NY・業界人の御用達、レストラン「バルサザール」の歴史:昔からの常連に話を聞いてみた

バルサザール(Balthazar)」は、1997年のオープン以来、ニューヨーカーたちの心を捉えてきた。キース・マクナリー氏がオープンしたこのレストランは、まるでフランスのビアホールのような雰囲気を備えており、オープンから数年間は、あまりの人気の高さに、180ある席を予約するのがほぼ不可能な状況が続いた。

ソーホー地区のセレブたちに人気のバルサザールが、広告業界やメディア業界の人たちにとってハブのような場所となったのは、この10年ほどのことだ。彼らはこの店で、20ドルのエッグホワイトオムレツを食べながら、ミーティングをしたり親交を深めたりしている。

そこで、このような状況になった経緯を、昔からこの店を知る人たちに聞いてみた。

オープンから数年間

ロバート・ソーヤー氏(ブランドストラテジスト兼広告クリエイター):彼(マクナリー氏)がワンフィフスアベニューにいた頃から、彼のことを知っている。私も近くに住んでいたのだ。1980年代のはじめ頃のことで、当時トライベッカにはほとんどレストランがなかった。

トーマス・ミコラスコ氏(レストラン投資家):私たちが近くに「モンズ(Monzu)」をオープンした頃は、ちょっとひと休みするために、バルサザールに駆け込んだものだった。7年近くのあいだ、週に4回は通っていた。

ソーヤー氏:(マクナリー氏が)ビストロやビアホール風の店を作ることを思いついたんだ。この店の素晴らしい点は、お店の人に自分のことを知ってもらえば、自分がいつもポーチドエッグとアボカドトーストをサルサなしで注文することを覚えてもらえることだ。

ダニー・レノン氏(ヘッドハンター):フードは実に素晴らしい。ほとんどのミーティングが、朝食を食べるために行われているといっていいほどだ。

ソーヤー氏:オープンから数年間は、ボクサーや俳優や歌手をよく見かけた。社交界の人たちもだ。そして、誰もが交流を深めていた。

予約が取れない人気店

ミコラスコ氏:最初の数年間は予約が取れなかった。(予約の)電話を受け付ける専用の電話番号が用意されていた。

ソーヤー氏:メディアの人たちはたいていミッドタウンにおり、「マイケルズ(Michael’s)」に行っていた。

カルラ・セラーノ氏(ピュブリシスグループ[Publicis Groupe])の最高戦略責任者):確かに、誰もがメディアやエージェンシーの人間はミッドタウンにいると思っている。私が覚えているのは、ニューヨークに移ってきたときに、アップタウンにあるアパートを借りたことだ。あれは大きなミスだった。クリエイティブな人たちはみな、ダウンタウンやブルックリンに住んでいたからだ。

ソーヤー氏:どんな人にも、自分がいいと思うレストランがあるものだ。グレイドン・カーター氏のような人にとっては、「ダ・シルバーノ(Da Silvano)」がそうだ。アナ・ウィンター氏は、ファッション業界の人たちをバルサザールに連れて来た。だが、たくさんの人がバルサザールにビジネスのためにやって来るようになったのは、私が彼らを連れて来たからだ。

落ち着きはじめた2000年代

ミコラスコ氏:2000年代はじめ頃には、(予約)専用の電話番号はまったく使われなくなっていた。だがそのとき、誰かが私の知っていた番号は予約専用番号だと教えてくれた。

オープンから数年後には、スプリングストリートに面した店のドアをいきなり開けても、席を見つけられるようになってきた。ちょうど同じ頃、エージェンシーがダウンタウンに来てスタッフを増やするようになってきた。BBHやワイデン+ケネディ・ニューヨーク(Wieden+Kennedy New York)といった広告代理店が規模を拡大し、ブルックリンに来る人が増えてきたのだ。だが、カジュアルなコーヒーショップが不足していたため、バルサザールがハブになった。

ソーヤー氏:異常なほどの混雑がやや落ち着くと、昔ながらのエージェンシーの人たちがやって来るようになった。彼らのオフィスがダウンタウンに移って来たからだ。写真家はソーホー地区やエージェンシーのオフィスの近くにスタジオを構えた。最初にやって来たのは、アーネルグループ(Arnell Group)のピーター・アーネル氏だと思う。

レノン氏:(バルサザールは)絶対に行くべき場所だった。予約も簡単には取れなかった。フードは素晴らしく、雰囲気も良かった。

人々を惹きつけた理由

ミコラスコ氏:(バルサザールが)人々を惹きつけたのは、目立たないで済むことにある。食事をするスペースは広く、大きなバーカウンターもある。フードは目を見張るほどではないが、メニューを考えれば十分すぎるほどだった。

