リテール業界が直面する 「レジなし決済」へのプレッシャー: Amazon Go がもたらしたもの

Amazonが運営するレジなし店舗Amazon Goは、従来のリテーラーたちにもプレッシャーを与えている。一般的なレジを廃止し、「店舗に歩いて入り、商品を選んで、あとは出ていくだけ」という決済の全自動化システムを店舗に導入する、というプレッシャーだ。

当然のように、テック・スタートアップ企業たちがそこに食い込もうと躍起になっている。今週だけでも、創立から2年のカリフォルニア州バークレーを拠点とする支払いスタートアップ企業、グラバンゴ(Grabango)がシリーズAで1800万ドル(約19.6億円)の資金を調達した。それはリテーラー向けのレジなし決済プラットフォームを成長させるためとなっている。リテーラーたちがレジなし決済を導入するための技術を提供しようとするスタートアップは、グラバンゴ以外にも複数存在している。ジッピン(Zippin)、スタンダード・コグニション(Standard Cognition)、AVAリテール(AVA Retail)、そしてフューチャープルーフ・リテール(FutureProof Retail)がその例だ。

レジなし形式の実態

Amazonが顧客の便利さという点でひとつ上のレベルを目指すことで、ほかのリテーラーたちにもプレッシャーが加わっている形だが、もちろん経済的なモチベーションも加わっている。精算が楽になれば、人々は多く物を購入する、という具合だ。つい先日、RBCキャピタル・マーケッツ(RBC Capital Markets)が推算したところによると、Amazon Goは1店舗あたり年間110万ドル(約1.2億円)から200万ドル(約2.1億円)を売り上げているという。

しかし、レジなしへの移行は、スイッチをポンと押すだけで変わるような変化ではない。完全なレジなしへと移行するための段階的なプロセスに対するガイダンスを、リテーラーたちに提供しようとしているのが上記のスタートアップたちだ。段階的なテクノロジーとしては、レジに到着する前にカート内に何が入っているかを把握するというものがある。サンフランシスコを拠点とするプロペル・ベンチャー・パートナーズ(Propel Venture Partners)のマネージング・パートナーであるライアン・ギルバート氏は、前述のグラバンゴの資金調達ラウンドを率いた人物だが、彼によると完全なレジなしリテールへの移行は、パッと実現するようなものではないという。レジがなくなることに対する消費者の抵抗感もさまざまだ。それに対応するために、グラバンゴのようなプラットフォームは複数のオプションを提供することになる。

「現金を好む人もいればキャッシュレスを好む人もいる。このふたつは非常に異なった顧客だ。リテーラーたちは自分たちがAmazonと大きく異なっていることを理解している」と、ギルバート氏は語る。「顧客との関係性も違い、売っているプロダクトも異なっているだろう。在庫管理も、サプライチェーンソリューションも異なっている。そんななかで『Amazonになる』と宣言することは、正解ではないかもしれない」。

各社における実行方法

グラバンゴを利用するリテーラーでは、消費者が完全なキャッシュレスを選ぶ場合、アプリをダウンロードして、ログインを行い、店舗のなかで好きな商品を選び、店舗を歩いて出ていく、ということが可能だ。現金やクレジットカードでの支払いをしたい消費者の場合は、カートに商品を入れる、しかし、レジで行うのはただ支払いのみ、となると、共同ファウンダーのウィル・グレイザー氏は言う。少なくとも短期的な目標は、レジを廃止することではないようだ。むしろ従業員や顧客に嫌われているレジにおける長蛇の列を解消することにある。グラバンゴは現在、4つの大手リテーラーにおいて試験的な運用を行っているようだ(グレイザー氏はリテーラーの名前は明かさなかった)。それは、3つの生鮮食品スーパー企業とひとつのコンビニとなっている。

「柔らかな移行となる。レジは少なくとも今後しばらくは必要となる」と、彼は言う。

AVAリテールもまた6つのリテーラーと、世界規模でレジなしテクノロジーの試験運用に取り組んでいる。サンフランシスコのWeWork(ウィーワーク)ではマスターカード(Mastercard)と共同して、レジなしテストも行っている。店舗での利用法は、アプリをダウンロードすることで、「ウォークアウト(商品を持って店舗を出てしまう)」をするというものと、店舗に入るときにクレジットカードをゲートに差し込むことで、アプリを使わずに精算を自動で行うというものになっている。また、スキャンをして店舗を出るプロセスを持ったテクノロジーも、AVAはリテーラーと取り組んでいるようだ。

いま認識されている障害

しかし、Amazonからのプレッシャーは強まっているものの、レジなし精算の時代は、まだまだ先のようだ。一番の障害はコストと、テクノロジーが新しいことだと、フォレスター(Forrester)の主任リテール・アナリストであるサチャリタ・コダーリ氏は言う。

「根本的な課題は、カメラが高価な点にある。人間ひとりを雇えば、時給10ドルでできる作業に対して、何千万ドルといった額の投資を投資したいと思う人はいない」と彼女は言う。

極端に高額なコストがかかる、という認識は誇張されたものだとスタートアップたちは主張している。グレイザー氏は、レジなしテクノロジーの配置コストがいくらか明かさなかったが、スマートフォンカメラの技術が彼らのソリューションに組み込まれており、その結果としてコストが下げられているという。

「(スマートフォンのカメラは)高画質でモダンで最新だが驚くほど高価というわけではない、携帯電話業界がコスト削減に務めてきた成果を我々も利用できている。これらの構成要素を活用し、我々の仕組みに取り組むことで、非常に低いコストで店舗に配置することができる」と、彼は語った。

「やるか、死ぬかの時代」

AVAのCEOであるアチュール・ヒルパーラ(Atul Hirpara)氏は、AVAのレジなし技術を導入するには、1店舗につき10万ドル(約1090万円)から50万ドル(約5450万円)となると言った。また、彼らのプラットフォームは、すでに存在するカメラのインフラストラクチャーを活用するとのことだ。課題は多く存在するものの、ギルバート氏によると、レジなしのリテールは、長期戦として功を奏するだろうという。この技術を追加することで、従来のリテーラーたちにとっては、生存を賭けた戦略として機能するからだ。

「Amazonの台頭でリテーラーたちは目を覚ました。ただ、競争するための知恵を絞っているのではなく、生存をかけた戦略を練っている。5年経てば、『(レジなしを)やるか、死ぬか』の時代がやってくるだろう」。

Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:塚本 紺)