ことを仕事とし、インスタグラム上で行ってきたクリエイターにとってこれは何を意味するのだろうか。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
Covid-19が私たちの生活や世界を突然変えてから、2年が経とうとしている。多くの人にとって、この2年間ははかりしれないほどの孤独な期間となったが、人とのつながりやコミュニティの感覚を求めてソーシャルメディアに目を向けることで、少なくとも部分的には孤独感を緩和してきた。 要するにバラ色のメガネで世界を見るような時期ではなかった。Covid-19の数え切れないほどの影響は、いずれ本に記されるだろう。だが、美容とファッション業界、そして両分野のインフルエンサーにもっとも関係が深い出来事だったのは、TikTokの急激な台頭だ。それにともない、私たちのコミュニケーション方法や私たちがインフルエンサーに求めるものが変化している。 ざっくりいうと、コメディの余地が増え、完璧であることを求める余地は減った。カメラの前で泣いてもいい。そして一部の領域では、フラットレイ(物を平に並べて上から俯瞰で撮影した写真)は終わったと言ってもいい。 ではミレニアル世代、とくに「つくる」ことを仕事とし、それをすべてインスタグラム上で行ってきたクリエイターにとって、これは何を意味するのだろうか。 その答えは複雑だ。
インスタグラムとTikTokの決定的な違い
TikTokがインフルエンサー文化を完全に民主化したかのような印象を与えてしまう前に、残念ながらそうではないことに留意しておくことが重要である。2021年のこのアプリの上位収入者は、いまだに痩せていて白人という従来通りの魅力的なインフルエンサーが主だ。アディソン・レイ氏やチャーリー・ダミリオ氏などがその代表である。 それでも全体的にTikTokはよりリアルな生活を描き出している。その大きな理由は、Z世代が不完全であることや感情をあらわにすることを恐れないからだ。 30歳のタリア・ルブラン氏は、過去10年でさまざまなソーシャルメディアプラットフォーム上にコンテンツを作成してきた。インスタグラムのフォロワー数は2万2000人を少し超える程度だが、2020年6月以降、彼女のTikTokのフォロワー数は48万7000人にまで膨れ上がっている。
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@thalialeblanc You gotta have personality and be real to be here and thrive.
ルブラン氏のことを知ったのは、かなり多くのインスタグラムのインフルエンサーがTikTokにうまく移行できていない理由について、彼女が自分の考えを述べている動画だった。そこでZoom経由でこのテーマについて彼女とさらに話し合うことにした。「インスタグラムの大物クリエイターの多くは、認証済みのクリエイターやその界隈の元祖といわれる人でさえも、TikTokに移行するのに苦労している。理由は単に完全に異なるプラットフォームだからだ。TikTokでは、これまで以上に本物らしさや透明性、弱さが要求される。インスタグラムでは、とくにビューティやファッションのクリエイターは完璧にキュレーションされた美しいフィードを作ることにあまりに慣れすぎてしまっている。インスタグラムはすべての投稿が完璧に計画されている。グリッドがどのように見えるかを計画するアプリすら存在する」と彼女は指摘した。
プラットフォームによって求められるスキルが異なる
もちろん、インスタグラムを拠点にしているインフルエンサーで本物らしさがある人がいないわけではない。ただTikTokが求めるスキルとは異なるものを持っているというだけかもしれない。ニコレット・メイソン氏(インスタグラムのフォロワー数21万1000人)は、2008年からブログを始め、インスタグラムは2010年のローンチ以降ずっと利用している。彼女はひとりの消費者としてTikTokが好きだし、とくにこのプラットフォームでのファッションや美容業界の批評のファンだという。かつての「多くの長編のメディア」の役割をTikTokが担うようになった、と彼女は指摘している。「(コンテンツは)いまや3分間のすばらしい動画にまとまっている」。 しかしクリエイターとしては「TikTokは明らかに、少なくともまだ私のプラットフォームではない。そのことはかなり自覚している。その理由の多くは、自分に執筆と出版の経歴があるからだ」と彼女は言った。メイソン氏はマリ・クレール(Marie Claire)誌で5年間コラムを連載していた。「動画、動画編集、録音は必ずしも私のスキルではない」。
すべてのプラットフォームの均質化は害悪でしかない
インスタグラムがクリエイターにリールを押しつけて、ますますTikTokを模倣しようとしていることも当然ながら助けにはならない(同アプリはアルゴリズムによってリールを優先させている)。メイソン氏によると、彼女がリールを作ってもうまくいかないことが多かったり、オーディエンスが見たいと思うようなものではないという。「すべてのコンテンツを均質化し、プラットフォームを似通ったものにしようとするプレッシャーや慌ただしさは、クリエイターに害を及ぼす。また、必ずしも同じタイプのコンテンツを求めているわけではないオーディエンスにも害を与えている」。 インフルエンサーマーケティングエージェンシーのダイアローグニューヨーク(Dialogue New York)の創設者でCEOのジュリアン・フレイザー氏は、TikTokで共感を呼ぶのは「リアルさ」だという意見に同意した。「TikTokはクリエイターコミュニティからの、よりリアルで親近感のある本物のコンテンツを求める声に応えてパンデミック時に台頭した」と彼女は述べた。「インスタグラムの磨かれた憧れの強いコンテンツーー自宅にこもって冒険的な生活ができなくなった人々が反感を持つようなものーーとは方向性が大きくそれていて、(その代わりに)TikTokの動画はクリエイティブなフォーマット、ユーモアのあるトピック、親近感があってリアルであることでバイラルになっている」。
