世界トップクラスのビューティインフルエンサーのひとり、フーダ・ビューティの創業者フーダ・カッタン氏は、ソーシャルメディアに帝国を築いた。そしていま、彼女は新たな舞台に狙いを定め、デジタルブロックチェーンで鋳造されたアート作品の収集への熱意をシェアしている。最初は懐疑的だったカッタン氏が夢中になった理由とは?
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy+」の記事です。
世界トップクラスのビューティインフルエンサーのひとり、フーダ・ビューティ(Huda Beauty)の創業者フーダ・カッタン氏は、ソーシャルメディアに帝国を築いた。そしていま、彼女は新たな舞台に狙いを定めている。
Advertisement
「人生でこんなに興奮したことはない。ソーシャルメディアのときよりも、NFTにはわくわくしている」と彼女は話す。
パリス・ヒルトン氏やスヌープ・ドッグ氏といった著名人に続いてカッタン氏も、NFTを収集し、その価値を世間に伝える多くのインフルエンサーの仲間入りを果たした。カッタン氏はインスタグラムやTwitterのプロフィール写真に共同団体ワールド・オブ・ウィメン(World of Women)のNFTを使用、過去1カ月の間にYouTubeとIGTVに説明文を投稿して、デジタルブロックチェーンで鋳造されたアート作品の収集への熱意をシェアしている。
「NFTに夢中。NFTのことばかり話している。NFTのことを誰かに話す機会があるなら、いつでも話す。そういう機会がなければ、みずからその機会を作りたい」とカッタン氏は述べている。
初めは懐疑的だったNFTにハマったきっかけ
NFTの売上のうち女性アーティストが占める割合は、5%と推定されており、女性が制作したNFTを宣伝するインフルエンサーやセレブリティも増えている。NFT企業側も販売市場から女性が見落とされていることに気づいており、女性のオーディエンスへの訴求力を高めるためにビューティインフルエンサーやセレブリティと協力している。
カッタン氏は、NFTを収集するもっとも有名なビューティインフルエンサーとして台頭した。彼女は現在、NFTプラットフォームのオープンシー(OpenSea)の自分のアカウントに、ワールド・オブ・ウィメン、ミュータント・エイプ・ヨット・クラブ(Mutant Ape Yacht Club)、アルファガール・クラブ(Alpha Girl Club)、ソウル・カフェ(Soul Cafe)などのコレクションから273点のNFTをリストしている。
彼女がデジタルアート作品に出会ったのは7カ月ほど前のこと。夫のクリス・ゴンカロ氏がクリプト・パンクス(Crypto Punks)、ボアード・エイプ・ヨット・クラブ(Bored Ape Yacht Club)、ドゥードゥルズ(Doodles)などの高額なコレクションから作品を購入し、コレクションを始めたときだった。彼女にとって最初のNFTとなったのは、ゴンカロ氏からプレゼントされたワールド・オブ・ウィメンの作品だった。
最初のうち、彼女は懐疑的だった。
「なんというか、『この絵をありがとう』という感じ。でも絵というよりグラフィックデザインのように見えたし、そんなに価値があるものには全然見えなかった」と彼女は振り返る。しかし、その作品の中の女性をだんだん気に入ってきたという。
「彼女は私に似ていて、私が着るようなドレスを着て、私のようなメイクをしていた。肌の色は少しオリーブ色がかっていて、髪はクールなややストレートヘアだ」とカッタン氏はNFTのアバターについて語った。「NFTの中で人々がどのように自分のアイデンティティを持つことができるのか、少しずつ理解するようになった」。
NFTは女性の経済力を高めるツールになる
現在、カッタン氏は自身のYouTubeとインスタグラムのチャンネルに投資としてのNFTについて説明する動画を頻繁に投稿し、NFTは女性の経済力を高めるツールになり得ると主張している。
「単に女性はファイナンスに関わらないだけ。通常は夫に相談して、株を買いたい場合、実際には夫が買ってくれる。それが本当に頭にきた」と彼女は言う。「自分がやりたいように投資する機会が得られない。十分な教育がない」。
