TikTok の新CEO、ケビン・メイヤー氏の華麗なる実績:「彼は強打者タイプだ」

長らくディズニー(Disney)の幹部を務めてきたケビン・メイヤー氏(58)が、TikTokのCEO、および同アプリの親会社であるバイトダンス(ByteDance)のCOO(最高執行責任者)に任命された。この就任により、TikTokの事業には早くも良い風が吹いている。このニュースが流れたのち、あるエージェンシー幹部は、この発表をクライアントにメールで知らせた。そのクライアントはTikTokへの出稿に興味を示してはいたが、同プラットフォームの適合性を警戒していた。

「ビジネス界の大物が新天地を求めて、このブランドへ移ることを決断したという事実。これが信用をもたらす」と、あるブランド幹部は語る。

これぞディズニーのハロー効果だ。ディズニーで20年以上を過ごし、最近ではDisney+(ディズニープラス)ローンチを成功に導いたメイヤー氏がTikTokにもたらすのは、信頼性にほかならない。同アプリはいままさに、テックプラットフォームのトップに食い込むことを狙っている。MIT(マサチューセッツ工科大学)ではカレッジフットボールの選手として活躍し、ハーバードでMBAを取得したメイヤー氏は、メリーランド州ベセスダの出身。そんな同氏には、ビジネスに対するアグレッシブなアプローチも備わっている。ディズニーの事業がストリーミング時代に合ったビジネスへと転換することを促したそのアプローチは、テック業界の猛スピードに適している。

TikTokはいま、かつてSnapchatが経験したような、厄介な局面にいる。TikTokがポピュラーになればなるほど、それが受ける精査も増えている。広告主らはその若いユーザーベースを警戒している。「TikTokは広告主にとって素晴らしい新興プラットフォームだ。12歳のダンスを突破できるのであれば」と、前出のブランド幹部は語る。特殊なのは、TikTokの親会社であるバイトダンスが中国の企業であるという点だ。折しも、米中間の緊張が高まり、ファーウェイ(Huawei)など中国テック界の覇者たちに対する取り締まりを求める声が大きくなっている。TikTokを中国の企業が所有していることに対し、米議会は国家安全保障上の懸念を表明している。メイヤー氏の就任が報じられると、共和党上院議員のジョシュ・ホーリー氏は「メイヤー氏との対面が楽しみだ。証人喚問の席で」とツイートした。実に敵意に満ちた言葉だ。

ディズニーは「幅広く信頼されているブランドだ。もちろんハロー効果もある。それがプラスの効果をもたらしてくれることをTikTokは期待しているはずだ」と、コンサルティング企業プロフェット(Prophet)のパートナーであるユーニス・シン氏は語る。

ビジネス界の大物・メイヤー氏の実績

メイヤー氏はビジネス界の大物だ。同氏は1993年にディズニーに入社、その後、Playboy.com、クリア・チャネル・インタラクティブ(Clear Channel Interactive)のCEOを務め(それぞれ短期間)、コンサルティング業に従事したのち、2005年にディズニーに復帰した。ボブ・アイガー氏が同社CEOを務めた15年間、メイヤー氏は戦略部門のトップのひとりとして(2015年、最高戦略責任者に就任)、ピクサー(Pixar)、マーベル・エンターテインメント(Marvel Entertainment)、ルーカスフィルム(Lucasfilm)、20世紀フォックス(20th Century Fox)の買収を牽引した。当時、GoogleやFacebook、Netflixらのテック企業が市場を支配し、タイム・ワーナー(Time Warner)やNBCユニバーサル(NBCUniversal)などのライバルがテレコム大手に身売りするなかで、ディズニーはこれらの買収により、最大級のメディア企業としての地位をさらに強固なものにすることができた。またメイヤー氏は、ディズニーのストリーミングサービスを強化することとなる技術、BAMテック(BAMTech)の買収にも関わっていた。

2018年には、ディズニーのDTC&インターナショナル部門の責任者に指名され、Disney+の開発を率いた。同ストリーミングサービスについて、アイガー氏は「私の在任期間中にローンチされたプロダクトのなかで、もっとも重要」と述べている。2019年11月のデビュー以来、Disney+はこれまでに5400万人以上のサブスクライバーを獲得している。

「メイヤー氏のおかげで、ディズニーはテック企業が市場に参入するスピードで動くことができたといっても過言ではない。ディズニーのような歴史と遺産を持つほかの企業を見れば、このようなスピードでは動いていないことがわかる。動けないからだ」と、シン氏は語る。

Disney+の責任者に抜擢された理由

ディズニーをこれだけのスピードで動かすのに大きな役割を果たしていたのは、おそらくメイヤー氏のリーダーシップスタイルだろう。「同氏のリーダーシップスタイルは、ともすると高圧的で、直接的だ」と語るのは、ストラテジーコンサルティング企業イラム(Illum)の創業者/マネージングパートナーで、かつてディズニーのグローバル事業開発部門のチームメンバーだったジョン・ラスティアン氏だ。このアプローチ(そして、このアプローチとディズニーの打ち解けた企業文化のバランスをうまく取れる、身長193cmのメイヤー氏の能力)が、アイガー氏がメイヤー氏をDisney+の責任者に抜てきした主な理由だったのかもしれない。

「ディズニーの企業文化は非常に快適だ。従業員のほとんどが、自分の得意分野で自分のペースで仕事をしている。だからこそ、高圧的で直接的、ディスラプティブでアグレッシブな人物、従業員を競わせ、スケジュールを守らせる人物を連れてくる必要がある。それができたのがメイヤー氏だった」と、ラスティアン氏は語る。

こうした能力により、メイヤー氏はアイガー氏の後継者の最有力候補と目された。しかし結局、メイヤー氏がディズニーのCEOに就任することはなく、代わりにアイガー氏の補佐役だったボブ・チャペック氏がその後継者となった。

ディズニーやNetflix、Amazon、Google、Facebookが、エンターテインメントプラットフォームの支配者としての地位を目指して争いを繰り広げている。バイトダンスがこのレースに加わるには、「強打者を連れてくる必要があった」と、シン氏は話す。

FBのS・サンドバーグ氏のような存在

メイヤー氏がTikTokのCEOに任命されたことにより、広告主の懸念が和らぐかもしれない。政府規制当局もTikTokに親しみを覚えるかもしれない。しかし、その一方で、大きな影響をもたらすことになるのは、バイトダンスCOOとしての同氏の役割のほうだろうと、ラスティアン氏はいう。メイヤー氏はCOOとして、バイトダンスのミュージック、ゲーム、新興ビジネス、およびインドで人気のソーシャルプラットフォーム、ヘロー(Helo)を率いることになる。また、同氏がディズニーに残したM&Aの実績を考えると、その手腕によりバイトダンスの企業ポートフォリオが増えることも大いに考えられる。

「バイトダンスは巨大な母船だ。バイトダンスがFacebookだとしたら、TikTokはインスタグラムだ」と、ラスティアン氏はいう。メイヤー氏の新加入により、バイトダンスは自社のシェリル・サンドバーグ氏を獲得したのだ。

Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)