「意見の衝突は大歓迎」:パフォーマンスとブランド、 D2C のバランス感覚は?

男性向けスポーツウェアブランドのローン(Rhone)では、広告キャンペーンの計画においてパフォーマンスマーケティングチームがクリエイティブの展開を、ブランドマーケティングチームがブランドのメッセージを担当する。同ブランドの共同創設者兼CEOのネイト・チェケッツ氏によると、目標はローンによる広告全体に一貫性をもたせることにあるという。だが、それによって衝突が生じることもある。

「ブランドチームからは、『この広告は嫌いだ。美しくないし、当社の狙いを表してもいない』といった意見を表明してほしい」と、同氏は語る。「そして、パフォーマンスチームからは、『確かにそうかもしれないが、そちらの広告より2倍の効果を出している』といった意見が聞きたいのだ」。

デジタルネイティブのブランドでは、こうした緊張関係を役員が取り持つ場合が少なくない。パフォーマンスマーケティングの観点で最適なやり方は、必ずしもブランドにとって最適なこととは限らない。

デジタルネイティブブランドは、最初のカスタマーをFacebookやGoogleといったパフォーマンスマーケティングのチャネルで獲得したケースが多い。そこでの広告効果は単にコンバージョンやクリック、広告費用に対するリターンを追跡するだけで済む。だが、企業が成長し、使える予算が増えるに従って、従来の伝統的なブランドマーケティングチャネルに興味を示すようになる。

「ブランドマーケティング」の位置づけは企業ごとに異なるが、テレビCMや屋外広告、イベントなどを指す場合が多い。こういった種類の広告キャンペーンの目標は、必ずしも最小費用でカスタマーの獲得数を最大化することではなく、カスタマーからブランドをより肯定的に見てもらうことにある。これはクリック数だけで測ることはできない。

従来のブランドは、常にこういった社内の緊張関係と向き合ってきた。だが、いまのFacebookやGoogle広告とともに生まれたデジタルネイティブなブランドの場合、パフォーマンスマーケティングチームが先に確立している。

チェケッツ氏は、これが必ずしもも悪いことではないと指摘する。「意見の衝突はあったほうが良い」と、同氏は主張する。「それがマーケティングにおける健全なシステムなはずだ」。

芸術と科学の衝突

最高マーケティング責任者(CMO)は、しばしばブランドマーケティングチームとパフォーマンスマーケティングチームのあいだの緊張関係を、芸術と科学の衝突にたとえる。企業の「芸術」の側面と「科学」の側面が、どのように対峙するかは、スタートアップごとに異なる。

たとえば、スタイリングサービスのスティッチフィックス(Stitch Fix)のCEOカトリナ・レイク氏は、今年はじめに行われた業績発表のなかでパフォーマンスマーケティングについて、同社の「収益を支える重要な存在」と位置づけている。だが、スティッチフィックスは、同じく今年初頭にはじめての「統合ブランドマーケティングキャンペーン」をローンチしている。6月に行われた同社の第3四半期業績発表によれば、同社はこのキャンペーンに1600万ドル(約17億円)を投入している。レイク氏は、同キャンペーンの目的を「既存のクライアントや潜在的なクライアントとのあいだに感情的なつながりを生み出す」としている。

クリスティーナ・アンジェリ氏は、スティッチフィックスのブランドおよびクリエイティブ担当の前バイスプレジデントを務め、2017年に退任した人物で、現在は独立系コンサル企業に勤めている。同氏は、スティッチフィックスのパフォーマンスマーケティングの特徴に影響を及ぼす要素をふたつ挙げている。まずひとつ目が、同社の本部が、データの世界であるシリコンバレーにあることだ。そしてもうひとつが、スティッチフィックスはカスタマーに欲しい服に関するデータの送信を求め、そのデータをもとにカスタマーに新しい服のデータを送るというシステムに基づいた価値提案を行っていることだ。だが、アンジェリ氏は、スティッチフィックスに加わった理由として、データを主軸に置く企業でありながら、ブランドの重要性も追求する姿勢が好ましかったためとしている。