そして彼女の夫は「プレゼントするのを、私が完全にやめさせた。彼は私にNFTをくれるだけだったし」。
NFTに支払った総額については教えてもらえなかったが、カッタン氏は最近ではNFTが主な投資になっているという。
「夫と私は、NFTに参入するためにビットコインを売った」と彼女は話す。アート作品に加えて、夫妻はサンドボックス(Sandbox)にNFT不動産も購入した。現在、コレクションのなかで彼女が気に入っているNFTは、Twitterのプロフィール画像に使用しているワールド・オブ・ウィメンの紫色の「Night Goddess(夜の女神)」のアバターだ。ほかのバイヤーが20ETH(当時7万5870ドル、約876万円)で購入したものが2カ月前に彼女のアカウントに転送されたことがオープンシー(OpenSea)にリストされている。
「私は彼女に夢中で、彼女を愛している。とにかく彼女は美しいと思う」とカッタン氏は言った。その美に加えて、作品の価値も損なわれていない。「彼女は高価だった。もちろん、1週間後には価値が上がっていた。それ以来、おそらく3倍か4倍、あるいはそれ以上になっているのではないかと思う」。
セレブリティがNFTを後押しする役割を担っている
ワールド・オブ・ウィメンのコレクションを広く喧伝した有名人はカッタン氏だけではない。イーサリアム・ブロックチェーン上でランダムに生成される1万枚のデジタル画像を大々的に宣伝するために、このコレクションはエンターテインメント業界の重要人物たちからの支援を得ている。ボアード・エイプ・ヨット・クラブと同様に、ワールド・オブ・ウィメンもマドンナやU2のマネージャーであるガイ・オセアリー氏が代表を務め、リース・ウィザースプーン氏やエヴァ・ロンゴリア氏がコレクションから作品を購入した後、公に宣伝している。また、リース・ウィザースプーン氏の会社ハローサンシャイン(Hello Sunshine)と、長編映画、テレビ、ライブイベントなどを含むエンターテインメント契約に署名したばかりだ。過去1カ月の間に、ワールド・オブ・ウィメンの作品は60万ドル(約7000万円)以上の価格で売れている。
「セレブリティは、NFT分野を全面的にバックアップする役割を担っている。より多くのコレクターがこの分野に関わり、コレクションするのを目にすれば、この分野やアーティストのことが知りたくなって、このコミュニティの一員になりたいと思うようになる」と指摘するのは、ロサンゼルスを拠点とするギャラリー、アートエンジェル(Art Angels)の共同オーナーであるジャクリン・ネパール氏だ。主にフィジカルアートを扱うこのギャラリーは、カイリー・ジェンナー氏、ドレイク氏、ビヨンセ氏といったセレブリティを顧客に持つことで知られている。ギャラリーでは最近、NFTの販売を開始した。
インフルエンサーやセレブの口コミを利用
NFTのマーケターは、潜在的な女性コレクターにリーチするために、美容界に目を向けるようになっており、ビューティブランドで行ってきたのと同じ手法で、NFTのためのスポンサード記事を作成するようインフルエンサーに協力を求めている。
ペルソナ・コスメティックス(Persona Cosmetics)の創業者でビューティインフルエンサーのソナ・ガスパリアン氏は、最近ウィンター・スポーツ・チャンピオンズ(Winter Sports Champions)の新しいNFTパックのために、インスタグラムストーリーのスポンサード投稿をシェアした。マーベル・スタジオ(Marvel Studios)のビジュアルアーティストであるアンソニー・フランシスコ氏が手がけたこのNFTは、オリンピック選手とのパートナーシップによって制作されたものだ。
「リーズナブルな価格だったので、安心して宣伝した」と述べた彼女は、そのコレクションが「アスリートへ還元」される点も支持していた。NFTの収集に個人的に興味があることを投稿したところ、プロモーションの話がきたという。現在、彼女はディズニーのオフィシャルNFTを含め、8点を所有している。
