マーケティングを一元管理できる、マネジメントの考え方: パーセプションフロー・モデリング の基本

本記事は、WPPグループ最大のデジタルエージェンシー、VMLの日本法人の代表と、株式会社FICCの代表取締役を兼務する、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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マーケティングの成功には、さまざまな専門家との連携が必要です。無数のチャネルやプラットフォームを駆使して、消費者行動に影響を与えるために、厳しい資源の管理が求められます。現代のマーケティング組織が正しく機能するためには、専門家同士の意思疎通を実現し、マーケティングの計画から実行、そして効果測定までの一元管理を可能にする仕組みが求められています。

マーケティングのデジタル化は細かい計測や軌道修正を可能にした反面、説明責任を増やしました。いまや、消費者行動の全容を把握し、施策との因果関係を定量的に示せなければ、十分なマーケティング管理が行われているとは言えません。しかし、現実は理想から遠く、ほとんどのマーケティング組織が全体を示す設計図を持たないまま動いているのです。

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Coup Marketingの音部大輔氏が考案したパーセプションフロー・モデリングは、消費者の認識変化を段階的に描き、マーケティング・コミュニケーションの全体像を可視化するマーケティング・マネジメント手法です。施策と消費者行動、成果指標や媒体との関係を理解することで、組織の意思疎通と連携や、計画から実行、効果測定の一元管理が可能になるのです。

マーケティング・コミュニケーションの全体像を示すパーセプションフロー・モデルは、一見複雑に見えるかもしれません。しかし、一つひとつの構成要素はとてもシンプルであり、構造さえ理解すれば、その習得は決して難しいものではありません。しかし、パーセプションフロー・モデリングを学ぶ機会は決して多くはありません。今回は、その構造が理解できるよう、「新規顧客の獲得」という、もっとも一般的なマーケティング課題に対応する仮説テンプレートを作成しました。もちろん万能なものではありませんが、汎用性は重視しています。ぜひ実際の商品やサービスを当てはめて読んでみてください。

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パーセプションフローモデリングの前提条件

パーセプションフロー・モデリングの主な役割は、マーケティング・コミュニケーションの設計と管理であり、戦略を導き出すことではありません。活用の前提条件として、ブランドの収益源となる「競合」と、保有する「属性」の違いが定義されている必要があります。

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パーセプションフロー・モデルの構成要素

パーセプションフロー・モデルは、行動、パーセプション、知覚刺激、KPI、メディア・媒体の5つの要素で構成されています。メディア・媒体を通じた知覚刺激により、消費者は新しいパーセプションに気付き、その行動を変えます。この組み合わせは購買行動における認識変化の一段階を表し、鎖状につながることでマーケティングの全体像を可視化します。

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  • 行動:認識の変化に伴う行動・態度変容
  • パーセプション:行動・態度を左右する情報の解釈
  • 知覚刺激:新しい認識を与える外部からの情報
  • KPI:成果を示す指標
  • メディア・媒体:知覚刺激を効果的・効率的に届けるもの

パーセプションフロー・モデルの段階構造

それでは、パーセプションフロー・モデルの段階構造を見ていきましょう。この段階構造を理解することで、マーケティング・マネジメントを大きく簡略化することができます。現在マーケティングの計画を進めている商品などがあれば、是非当てはめながら読んでみてください。

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パーセプションフロー・モデルの段階は「現状」からはじまります。この例は新規顧客の獲得を目的としているため、消費者が競合を選択している状態を示します。競合に満足していない消費者は新たな機会や、問題を認識することで、次の「認知」の段階へと進みます。

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この段階が示す「認知」は、商品やブランドの認知ではなく、得られる機会や、解決すべき問題の認知です。機会や問題の認識は、人に現状への不満を与え、代替の選択肢を意識させます。そして、ブランドが状況の改善につながる属性を満たしていることを認識し、提供される便益が自分と合致していると感じれば、状況の改善を期待し、「興味」を持ちます。

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次の「興味」から「購入」に向かう段階はいくつかの要素を含みます。まずは、代替品を検討し、商品が最善の選択であるかという確認です。商材によって、これが買い場で瞬時に行われるものか、外部の情報探査を含め、長期的に行われるものかは異なります。次に、どのような商材でも消費者が完全に合理的な購買判断に至ることはないため、購買を正当化する「口実」が求められます。コストやリスクを正当化するものや、購買から得られるまったく別のメリットなどが考えられます。そして、配架が高く、商品が簡単に購入でき、買い場で簡単に見つけれることも購入を大きく左右します。

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購入後、消費者は商品の「使用」を通じて便益を実感します。より多くの消費者が便益を享受できれば、再購入や推奨を増やすことができます。消費者が商品の効果を十分に認識し、便益を実感できるよう、正しい製品の利用方法の啓蒙と、期待値の設定を行いましょう。この段階で得た期待値は、後の再購入や口コミの段階にも影響を及ぼします。

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再購入が発生する消費財ブランドにとって、次の「使用」から「満足」への段階はとても重要です。この段階では「認知」から「興味」への段階で形成された期待値が満たされたという認識によって、製品に対する満足感と、ブランドへの信頼が生まれます。事前に期待値を設定し、便益や製品効果の実感方法を伝える必要があります。

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「満足」から「再購入」の段階では、便益や製品機能を伝え直すだけでは不十分です。消費者が新たな商品を選択しないよう、継続使用のメリットと離反のコストを啓蒙します。別の商品を選ぶことで失われる機会や、発生する問題を認識すれば、再購入の確率は大幅に伸びます。

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最後は「再購入」から「口コミ」への段階です。人は期待値を超えた体験や、予想外の体験を周りに伝えたいと思います。そのため、購入時の期待値は超えられるように設定します。期待以上の体験と、自身が愛用者である証を認識すれば、ブランドへの信頼を超え、愛着が生まれます。また、口コミを起こすためにはブランドを推奨する機会を提供する必要があります。顧客に無理やりブランドの推奨を求めるのではなく、愛着を持った人が、自然に周りとブランドの会話ができる機会を提供しましょう。

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パーセプションフロー・モデリングを用いれば、認識変化を軸とした消費者行動の分析と再現が可能になります。これはマーケティング組織の共通言語となり、専門家同士の意思疎通と連携を可能にします。そして、マーケティングの全体像を描くことにより、計画から実行、そして効果測定までの一元管理が可能となるのです。

✔︎ 消費者行動の分析と再現が可能になる
✔︎ 専門家の意思疎通と連携が可能になる
✔︎ マーケティングの一元管理が可能になる

私は、10年前にある食品メーカーの仕事でパーセプションフロー・モデリングと出会い、本来は競合関係にある複数のエージェンシー同士の自主的な協働を体験しました。クライアントを含め、全員がマーケティングの全体像を理解し、同じ目的に向けてワンチームとして機能していたのです。マーケティングに勢いを与えるのは、個々の能力ではなく、チームの強さです。是非、パーセプションフロー・モデリングというマネジメント手法を取り入れ、マーケティング組織の強化を実現してください。

Written by 荻野英希
Photo by Shutterstock