「インフルエンサーマーケティングが大嫌いだった」:UUUM幹部の告白

消費者一人ひとりの発信力が大きくなっている昨今、インフルエンサーマーケティングは、多くのマーケターから注目を集めている。しかし盛り上がりの一方、その本質を見誤っている企業や事業者も少なくない。

「案件を通じて、インフルエンサーにブランドを理解してもらい、好きになってもらう。結果として、長期にわたって好意的な情報発信が自然に増えていくような、良い関係を構築する。これこそがインフルエンサーマーケティングの本質だ」。こう語るのは、UUUM株式会社の執行役員であり、レモネードユニット統括を務める石橋尚也氏だ。良い関係を構築できれば、情報発信者(インフルエンサー)、情報受信者(フォロワー)がともに満足し、スポンサーにも大きな成果をもたらすという。

本記事では、石橋氏に加え、インフルエンサーマーケティングを含む、インターネット上の口コミマーケティングに関するガイドラインを策定しているWOMマーケティング協議会(以下、WOMJ。『WOM』はWord of Mouth[クチコミ]の頭文字)理事長で、江戸川大学教授の井上一郎氏をゲストに迎え、それぞれの立場から、インフルエンサーマーケティング成功の鍵とは何か、議論してもらった。

 

向かって左からWOMJ理事長の井上氏、UUUM執行役員の石橋氏

向かって左からWOMJ理事長の井上氏、UUUM執行役員の石橋氏

 

石橋尚也氏(以下、石橋) : 実は私、もともとインフルエンサーマーケティングのことが大嫌いだったんですよ。すでに深く関わったいま、あえて告白するのですが。

井上一郎氏(以下、井上) : そうなんですか⁉ 石橋さんがWOMJに参加されて以来、数年来のお付き合いですが、それははじめて聞きました。

石橋 : そう感じていた背景には、ブログブーム時に起きたいくつかのステルスマーケティング(ステマ)騒動があります。嘘の情報を受け取った受信者はもちろん、情報発信者も炎上して、みんな不幸な状態だった。当時は、インフルエンサーマーケティングに、マイナスな印象しかなかったです。

井上 : ところが石橋さんは、インスタグラム(Instagram)に特化したインフルエンサーマーケティングプラットフォーム「LMND(以下、レモネード)」を開発されて、インフルエンサーマーケティングという領域でビジネスすることを選択された。いったい、どういう心境の変化があったのでしょう?

石橋 : 海外、特にアメリカの情報をウォッチしていて、インフルエンサーマーケティングに対するイメージが、日本とはまったく違う状況であることを知ったんです。海外のインフルエンサーは、クライアントの商品に対して、良いことも悪いことも忌憚なく主張する。なので、好感を持ちました。「これこそが正しいあり方なんじゃないか。これならやれる、やってみたい」と思ったんです。

井上 : なるほど、私がWOMJの立ち上げに参画した経緯と、合い通じるところがありますね。消費者行動の偽装、いわゆるステマに関しては、アメリカのFTC(Federal Trade Commission:連邦取引委員会)にならって、日本でも法規制される可能性もありました。ただ、それではようやく開花しはじめたインターネット上のクチコミマーケティングのマーケットがシュリンクしてしまうのでは、という懸念も感じていました。

ちょうどその頃、同じような懸念を持つ広告・PR業界、メディア業界などの有志が集まり、健全なクチコミマーケティングの発展を考えるための勉強会をスタートさせました。メンバーの多くは、所属組織ではなく個人の立場で参画しましたが、国内外のクチコミマーケティングの事例を共有したり、米国のクチコミマーケティング協会(WOMMA)の資料も参考にしたりしながら、日本におけるクチコミマーケティングのガイドラインの方向性や展開のあり方について熱い議論を開始した。これが2008年ごろの話です。

編集部 : 国が規制するのではなく、業界団体の自主規制で秩序を保とうとしたわけですね。

井上 : そうです。そしてこれが、後のWOMJの設立に繋がっていく。クチコミマーケティングに関わる、さまざまな法人個人が集まって業界の健全な発展を目指そうということで、2009年にWOMマーケティング協議会として発足しました。2019年4月現在で、法人会員が45社、学識会員9名、個人会員6名。調査や啓蒙活動、事例の共有を通じて、WOMマーケティングの健全化を目指しています。

インフルエンサーをロイヤルカスタマーに

編集部 : WOMJは、すでに10数年の歴史があるんですね。それを踏まえて、井上さんが考える、インフルエンサーマーケティングを成功させるポイントとは何でしょう?