インフルエンサーはまた、裕福なNFTコレクターの間で形成されている排他的なコミュニティにも密かに加わっている。NFT企業のアフターパーティ(Afterparty)は、ハリウッドにある同社の邸宅にインフルエンサーを何人も招いて華やかなNFT鋳造パーティーを頻繁に開催しており、マイクを片手に新しいNFTオーナーを発表しては、そのニュースをインスタグラムでシェアしている。最近インスタグラムに投稿されたNFTパーティーの写真では、チャーリー・ジョーダン氏、ヘレン・オーウェン氏、元「Bachelor(バチェラー)」出場者のクリスティーナ・シュールマン氏が新しいNFTを鋳造している様子が映し出されている。
NFTやメタバース不動産の盛り上がりに目新しさはない
「いったん、ひとり、ふたり、3人と(購入するセレブリティが)いれば、その人たちが友人に話す。そして『私も買いたい』となる」と話すのは、高級NFTとメタバースの不動産マーケットプレイスであるエクスクルーシブル(Exclusible)のCEOで共同設立者のティボー・ローネイ氏だ。それが、パリス・ヒルトン氏、スヌープ・ドッグ氏、ジェイ・Z氏、エミネム氏などが需要を喚起した「ボアード・エイプで起こったことだ」。ローネイ氏が言うには、同じことが現在、メタバースの不動産で起きている。
エクスクルーシブルは2月16日、モデルのサラ・サンパイオ氏や、パリ・サンジェルマンF.C.のスター選手マルコ・ヴェラッティ氏、テニス選手のアナ・イバノビッチ氏やスタニスラス・ワウリンカ氏、FCバーゼル共同オーナーのダン・ホルツマン氏といったスポーツ界のスターなどを含む購入者にサンドボックス(Sandbox)内の高級プライベートアイランド25件を販売したと発表した。プライベートアイランドの総額は、910ETH(約250万ドル、約2億9000万円)に上った。
NFTとデジタル不動産市場の誇大宣伝について、「多少はおもしろいが、ある意味、目新しさはない」とローネイ氏は言う。「それがラグジュアリーな世界の仕組みなんだ。クールなクラブやクールなレストランに行くには、知り合いが必要だ。それがただデジタルの世界でも起きているというだけだ」。
セレブリティや影響力のある人たちは、どのNFTを買うかについても互いにコミュニケーションをとっている。カッタン氏は、セレブリティたちと内部情報を共有するNFTに特化したグループチャットに加わっているが、参加者の名前を明かすことは拒否した。
有名人が宣伝すると急上昇するNFTの価値
すべてのビューティインフルエンサーがNFTの世界に熱中しているわけではない。1月下旬、ハンドルネーム @Nailogical で活動しているネイルインフルエンサーのクリスティン・ローテンバーグ氏は、NFT企業から受け取ったいくつかの提案のスクリーンショットをTwitterで公開し、「私たち全員が、NFTが何かを正確に知らないかもしれないが、それを宣伝しているすべてのセレブ/インフルエンサーはこのようなメールを受け取っていることを知っておくべきだ」と書いた。複数あるそのメールは、彼女自身のNFTの鋳造を手伝うという企業からのオファーで、なかには「何百万もの潜在的な収益が」生まれるだろうと書かれているものもあった。
NFTを批判する人々は、有名人が自己啓発のためにNFTを誇大宣伝すべく主要なプラットフォームを利用していると主張しており、暗号通貨の採掘に必要なエネルギーが環境に与える悪影響を批判している。NFTの価値は、その作品が有名人やハリウッドに関係して宣伝されると上昇する可能性がある。ワールド・オブ・ウィメンの価格は、オセアリー氏がそのコレクションのマネージャーであると発表した際に「急上昇」した。批評家は、パリス・ヒルトン氏がジミー・ファロンの番組でボアード・エイプについて語るといった、NFTに対するセレブリティによる公的な支援は「大いに不安にさせる」し「地獄のコンビネーション」と呼んでいる。
NFTは富の民主化に貢献するという考えも
そうした批判に対して、カッタン氏は作品が売れたときに元のアーティストにその金が還元されるとして、異議を唱えた。