架空のキャラクターで一躍人気に
メガインフルエンサーのクリセル・リム氏は、TikTokでのフォロワー数(280万人)がインスタグラムのそれ(140万人)を超えた数少ない「元祖インフルエンサー」(彼女は2011年にブログを開始した)のひとりだ。それは彼女がこのアプリで時々演じている、遊び心のある架空の「リッチママ」というキャラのおかげでもある。 「私はつねに好奇心旺盛なので、いつもアーリーアダプターだ。だからTikTokもすぐにダウンロードした。そしてとにかく試してみたところ『OK、これはクールだ。でも今すぐこれにコミットできるかはわからない』と思った。しかしファッションウィークに行ったとき、ちょうど世界がシャットダウンされる前の2020年2月だったのだが、爆発的に自分が話題になった」とリム氏は振り返る。「(TikTokの子たちは)私をリッチママと呼んだ。TikTokのコミュニティは、インスタグラムでの私のことは知らなかった。それで『このリッチママはいったい誰? なんで彼女はファッションウィークにいるの? 』って」。リム氏いわく、猛スピードで何千ものフォロワーを獲得したという。 それをとても愉快だと思った彼女は、「ただそのままいくことにした」という。「パリの街角で私を見かけたときなどに、子どもたちはいまだに私のことをリッチママと呼ぶ。それがTikTokでの私の名前みたいなもの」と彼女はアプリの威力について語っている。 「ロックダウンになったとき、そのリッチママの物語を採用して1年ほど笑えるスキットを作り上げた。人々は皮肉のこもったエンターテインメントを欲していたし、笑いを求めていた。それをやるのは簡単だった。なぜなら私はバカだから、ありのままの自分でいればよかった。みんなおもしろいと思ってくれたみたいで、Covid-19の際にそれがウケた」と彼女は言い、それ以降はそのペルソナはほとんど捨てたという。
完璧であることをやめて純粋に楽しむのがカギ
それでもリム氏は自分が成功した要因は、純粋にみずから楽しんでいたことだという。「それがカギ。自分が楽しめて、あまり深く考えずに気楽でいられるなら、それこそがTikTokが求めているものだ。何時間もかけてキュレーションするよりも、自分らしさが出ているかどうか、そこに本物らしさがあるかどうかの違いは本当にわかる。ほとんどの場合、時間をかけてもTikTokのオーディエンスには共感されない。私のベスト動画のいくつかは、カメラのスイッチを入れてただ話しているだけのもの。でも何百万回と視聴されているのは、それが本物だからだ。そこがインスタグラムとくらべて、TikTokのフォロワーを増やすことができるかどうかの大きな違いだ」。 マインドセットの切り替えが必要だと、リム氏は続けた。「インスタグラムをあまりに長くやっていると、『これをどうキュレーションするのか? 』といった具合に、自然に気持ちがパーフェクトなものを求めるようになる。だからこれまで学んで来た多くのことをきれいさっぱり忘れて捨て去る必要がある。多くの元祖クリエイターにとってそれをやるのはむずかしい」。
注目の製品
今週は、バービースタイル(Barbie Style)の新コレクションのすべてを紹介。このカプセルのために、バービースタイル(バービーのアイコニックなスタイルセンスを称えるインスタグラムアカウント、フォロワー数220万人)は、6つの女性創業ブランドと提携した。製品に含まれているのは、最高にキュートなバービーピンクのラルード(Larroudé)のヒールとおそろいのクラッチバッグ、AAPIが運営するネッテ(Nette)の「ドリームランド(Dream Land)」という名前にぴったりの、ピンク色のかわいい容器に入ったキャンドル、ダドリースティーブンス(Dudley Stephens)のホットピンクのフリースなど。そして何よりすばらしいことに、マテル(Mattel)はこのコレクションの売上の5%をドリーム・ギャップ・プロジェクト(Barbie Dream Gap Project)に寄付する予定。
セレブリティブランド最新情報
3月の第1週目はひとつでもふたつでもなく、3つの「セレブリティビューティブランド」がローンチした。スカーレット・ヨハンソン氏のジ・アウトセット(The Outset)については、Glossyでも紹介している。3月3日には、グウェン・ステファニー氏の新しいメイクアップブランドGXVEがSephora.comにデビューし、3月2日にはスーパーモデルのウィニー・ハーロウ氏がケイ・スキン(Cay Skin)をローンチした。ケイ・スキンのSPF製品のコレクションは、今月末にセフォラ(Sephora)で発売される予定。 [原文:Glossy Pop Newsletter: Why OG influencers struggle to transition to TikTok] SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)