井上 : インフルエンサーマーケティングにおいてもっとも大事なのは、クライアントとインフルエンサーのあいだに、良好な関係を築くことに尽きるのではないかと思います。一般的な仕事のような、受発注だけのドライな関係では、うまく行きにくい。そういう点では、石橋さんがよくご説明される、「IRM(インフルエンサー・リレーションシップ・マネジメント)」は、言い得て妙ですよね。

石橋 : ありがとうございます。IRMとは、インフルエンサーと長期的関係を構築する考え方のこと。我々も、やはり案件を通じて、インフルエンサー自身にそのブランドを好きになってもらうことが、正しいインフルエンサーマーケティングに重要だと思っています。

インフルエンサーのフォロワーである消費者よりも、まずはインフルエンサーのロイヤルティを高めることが先。たとえば、商品レビューを依頼するにあたって、インフルエンサーに商品をお送りすることがありますが、その際には、手書きの手紙を同梱するといったことを、クライアントにおすすめしています。

また、手紙には「自分たちはどういう企業なのか」という紹介と、お願いするインフルエンサーに対して「なぜ仕事をお願いすることにしたのか」という依頼理由を記載することが大切です。この2点を書くことで、依頼を受けたインフルエンサーたちのモチベーションが上がる。

インフルエンサーマーケティングは、インフルエンサーの自発性やクリエイティビティを尊重しなければ機能しないと言っても過言ではありません。自発性やクリエイティビティを尊重することがもっとも効果的で、しかもその効果が長く続くと考えています。

井上 : その視点はすごく大事ですね。スタートが仕事でも、関係性が良好であればロイヤルティが生まれてきます。インフルエンサーは単なる仕事の発注先ではなく、クリエイターであり、将来ロイヤルカスタマーになりうる人たちなんです。依頼に関しても、細かな指示出しはせず「思ったままを投稿してください」とお願いすべきです。実際、行き過ぎた指示出しなどは、情報操作と見なされる可能性もあるので、WOMJでもおすすめしていません。

 

  

 「インフルエンサーは『ロイヤルカスタマー候補』だ」と井上氏

「インフルエンサーは『ロイヤルカスタマー候補』だ」と井上氏


   

独自のKPIが必要

石橋 : 我々の考えるインフルエンサーマーケティングの目的は、彼/彼女らをロイヤルカスタマー化するということなんです。これは、インフルエンサーをターゲットにして、マーケティングしていくという形に近い。

ただ、現状インフルエンサーマーケティングは、Web広告と同じように捉えられてしまっているケースが少なくありません。インフルエンサーマーケティングが、ステマのようになってしまうのは、まさにこうした誤解が背景にあります。たとえば、インフルエンサーマーケティングのKPIを、Web広告のようにCPAにしてしまうと、成果報酬型になり、結果投稿の内容も誇大になったり虚偽に寄っていってしまう。インフルエンサーマーケティングとWeb広告とはまったく異なる施策カテゴリなので、独自のKPIを据えるべきだと思います。

井上 : そうですね。そもそも、KGIがあってのKPIなので、クライアントとはまず、何がKGIなのか、共通認識を持つことが大事だと思います。インフルエンサーマーケティングの場合は、Web広告と違い、インフルエンサーと良好かつ中長期の関係を構築することをゴールとして、KPIを設定するべきですね。

コンテンツのパワーを最大化

石橋レモネードは、そういったインフルエンサーマーケティングのあるべき姿や成功するポイントを、プロダクトの設計思想として織り込んで開発しています。また、コンテンツをほかのチャネルやメディアでも活用して、コンテンツの価値を最大化できる仕組みになっているところも、大きな特徴のひとつです。

たとえば、コンテンツをSNSの公式アカウント用に提供するだけでなく、オウンドメディアにエンベットするためのウィジェットの提供や、ほかのメディアに展開したりすることが可能です。また、そのコンテンツがどれだけ商品の購買に貢献し、どう買われたかなども分かります。また、他社と連携したサービスなのですが、店舗内のデジタルサイネージにインフルエンサーのコンテンツを流し込んで、それによって店内の滞留時間がどれだけ変化したか、計測することもできます。

インフルエンサーに作ってもらったコンテンツを、SNSだけで終わらせるのではなく、オウンドメディアやペイドメディアで展開し、それぞれの成果をきちんと表示することで、そのコンテンツのパワーがどれだけのものかを理解することができるのは、レモネードの強みだと考えています。

