DAZN は、なぜ「無料」コンテンツを拡大しているのか?

サブスクリプション型のスポーツ専門インターネット配信(Over-the-top:以下、OTT)メディアであるDAZN(ダゾーン)が、オリジナル番組とライセンス番組を次々とペイウォールの外に出している。新規顧客を獲得しながら、既存の加入者を維持するためだ。

3000人のスタッフを擁する同社は、2020年までに20の市場に参入する計画だ。その目標を実現するため、ライブ番組だけでなくオリジナルのドキュメンタリー番組を拡大する方法を模索しはじめた。また、無料で見られるライブ番組を増やしている。

DAZNはこれまでに、世界全体で6つのオリジナルのドキュメンタリー番組を制作した。そのうちの4つは、ボクサーが試合前の8週間に経験する過酷な日々を取り上げたものだ。こうした番組の目的は、オーディエンスの関心とエンゲージメントを高めることにある。報道によれば、米国では1200万ドル(約13億円)相当の予算を注ぎ込んで、新しいコンテンツを制作しているという。

その一方で、DAZNは既存の番組の無料配信を拡大しはじめた。DAZNでスポーツのライブ番組やオンデマンド番組を見るには、月額料金を支払う必要がある。以前は、DAZNがライブ放映権を獲得した番組の多くが、ペイウォールの向こう側に置かれていた。DAZNのスポーツ番組のほとんどはライブで視聴されるため、お試し用の番組を無料で公開するにあたっては工夫が必要になる。多くのサブスクリプションメディアと同じように、無料で提供する番組の数と商品の価値を損なうリスクとのバランスが求められるのだ。

「ブラジルはものすごい状況に」

DAZNは、同社にとって9番目の市場であるブラジルで、イタリアのサッカーリーグ「セリエA」と、フランスのサッカーリーグ「リーグ・アン」の2021年までの独占放映権を獲得している。サービス開始に先立って、FacebookやYouTubeで一部の試合を無料配信した。また、ブランドアンバサダーを務めるロナウド氏やネイマール氏の協力を得て、ソーシャルメディアで新しいサービスの開始を取り上げてもらった。サッカーのインフルエンサー集団「デシムペディドス(Desimpedidos)」と提携し、YouTubeで配信する際に試合の解説者を務めてもらったこともある。

「ブラジルはものすごい状況になった」と、DAZNでコミュニケーションおよび新市場担当バイスプレジデントを務めるサラ・ビーティー氏は、ソーシャル動画企業のグレイビヨ(Grabyo)がロンドンで開催したイベントで述べている。「我々は大きなうねりとソーシャルオーディエンスを作り出した。いまは、人々に加入を促すため、適切なコンテンツミックスに移行しているところだ」。

DAZNによれば、いくつかの試合をストリーミング配信した結果、ブラジルで開設したYouTubeチャンネルの登録者は3カ月で100万人を突破したという。現在の登録者数は150万人だ。また、デシムペディドスから解説者を迎えてパリ・サンジェルマンFCとボルドーの試合をYouTubeで配信したときは、28万人を超える人がアクセスした。ライブ配信に人々を呼び込む目的で試合前に配信した自社制作の番組も、1試合あたり平均60万人以上の人々に視聴されたという。

ナーチャリングする方法

もちろん、ソーシャルメディアのフォロワーと有料購読者は同じではない。だがDAZNは、フォロワーから有料購読者への移行が進んでいる状況に「満足している」と、ビーティー氏は述べている。

「我々は長い時間をかけて、何が転機になるのかを探ってきた」と、同氏はいう。その転機は、スポーツの種類や市場、あるいは配信時間によって変わってくる。また、その市場における権利保有者との契約条件や、そのスポーツでDAZNが目指している目標によっても違いが出る。たとえばブラジルでは、いつもサッカーがDAZNのOTTプラットフォームにとって大きな推進力となっていた。

「ファンにとって価値の高い番組は、間違いなく役に立つことがわかった」と、ビーティー氏はいう。「自社プラットフォーム以外の場所で、うまく人々とエンゲージできれば、彼らを無料トライアルのユーザーや有料購読者に移行できる機会は、はるかに大きくなる」。

そこでDAZNは、ライブ配信する試合に関連した番組をソーシャルメディアで公開し、オーディエンスを自社のプラットフォームに誘導することにした。ボクシングの試合放映権を獲得した米国では、試合のプロモーターと連携して前座の試合を配信している。スペインでは、オートバイの世界選手権「MotoGP」のプラクティスセッションを配信した。

非公開企業であるDAZNが加入者数を公表することはめったにない。その同社が2019年はじめに述べたところによれば、加入者数は世界全体で400万人を超えているという。

オリジナル番組制作の戦略

DAZNは、無料で配信する自社制作のオリジナル番組についても、戦略をますます洗練させている。MotoGPの放映権を獲得したスペインでは、2月のサービス開始を前に、人々が思ったほど関心を抱いていないことに気づいた。MotoGPの番組がペイウォールの向こう側に置かれていたからだ。そこで、3人のスペイン人ライダーを取り上げた「イン・アワー・ブラッド(In Our Blood)」というドキュメンタリー番組を無料で公開し、MotoGPに対する人々の情熱や競争心を駆り立てる取り組みを行った。

ほとんどのスポーツは限られた季節にしか行われない。そのため、DAZNはオリジナル番組を制作して、人々を自社のプラットフォームにとどめようとしている。顧客を再び獲得するにはコストがかかるため、ユーザーに登録を解除されるくらいなら、アカウントを一時停止されるほうがいい。

「オリジナル番組は、ユーザーを維持するための推進力としてますます重要になっている」と、ビーティー氏は話す。

DAZNは2018年、ドイツ人サッカー選手のマリオ・ゲッツェ氏を取り上げたドキュメンタリー番組「ビーイング・マリオ・ゲッツェ(Being Mario Götze)」を公開したが、その狙いも、サッカーの試合がほとんどない夏季にサッカーへの関心をとどめてもらうことにあった。

努力は実を結びつつある

ビーティー氏によれば、DAZNのこうした努力は実を結びつつあるようだ。DAZNはドイツで、2019年のFIFA女子ワールドカップの放映権を2つの公共放送局(ARDとZDF)と分け合っている。無料で試合を見られる場所があるのだから、人々はDAZNの有料プラットフォームで試合を見ようという気持ちにはなかなかならないだろう。

「(人々が)DAZNで見ることを選択したのなら、彼らを呼び込んだり彼らにとどまってもらったりするのに役立った取り組みが存在することになる」とビーティー氏はいう。「解約や利用停止をしていたかもしれない人たちに、番組がどのような効果をもたらしているのかを知ることで、我々のモチベーションは大きく高まる」と、ビーティー氏は語った。

Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)
Image: Courtesy of Dazn.