ローンでは、チェケッツ氏はブランドにとってのパフォーマンスの重要性を強調してきた。同氏は初年度はローンのデジタル広告支出をあえて抑えることで、デジタルマーケティングに偏重しすぎないようにしている。同氏にとって、初年度のデジタル広告支出は、月に5000ドル(約54万円)以下だった。そして、ブランドマーケターとパフォーマンスマーケターが常にお互いに意思疎通できるように配慮して、マーケティングチームを組織した。

「(ブランドとして)まさにこうして強くまとめあげられたメッセージを生み出そうとしているところだ」と、チェケッツ氏は語る。「カタログや写真など、当社の商品の提示について一貫性をもたせたい」。

長期的視野でブランドを構築する

パフォーマンスマーケティングの面では成功したと見なせる広告も、ときとしてブランド面で長期的には良くない場合もある。チェケッツ氏は例として、大幅割引の広告を流し続けるケースをあげた。これによってクリックやコンバージョンは増えるかもしれないが、ブランドの利益を生み出す能力には悪影響となるおそれがある。
だが、こういった決断は答えが明白ではない場合も多い。たとえば、アンジェリ氏はスティッチフィックスに勤めていたころ、ホームページの刷新を進めようとした。当時のスティッチフィックスのホームページはモデルの写真が1枚掲載されているものだった。アンジェリ氏はスティッチフィックスがホームページを変更しようとするたびにコンバージョンが下がったため、結局同じ写真を2年近く使い続けることになったという。だがアンジェリ氏は、長期的に見れば複数の服の画像を掲載した方が潜在顧客のコンバージョンに繋がりやすいと考えた。スティッチフィックスの価値提案は、カスタマー個人のファッションスタイルに合わせた服を見つけてくれることにあったからだ。

創設者やマーケターらは、パフォーマンスとブランドマーケティングチームのあいだの緊張関係を取り持つ最適な方法は、双方を知る人物を最高マーケティング責任者に据えることだと指摘している。クリックやコンバージョンなどの指標も追いつつ、それ以外の判断基準も持ち合わせている人物だ。

男性向けアパレルブランドのミゼンプラスメイン(Mizzen + Main)で最高マーケティング責任者を務めるステファニー・スウィングル氏は、ブランドとパフォーマンスマーケティングチームのあいだの緊張関係を取り持つため、各キャンペーンで異なるKPIを設定してマーケティングチーム全員がそのKPIを把握するよう徹底したという。KPIは収益ベースの目標となる場合が多いが、ブランドマーケティングキャンペーンではキャンペーンでウェブサイトを訪れたカスタマーの閲覧ページ数、キャンペーンで登録されたメールアドレスの増加数などの指標も用いられた。

「この場合、リスクも有る。ファネルを通じて適切なカスタマーを呼び込む助けにならないような上部ファネルやブランド指向の取り組みを設定してしまうリスクだ」と、スウィングル氏は語る。

またブランドマーケティングの短期的な効果を測る方法もある。アンジェリ氏とスウィングル氏はいずれもソーシャルメディアのコメントによく目を通すという。新しいクリエイティブや広告キャンペーンに対するカスタマーの反応を見たいからだ。

また、ブランドマーケティングのトップは、ブランドマーケティングの重要性を効果的に伝達でき、たとえ一部に嫌がられてもブランドの重要性をはっきりと主張できる人物が務める必要がある。

アンジェリ氏は、スティッチフィックスに勤めているときに役員幹部らに対してブランドマーケティングの重要性を次のように説明したという。スティッチフィックスの真似をするところは必ず現れる。そのときにカスタマーがスティッチフィックスから離れないように、カスタマーと強い心理的な絆を結ぶ必要があり、それを成し遂げられるのは、ブランドマーケティングだけだ、と。

「こういったやりとりを通じて、長期的視野でのブランド構築を行っているという理解を得られる」と、アンジェリ氏は語った。

Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)