デジタル化を進めても、デパートが脱せない「苦境」の正体

「デパートはいずれなくなる」。そんな言葉も一部でささやかれるなか、過去2年の業績をもって、それを真っ向から否定してきたのが米百貨店のコールズ(Kohl’s)だ。同社の売上は過去6四半期にわたって右肩上がりの成長を続けていた。同社はモバイルアプリに、価格と割引がわかりやすく表示されるよう改善をほどこした新しいロイヤルティプログラムを導入した。

さらにコールズはAmazonに不利な戦いを挑むのではなく、同社と提携する道を選んだ。同社はAmazonで購入した商品を、一部店舗で返却できるサービスを展開している。コールズのCEOミッシェル・ガス氏は昨年の業績発表のなかで、Amazonとの提携によって、それまでの一般的な客層よりも若いカスタマーが店に足を運ぶようになったことを明かしている。そして4月には、Amazonの返却サービスを7月までにコールズの全店舗に拡大すると発表した

だが、コールズの改革は常に順風満帆だったわけではない。今年5月に行われた第1四半期の業績発表によれば、店舗あたりの売上が3.4%減少している。同社はこの原因について、インテリア部門の売上不振、宣伝イベントが思うように成果を出せなかったこと、そして小売業界の常套文句である天候不順を理由に挙げている。

CEOのミシェル・ガス氏もまた、投資家向けの業績発表のなかで、「今年は思ったほど良いスタートを切れなかった」と認めている。「市場は競争が非常に激しく、家庭用品などのカテゴリーにおける価格競争、宣伝競争は激しさを増している」。

これはなにも、コールズに限ったことではない。ノードストローム(Nordstrom)は、第1四半期の業績発表で総売上が3.5%減少したと発表した。昨年の同四半期では売上が5.8%増加している。同社は売上減の理由として、ロイヤルティプログラムの会員向けのダイレクトメールを減らしたこと、デジタルマーケティングの支出を削ったこと、女性向けアパレルと美容分野における売上不振をあげている。デパートのなかでもっとも好調だったのはメイシーズ(Macy’s)だが、それでも店舗あたりの売上の伸びはわずか0.6%にとどまった。

これまでに挙げた小売企業であれば、1四半期の売上が悪かったからといって危機に陥るようなことはない。だが、克服すべき課題が生まれたことも確かだ。デパート業界の危機が叫ばれるようになって久しい。シアーズ(Sears)は長年の業績悪化を経て10月に破産を申請している。だがノードストロームやコールズ、メイシーズといった企業は、必要な対策を打ち、進化することでこうした危機を乗り越えられることを示してきた。

たとえば、オンライン購入や店舗における商品のピックアップ、デザイナーやデジタルネイティブブランドとの提携といったサービスを拡大し、独自の方法で規模縮小も進めてきた。ノードストローム、コールズ、メイシーズは「新たな小売」となるための適切な取り組みを数多く実施してきた。とはいえ、現代のカスタマー向けにデパートを改革するには、店舗モデルの刷新やインフルエンサーとの提携、eコマースの取り組みだけでは十分とはいえない。3社を取り巻く新時代の小売は、デパートの提供しうる価値自体に疑問を投げかけているからだ。

2019年の上半期は、デパートにとって成長を続けるのがいかに困難かを示したといえるだろう。デパートの最大のライバルはAmazonとインフルエンサー、そしてオフプライスストアだ。TJマックス(TJ Maxx)やマーシャルズ(Marshalls)の親会社、TJXカンパニーズ(TJX Companies)は前四半期で7%の売上増を発表している。また、ターゲット(Target)やウォルマート(Walmart)も翌日配達を可能にする配達ネットワークを構築し、デパートより先を進んでいる。

カンターコンサルティング(Kantar Consulting)の小売アナリスト、ティファニー・ホーガン氏は、「いまではどこでも、あらゆるものを購入できる。これがあらゆる分野の商品を集めたワンストップショップとして君臨してきた、デパートの根本をゆるがしているのだ」と指摘している。

新たな形のデパート

デパート各社が取り組んでいる改革は大きく2種類に分類される。それが「利便性」と「キュレーション」だ。

デパートは店舗とオンラインにおける現代化を進めており、店舗の小型化もその一端となっている。ノードストロームはサービス専門の店舗、ノードストローム・ローカル(Nordstrom Local)の試験運用を開始した。メイシーズは同社が掲げるグロース50(Growth 50)計画の一貫として小規模店舗を次々に展開している。また、これまで店舗でしか利用できなかったスタイリングなどのサービスをオンラインで提供しているほか、モバイルデバイスとeコマースによってデパートのショッピング体験を向上させる取り組みを模索している。たとえば、メイシーズのCEO、ジェフ・ジェネット氏は最新の業績発表のなかでモバイルアプリの再設計を発表しており、アプリによる店舗内の売場探しや、ほしい商品や新商品、セール品の場所を通知する機能を実装していくという。

