デジタルパブリッシャーが 生き残るための 5つの提言:「DPS 2018 KYOTO」を終えて

「エンゲージメント」という言葉の重みが、いよいよ増している。

DIGIDAY[日本版]では2月8日・9日、ウェスティン都ホテル京都にて「DIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2018(以下、DPS)」を開催した。新聞社、出版社、テレビ局など、国内外における有数のパブリッシャーおよびパートナー企業から計167名が集い、デジタルパブリッシング業界の今後について議論を交わした。

日本におけるDPS開催は、今回が3度目。これまでの2回では、「量から質へ」が合言葉だったが、「メディアエクスペリエンス」というテーマを掲げた今回は、その「質」の部分がより深く、より具体的に話し合われたという印象だった。なかでも、そうした雰囲気を象徴するセッションが、米DIGIDAY編集長のブライアン・モリッシー(TOP画像)が登壇した「ポストプラットフォーム時代におけるメディア」だろう。

これまで、さまざまなパブリッシャーのエグゼクティブに取材を行なってきたブライアン。セッションでは、そのなかから特に印象に残ったインタビューイーの言葉を引用し、プラットフォーム至上主義に陥った業界の問題点をあらためて指摘した。

「GoogleとFacebookの複占は、パブリッシャーを死に追いやっている。プラットフォームはいまや人々の生活に欠かせない存在で、悪魔の契約を交わさざるを得なかった。彼らは我々のコンテンツを使い、あらゆるデータやオーディエンスを牛耳ろうとしている」。

「CPMが高いだけで、動画広告の活用に踏み切るなんてのは馬鹿げている。それは正しい回答ではない。広告のフォーマットが、劣悪なバナーから少しマシなものに変わっただけのことだ」。

「もし多くの注目を集めたいなら、『ビヨンセが双子を妊娠した!』という30秒のテキスト付き動画を作るといい。そうすれば、確実に効果が出ることをわかっているはずだ」。

「多くのパブリッシャーが、コンテンツの価値を度外視して、ユーザーのcookieデータやリターゲティングに焦点をシフトしている。プログラマティック広告は、どんなパブリッシャーにも、少しの利益ももたらしていないのにだ」。

これらの発言からブライアンが導き出した問題点は、メディアのコモディティ化、メディア戦略のブレ、メディアの画一化、などがある。さらに、現在のデジタルパブリッシャーはなんのメリットもない「底辺の戦争」を繰り広げていると一刀両断した。そのうえで、今後パブリッシャーはどのように生き残るべきか、次の5つの提言を示す。

 1. 「feed」ではなく「need」
 2. ブランドへの積極的投資
 3. ユーザーとの直接的なつながり
 4. マーケティングのためのプラットフォーム活用
 5. バランスの取れたポートフォリオ組成

この5つは、まさに今回のDPSを総括するにふさわしい。毎回、DIGIDAY[日本版]のイベントではラップアップとして、「5 things we’ve learned(私たちが学んだ5つのこと)」というコンテンツをまとめているが、今回はこの5つのワードを拝借して、DPS全体を振り返ってみることにする。

「feed」ではなく「need」

1月に発表されたFacebookのニュースフィード改変以降、Facebook依存の著しかった米デジタルパブリッシャーは、ビジネスモデルの見直しに右往左往している。このような動きについてブライアンは、「『feed』ではなく『need』」というブリーチャー・レポート(Bleacher Report)のCRO兼CMOを務めるハワード・ミットマン氏の言葉を借りて表現した。

日本においてFacebookのポリシー変更は、それほど大きな影響を及ぼしていない。しかし、実際、相手が違うだけで状況は大差ないだろう。今回の件で、パブリッシャーにとって、ニュースフィードやポータルサイトのニュース欄で反響を得られるコンテンツは、重要ではないことが判明した。いま重視すべきは、自社サイトに対してロイヤリティの高い読者のニーズに応えられるコンテンツなのだ。

今回のDPSでは、そのような「プラットフォーム依存」という病に対して、さまざまな本格的対処が試みられているという印象が強く残った。パブリッシャーのみで意見交換をしあうセッション「Publisher Town Hall」における日本経済新聞社・戸井精一郎氏の発言にも、それは色濃く表れている。

「デジタルパブリッシャーは、自立しなくてはいけない」と、戸井氏は語る。「プラットフォームに依存していては、今後のビジネスモデルが成り立たない」。

日経は、「優良なコンテンツは、すべからく有料でなければならない」というポリシーのもとサブスクリプションモデルを取り入れ、その拡大に努めて来た。現在、グループ企業のフィナンシャル・タイムズ(Financial Times)と合わせると、同社の有料会員数は114万人(日経:50万人、FT:64万人)。世界最大の有料会員数を誇るニューヨーク・タイムズ(The New York Times:155万人)に次ぐ、世界第2位の規模を誇る。

