ハースト、「バイラル狙い」の方針から距離をとる:規模拡大からエンゲージメントへ

ハーストマガジンデジタルメディア(Hearst Magazines Digital Media)ではこれまでデジタルにおける規模拡大を合言葉にしてきたが、原点となる報道に立ち返ろうとしている。

同社のシニアバイスプレジデント兼論説員のケイト・ルイス氏によると、2017年1月の同社の上位50の記事のうちで、調査やレポートが多少なりとも含まれた記事は1つだけだったという。残りの記事のほとんどはTwitterの反応やニュースを簡単にまとめただけだった。たとえばヘビの写真「ミディアムレア」な鶏肉のレシピといった記事が人気を博した。

だが、同年12月に、ハースト社の上位50記事が調査や独自のレポートで占められていることにルイス氏は気がついた。その後もその傾向はつづき、2月にも上位50記事のうち24記事が調査やレポートの記事だったという。最近の記事で特に人気だったのが、オリンピックでビヨンセのメドレーを曲に選んだフィギュアスケート選手「ブレイキング・バッド」のオーラル・ヒストリーだ。

「当社の配信形式からすれば大きな変化だ。だが、当社はいかに読者の求めるものを届けるかを考えて隅々まで構成されている。そしてどのような分野であれ、独自の情報や視点をもつ記事がより読まれていることがわかった」とルイス氏。

ハーストの優先事項

5年前のハースト優先事項は、コスモポリタン(Cosmopolitan)やエル(Elle)、エスクァイア(Esquire)などの印刷雑誌のポートフォリオと、共同作業でより多くより速くコンテンツを生み出すことだった。その実現のため同社はルイス氏を中心とした新しいデスクを作り出し各タイトル間での共有関係を強め、寄稿者同氏のネットワークを確立した。実際にこの戦略はうまくいき、コムスコア(comScore)によると2014年初頭から今年2月にかけてトラフィックは3倍に増加し、月間ユニークユーザー数は9100万人に達している。

ハーストは、これからも規模拡大が重要な目標であることに変わりはなく、今後も素早く仕上げた記事を配信プラットフォームごとにカスタマイズして配信し続けていくという。だが同社はそれ以外に、費やした時間や行動、たとえばほかの記事を読んだかどうか、といった指標にも注目しているという。

ルイス氏によると、読まれている記事の種類の変化にともないユーザーの滞在時間もまた長くなっているという。インタビューではポートフォリオ全体での具体的な数は知ることはできなかったが、ハーストで最大のウェブサイト、デリッシュ(Delish)では11%の伸びを記録しており、ほとんどのウェブサイトはそれに近い伸びとなっているという。さらに、より小規模なウェブサイトのタウン&カントリー(Town & Country)では53%もの伸びを記録している。サイト内の滞在時間が伸びたほかの原因に、動画をはじめとする視覚的な要素を増やしたことや記事内での投票を導入したことなどが挙げられる。コムスコアによると、ハーストのネットワーク全体を通じた月間ユニークユーザー数は、昨年2月の7900万人から今年2月には9200万にまで増加している(この間、ハーストは記事の数を減らしていないことについても言及すべきだろう。そのなかで複雑な記事を書き上げるのは容易ではなかったのではないか。デジタルパブリッシングには困難がつきまとう)。

オリジナル記事の重要性

ルイス氏は、こうしたより本質的な記事へと移行した理由について次のように述べている。まずSnapchat(スナップチャット)やAppleの「News」といったアプリにより、ニュースや情報を提供する手段が多彩になっており、読者が期待する記事の質が向上したこと、そして昨年秋につぎつぎに起きた#MeTooや自然災害、ラスベガスの銃撃事件といったニュースにより、差別化を余儀なくされたことだ。ハーストでデジタルニュースディレクターを務めるケイト・ストーリー氏は、ハーストはより多くの記者を現場に送り込んで取材させるようになっていると語る。たとえば韓国に記者を送り、デジタルブランドのためにオリンピックの取材をさせたこともそのひとつだ。

「あまりにもたくさんのことが起きて、現場に記者団を送り込むことをしていない当社は戦略的に熟慮する必要に迫られた。それは当社が追い求めるべきものとは異なっているという認識が我々のなかにあったからだ。いま、インターネットではかつてないほどノイズが大きくなっている。それを打破するにはオリジナルなコンテンツやユニークな視点の記事が求められる」と、ストーリー氏は語る。

安上がりなコンテンツ上のデジタル広告の売上が低下するなか、ハーストもほかのデジタルパブリッシャーと同様に、滞在時間といった指標をスケールより重要視している

エージェンシーの視点

エージェンシーDWAのボストンのゼネラルマネージャーを務めるジェレミー・テイト氏によると、マーケターもまた、エンゲージメントの量より質を求めるようになりつつあるという。これは高い配慮が求められる商品においてとりわけ顕著だ。「以前はリーチできたオーディエンスの数はどれくらいだったか、またインプレッションの数はどれくらいだったかという点が重視されたが、そうした量は以前ほど重視されなくなっている」と、同氏は分析する。

だが注意すべきなのは、思慮深い読者がはたして価値の高いカスタマーなのか、それともむしろ価値の低いカスタマーなのかがまだ判断できないという点だ。

テイト氏は次のように語った。「オーディエンスと深い関係性を築いても、それをマーケティングにおけるエンゲージメントに結び付けられなかったパブリッシャーを見てきた。これは常に存在するリスクだ。熱心なユーザーを見出したからといって、その人を広告メッセージにも引き込めるというわけではない」。

Lucia Moses(原文 / 訳:SI Japan)