こうした取り組みの根本にある哲学が「利便性」だ。デパートが利便性を追求しているのは、現代の買い物客のニーズに合わせるためだ。現代の買い物客にとって大型店舗は買い物しやすい場所ではあるが、商品を探しにくいことが欠点となっている

ノードストロームの顧客体験部門のバイスプレジデント、シー・ジェンセン氏は、米DIGIDAYの兄弟サイトであるモダン・リテール(Modern Retail)のなかで次のように述べている。「現代において、時間が持つ商品価値がいかに大きいかを改めて認識させられている。当社の目標は、いつでも、どこでも、あらゆる方法で買い物できるサービスを提供することだ」。

商品をめぐる競争

だが、デパートは便利なだけでなく、買い物面で魅力的な場所でなければならない。だからこそ、小売各社はさらなる限定商品の導入を進めている。たとえばノードストロームは、ボノボス(Bonobos)やエバーレーン(Everlane)、リフォーメーション(Reformation)、オールバーズ(Allbirds)といったD2C(Direct to Consumer)ブランドと契約を結び、ときには各ブランドのニーズを満たすため柔軟に対応している。そしてコールズは、デザイナーとコラボして同社から限定商品を発売している。ジェイソン・ウー(Jason Wu)やエリザベス&ジェームズ(Elizabeth & James)とのコラボ商品は、同社が力を注いでいる若いカスタマーのあいだでヒット商品になった。メイシーズは、小売のコンセプトショップ、ストーリー(Story)を買収して新しい商品を発見するための場所へと店舗改革を進めている。現在、メイシーズは店内でストーリーを36店舗展開している。ストーリーは掲げているテーマを数カ月おきに変更しており、これは新しいものを探しに店を訪れるリピート客を増やすのが狙いだ。

とはいえ、こうした取り組みは、基本的に各社が一歩ずつ改善している証拠ではある一方で、最終的な解決策には至っていない。

小売専門のコンサルティング企業セージベリー(SageBerry)のCEOで、シアーズの元企業戦略担当バイスプレジデントも務めたスティーブ・デニス氏は「普通よりは良いものを提供できている小売企業はたくさんある。だが他社より圧倒的に抜きん出た結果に結びつくほどのものではない」と分析する。デニス氏は、メイシーズによるストーリーの買収やコールズによるAmazonの返品サービスについても「良いものだが、流れを変えるほどのものではない」と指摘している。

これまでと異なる難しさ

これまで述べたようにデパートは新たなデジタル戦略に投資しているが、その過程で失敗をおかす危険もある。

昨年9月にノードストロームは新しいロイヤルティプログラムについて発表した。同プログラムを通じてカスタマーはポイントを獲得し、ポイントと引き換えに同社のスタイリストが自宅へ出張するサービスなどのパーソナライズされたサービスを受けられるようになる。これはフットロッカー(Foot Locker)やアルタビューティー(Ulta Beauty)など、割引に依存する体質から脱却したい小売他社も行っている取り組みだ。

だが、ノードストロームは5月の最新業績発表のなかで、ロイヤルティプログラム会員に送ったダイレクトメールを減らしたことで売上が減少したとしている。

これについて共同社長のエリック・ノードストローム氏は業績発表で、「ロイヤルティとマーケティング面において失敗だったが、経費削減のために行ったことではない」としている。さらに同氏は、ノードストロームのロイヤルティプログラムにおける今回の取り組みは実験的ではあるが「カスタマーからは好評を博している」と述べている。だが同氏は、ロイヤルティプログラムの会員のうち、新商品や宣伝についてダイレクトメールを通じて知っているカスタマーの数について見誤っていたことを認めている。

失速から脱却して今年度を力強く終えるため、メイシーズやコールズ、ノードストロームはより将来的な提携関係について積極的に取り組んでいる。メイシーズのジェネット氏は、今年中にグロース50を基盤に100店舗をオープンすると発表している。こうした店舗はメイシーズのほかの実店舗よりも「優秀」な業績をあげるという。またオフプライスストアのバックステージ(Backstage)も50店舗オープンする予定だ。またコールズは、CEOのガス氏が「今年もっとも重要な取り組み」と表現するAmazonの返品サービスを重要な新学期シーズンに向けて全店舗で展開する。ノードストロームはニューヨークをはじめ、新たな地域にノードストローム・ローカルの拡大を進めていく。また、同社が最初にノードストローム・ローカルの試験運用を行ったロサンゼルス市内の全店舗に同サービスを追加展開していく予定だ。

だが、消費者の動向が変わりゆく昨今、こうした取り組みも売上の増加を保証するものではない。消費者がオフプライスストアや専門店、Amazonで買い物を続ける限り、デパートが獲得しうる余地は少ないままなのだ。そしてオープンする新店舗についても小規模店舗やオフプライスストアが多く、売上への貢献度は相対的に少ない。

デニス氏は次のように語っている。「将来的に残されたデパートが十分な業績をあげるには、マージンが確保しやすくなるくらいにデパート業界の競合他社が減るまで耐えるほかないように思われる」。

Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)