井上 : プロダクトの素晴らしさはもちろんなのですが、レモネードは抱えているインフルエンサーの意識も高い。先日、レモネードで仕事をされているインフルエンサーの方々と、パネルディスカッションをする機会があったんですが、クライアントのニーズを汲み取りつつも、自分のフォロワーに伝わりやすいクリエイエィブとは何かを、強く意識されている印象でした。これは結果的に、クライアントにとっても嬉しいことですよね。

石橋 : 確かに、我々が抱えているインフルエンサーの皆さんは、普段からとても研究熱心な方が多いですね。最近だとハイクオリティ過ぎるクリエイティブよりも、少しロークオリティなもののほうがエンゲージメントが高いとおっしゃる方もいました。こういった熱心なインフルエンサーを多く抱えているのも、レモネードの強みです。実際、クライアントの方からも、競合サービスよりも、エンゲージメント率が高いといった評価をいただくことが多いです。

 

「レモネードのインフルエンサーは、質の高さに定評がある」と石橋氏

レモネードのインフルエンサーは、質の高さに定評がある」と石橋氏

業界全体の健全化を推進

井上 : ところで、WOMJでは、健全なインフルエンサーマーケティング、口コミマーケティングの発展に寄与していくための具体的な対策として、ガイドラインの策定を行っています。これを業界全体に浸透させていくのが、今後の課題だと以前からお話しているかと思いますが、あらためて石橋さんがどのように捉えているかお聞かせいただけますか。

石橋 : 非常に重要なことですよね。WOMJのガイドラインがしっかり浸透すれば、ステマ対策ももっと明確になると思います。たとえば、WOMJのガイドラインでは、インフルエンサーマーケティングにおける、金銭・物品の授受の線引きは、「関係性明示」を行うべきとしているのですが、きちんと認知が行き届いているとは言い難い。

井上 : 一般的に、金銭の授受が発生したときは当然「関係性あり」だと認識する方が多いと思いますが、「物品の授受だけ」では関係性の明示を気にされない方もいるんですよね。

石橋レモネードでは、井上さんもご存知のとおり、WOMJのガイドラインに則って、マーケティング主体と、金銭・物品などの便益授受、このふたつを明示してはじめて、きちんと関係性の明示を行ったということにしています。

井上 : そうですよね。ハッシュタグやキャプションで関係性の明示を行うことをルール化されているんですよね。

石橋 : はい。レモネードでは、マーケター、クリエイター、弊社の3方向からステマを抑制する方策を実施しています。こういった取り組みを、さまざまな企業から評価いただけているのはありがたいことです。

井上 : 我々WOMJが、直接インフルエンサーや情報受信者に対して啓蒙することは難しいので、プラットフォーマーからインフルエンサーに啓蒙していただけるのは、本当にありがたいです。加えて消費者、特に若年層のメディアリテラシーの向上も、WOMJとして今後の課題と捉えています。

Webサイトの記事を見て、「これはステマだな」「これはオーガニックだな」ということをちゃんと見破るリテラシーを持つことは、これからは必須の能力ですから。WOMJで発表しているガイドラインは、法律的な文言になっているので、若い人には取っつきにくい。漫画にして、Webで読んでもらうのが一番だと思い、いまその準備にかかっているところです。

石橋 : 正しいインフルエンサーマーケティングを業界に浸透させるためには、早い段階からユーザー教育を実施することも大事ですよね。我々も引き続き、WOMJが策定したガイドラインに則って活動することで、業界の健全性に寄与したいと思っています。

 

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▼井上 一郎(写真左)
WOMマーケティング協議会(WOMJ) 理事長/江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授

1989年旭通信社(現ADK),2002年宣伝会議(月刊販促会議編集長),2004年アサツーディ・ケイ(第1XC局長ほか)を経て、2017年より江戸川大学メディアコミュニケーション学部准教授、2018年より同教授。専門は,マーケティング,統合マーケティング・コミュニケーション。昨今の関心領域は,インフルエンサーマーケティングと伝統工芸産業のマーケティングなど。日本広告学会常任理事/クリエーティブ委員会委員長、WOMマーケティング協議会理事長、伝統的工芸品産業振興協会評議員などを務める。

▼石橋 尚也(写真右)
株式会社UUUM 取締役 レモネードユニット統括
2006年、株式会社メンバーズに入社。インターネット広告事業、ソーシャルメディアマーケティング事業に従事。 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社、株式会社トーチライトなどへの出向も経験。2015年、レモネード株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。Instagram特化型の インフルエンサーマーケティングプラットフォームを提供。2018年10月、M&Aを通じて「ヒトの創造性を最大化する」を実現するためにUUUM株式会社に入社。

 

Sponsored by LMND(レモネード)

Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和