レイ・イナモト氏(イナモト・アンド・カンパニー[Inamoto & Co]の創設者):たしか、ポール・ラボイ氏がタクシーでここに連れて来てくれた。2000年代のはじめ頃だったはずだ。

セラーノ氏:私が2000年代に採用面接を受けていたとき、場所はいつもバルサザールで、たいてい朝食を取りながらだった。

ミコラスコ氏:彼らは1晩で500~600食のディナーを提供していた。相手はメディア業界の人たちや広告関係の人たちだ。金融業界の人たちが集まるような場所ではなかった。

自分の来るべき場所

リック・ウェブ氏(バーバリアングループの共同創設者、タイムホップの最高執行責任者):私はあそこに行くのが嫌いだった。朝食も気に入らなかったし、メディア業界の有力者も気に食わなかった。接待もだ。だが、そうしなければならないときがあった。大手メディアやブランドの幹部らと食事をし、おべっかを使わなければならなかったのだ。

イナモト氏:理由はわからないが、私が朝食や夕食をともにした人は、いつも年配の白人だった。とても白人の多い場所だということは、言っておかなければならない。残念なことだが。

セラーノ氏:若い求職者は、早い時間に面接に呼ばれたものだった。私は当時トロントにいたが、面接はいつも朝の8時半からだった。オノ・ヨーコ氏が朝食を食べているのを見て、ここが自分の来るべき場所だと感じたものだった。

イナモト氏:90年代後半、(バルサザールは)エージェンシーの人たちがミーティングする場所だった。クールだが流行に走りすぎておらず、高級感はあるが豪華すぎず、朝食もランチも、そしてディナーも取ることができた。

いろいろなことが変わった

セラーノ氏:あるとき、ロンドンが拠点のポーク(Poke)の創設者と会い、ここで面接を受けたことがあった。彼らがニューヨークでスタッフを募集しはじめていたからだ。たしか、大皿に乗ったシーフード料理が出てきたと思う。私は(面接が)うまくいったと思っていたが、そうではなかった。10年後、私はカンヌで、ピュブリシスグループのCSOとして彼らと会うことになった。私は彼らに、かつて面接に落とされた話をした。

オープンから20年が過ぎ、いろいろなことが変わった。バルサザールはいまもセレブを惹きつけているが、観光客のほうがはるかに多い。このレストランが最後にニュースになったのは、2015年のことだ。巨大な鏡が壊れ、朝食を取っていたフランスの外交官の上に落ちたという話題だった。

ソーヤー氏:(バルサザールは)大きく変わった。トイレからバスルームアテンダントを追放し、ペーパータオルもなくした。これはビジネス・インサイダー(Business Insider)のCEO、ヘンリー・ブロジェット氏のせいだ。彼が、バスルームアテンダントに不快な思いをさせられたという記事を書いたからだ。

イナモト氏:だが、業界人の間で人気が高まるにつれて、知った顔に出くわすことなくミーティングをすることができなくなった。ミーティングの内容によっては、これはやっかいなことだった。それに、いまは観光客だらけで、いつも慌ただしく、混雑も激しい。

いまはもっぱら朝食のみ

レノン氏:あそこを好んで利用することはもうない。みんなここに来ているからだ。自分の姿を見られることになってしまう。ビジネスに利用する場所としては不適切だ。

セラーノ氏:あそこは通好みの雰囲気がある。価格も安くない。真面目な会話をしなければならないような感じだ。いまは状況が少し変わっている。

ウェブ氏:皮肉なことに、いまはほぼ毎週、火曜日にここでディナーを取り、そのあとバーを利用している。夜ははるかに雰囲気が良くなるので、ひとりで来るのだ。とんでもない状況になっていることもあるが、はるかに耐えられる。

レノン氏:個人的には、もはやここをハブとは考えていない。エージェンシーは、最新の流行に目を向けがちだ。誰もがそういうものに引き寄せられる。ハブはどこか別の場所にある。

ソーヤー氏:いまは状況が変わっている。デジタル広告業界の人たちは、ここでランチを取らない。取るのはもっぱら朝食だ。

いま注目のレストラン

イナモト氏:最後にバルサザールに行ったのはいつだったか、もう思い出せない。5年前から、「エース・ホテル(Ace Hotel)」や「ザ・ブレスリン(The Breslin)」が、バルサザールに代わる存在になりつつある。

セラーノ氏:「ソーホーハウス(Soho House)」のほうが新しい時代を捉えはじめていると思う。ソーホーハウスの前の店やバルサザールも、かつてはそういう場所だった。そこでコーヒーを飲みながら、長い時間を過ごしたものだ。

ソーヤー氏:バルサザールはすべてがちょうどいい。オリジナルなものはないし、特別なものもない。すべてが適度なのだ。飛行機のファーストクラスは、かつてこんな感じだった。つまり、ベーシックなのだ。

Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)