ブランドへの積極的投資

メディアのコモディティ化、メディアの画一化は、プラットフォーム依存による重篤な症状のひとつだろう。規模を求め、アルゴリズムにおもねるあまり、自らの立ち位置を見失ったメディアの行く末だ。そうならないためにもデジタルメディアは、しっかりと差別化されたブランドを確立させるために、積極的な投資をしなくてはいけないと、ブライアンは語る。

「プレミアム デジタル パブリッシャー:新ビジョンの目指すところ」に登壇した、北田 淳氏が社長を務めるコンデナスト・ジャパンは、メディアブランドの構築とその活用に成功したパブリッシャーだ。現在、独自のブランデッドスタジオによるコンテンツマーケティング支援サービスが好調な同社は、過去2年連続して最高益を記録した。特に、これまでのエディトリアルコンテンツによって築き上げてきたイメージにより、ハイブランドからの引き合いが後を絶たないという。

「編集者の力が大きい」と、この成果の要因について、北田氏は語る。「データも大事だが、エモーショナルなコンテンツが非常に大事になる。こうした編集という作業からもたらされる価値は、計り知れない」。

ユーザーとの直接的なつながり

昨今、アメリカに限らず、日本のパブリッシャーでもイベントやメールマガジン、アプリケーションなどに注力するところは多い。サードパーティのプラットフォームに依存せず、ユーザーと直につながるということは、得られる規模こそ小さいものの、エンゲージメントの深さは比べ物にならないと、ブライアンは説明する。

『家電批評』『MONOQLO』『LDK』などの商品テスト雑誌を出版する、晋遊舎のサイト「360.life」は、その最たる例のひとつだろう。ユーザーのニーズに対して100%コミットし、嘘偽りのない商品テスト結果を実施するために、広告を一切表示していない。そのおかげか、わずか創刊1年で、すでに月間1000万ビューを獲得する人気サイトとなっているという。

「『360.life』には、広告収入以上に期待できる、別の可能性があると思っている」と、晋遊舎社長の西尾崇彦氏はセッション「『広告非掲載』を貫く、the360.life の勝ち筋」にて語った。「雑誌はベストバイを紹介するメディア。360.lifeは、マイベストを教えてあげられるメディアにする。まだ、デジタルメディアにおけるマネタイズの道すじは出来ていないが、パーソナライズを極めることで、新しい世界が拓けると考えている」。

マーケティングのためのプラットフォーム活用

デジタルパブリッシャーが抱き続けてきた誤解は、オーディエンスがプラットフォームに存在すると思っていたことだと、ブライアンは指摘する。実際のところプラットフォームには、ロイヤリティの高いオーディエンスは存在しない。しかし、新規読者の開拓という意味では、いまだプラットフォームは強力な威力を発揮する。つまり、デジタルメディアはプラットフォームをブランドを確立するためのマーケティングツールと捉えるべきなのだ。

ブルームバーグ(Bloomberg)のグローバルCRO、キース・グロスマン氏が登壇した「TicToc by Bloomberg:Twitterと連携した新たなニュース配信への挑戦」では、そうした新しいプラットフォーム連携のあるべき姿が示された。昨年12月にローンチされた同社の「TicToc(ティックトック)」は、Twitterで独占配信している24時間ライブ動画ニュースチャンネル。公開から1カ月で、早くも収益的な成功の兆しをみせているという。

「すべてのプラットフォームにおいて存在感を出していきたいという欲求は理解できる」と、グロスマン氏は語る。「しかし、コンテンツをすべて、プラットフォームへただ投げ込むだけでは、自らのブランド体験を構築できない」。

バランスの取れたポートフォリオ組成

すべてのビジネスにおいて、バランスの取れたポートフォリオの組成は重要だ。デジタルパブリッシャーにおいては、広告だけに収益を依存したり、オーディエンス拡大についてプラットフォームに委ね過ぎたりしてはいけないと、ブライアンは指摘する。

「Publisher Town Hall」において、マガジンハウスの及川卓也氏は、同社のデジタル戦略について、次のように説明した。「『an・an』はある意味、フロー型のコンテンツ、つまり規模で勝負するメディア。『Casa BRUTUS』は、サブスクリプションやCRMなどの領域で勝負するメディアだ。それに対して『コロカル』は、100万PVでいかにマネタイズするかというのがテーマになっている。そこは、それぞれのブランドの戦略を持って勝負している」。

今回のDPSでは、ほかにも示唆に富んださまざまなセッションが展開され、「エンゲージメント」という言葉の各社なりの解釈が明確に示されたように思う。もちろん、まだ広告モデル以外の成功のセオリーというものが確立されたわけではないが、それぞれの試みに対して大きな希望が感じられた。次回のDPSは、2019年2月にまた京都で開催する予定だ。

Written by 長田真