「多くの人はそれを見て、『ああ、詐欺だ。金持ちがもっと金持ちになるんだ』となる。そして『信じられない。なんで自分はこれを逃してるんだ、あの人は1000万ドルも稼いでいるのか? 自分には無理だ。それとも自分にもできただろうか。いいや、これは詐欺に決まってる』と思う。だから多くの人が少し懸念している。私はそうは思わない。一度、学習曲線を乗り越えて難関を脱したら、実際に人生が変わる」。彼女は、老人ホームを拠点としている卓越したNFTアーティストから彼女の夫が作品を購入したことに言及した。そのアーティストは「ラッキーグランマ」という名前で活動しており、作品で何千ドルも稼いでいる。
ワールド・オブ・ウィメンのNFTでは、いくつかのバージョンに関して、オーナーが継続して利益を換金することもできる。ワールド・オブ・ウィメンの「ロイヤルティ・クラブ」のNFTでは、二次販売からロイヤリティが支払われる。カッタン氏は、ワールド・オブ・ウィメンのロイヤルティ・クラブのNFTのひとつに約155ETHを支払ったと見積もっている。彼女は正確な価値について確認するのを拒否したが、「かなりの額だった」と述べた。彼女のアカウントにあるワールド・オブ・ウィメンのロイヤルティ・クラブNFTは、半年前に別のユーザーに100ETHで売却されたことが最後にリストされている。1カ月前、彼女のアカウントに送られた際の価格は表示されていないが、送られた際にオープンシーに表示されたイーサリアム価格に基づくと155ETHは39万3948ドル(約4545万円)の価値だったことになる。
NFT市場についてカッタン氏は「実際に多くの方法で富の民主化に貢献することになる」と語った。「人々が本当に富を分配し始める世界を目にするようになるだろう」。また、彼女はNFTをチャリティーに活用することも提案した。「ユニセフや国境なき医師団が実際にNFTをもたらして、私がそれを購入するというのはなぜできないのだろうか」。
NFTの採用方法を模索するブランド
ナーズ(NARS)、ジバンシィ・ビューティ(Givenchy Beauty)、E.l.f.など、多くの美容ブランドが独自のNFTをローンチしており、ヴァルデ・ビューティ(Valdé Beauty)は最近ディセントラランド(Decentraland)でのNFTローンチパーティーに従来のビューティインフルエンサーとメタバースインフルエンサーの両方を参加させている。だがNFTに対する懐疑的な意見が増えるにつれ、一部のコンシューマーブランドはNFTプロモーションに対する反発を目にするようになっている。そして、NFTを収集する創業者たちは、NFTをどのように自分たちのブランドに取り入れるかについてはいまだ検討中だ。
「まだ何もしていないが、将来的には間違いなくやりたいことではある。ただ、ブランドとして現在行っていることに非常に沿ったものにしたいだけだ」と、ペルソナ・コスメティックスのガスパリアン氏は話した。いまのところNFTに対する彼女の興味は「まったく個人的なもの」だ。
カッタン氏もフーダ・ビューティにNFTを取り入れるという選択肢を「模索中」だという。さらに、株式公開の手段として、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)の概念に興味があると話す。
「私たちの会社のために、ぜひとも検討したい」と彼女は述べた。
また最近では、オープンシーでいくつかの貴重なNFTが盗まれ、NFTのセキュリティに対する懸念が高まっている。オープンシーは、フィッシング詐欺だと強く主張しているが、被害者には同プラットフォームのセキュリティの問題だと言う人もいる。
現在、カッタン氏はもはや買い漁るようなモードではない。「もう満足するほど十分なお金を使った。そのお金が失われないように願うが、現在は追加で現金を投資したくない」と言う。新しい作品を買うことには前向きだが、「何かを買いたいと思ったら、買うために何かを売却している」と話した。
[原文:Beauty influencers are getting into NFTs and the metaverse]
LIZ FLORA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)