中国から世界を目指す、 TikTok のクリエイター獲得戦略:中国発サービスのポテンシャル

2016年、口パク動画作成アプリのMusical.ly(ミュージカリー)は数百万人の若者の支持を集めて、App Storeのランキングを駆け上った。同アプリはユーザーがセクシーさを競ったり面白い動画を上げたりして、お互いに毎日楽しむ場所となった。

だが、10代のユーザーたちの注目を集めたこのアプリも、活躍の場はスマホのみにとどまっており、これはアプリのオーナーである中国のメディア会社、バイトダンス(Bytedance)の方針でもあった。そんななかバイトダンスは8月2日、Musical.lyを同社の海外市場に向けた、はるかに大規模なアプリであるTikTok(ティックトック)と統合した。

Tik Tokは短尺の動画とライブストリーミングのためのアプリで、言うなれば投稿されるコンテンツがすべて縦型動画のインスタグラム(Instagram)のようなものだ。同アプリのコンテンツはVine(ヴァイン)を彷彿とさせ、誰でもバイラルマーケティングを狙ったり、面白動画を作ったりできる。TikTokのチームは過去数年間、インスタグラムの海外のインフルエンサーを呼び込む試みを続けており、6月にはアクティブユーザーが5億人を記録したと発表している。現在同アプリは、アメリカに向けた宣伝攻勢を強めており、ユーザー層の拡大と、ひいては広告主の呼び込みを狙っている。

動画エージェンシーのエピック・シグナルでエグゼクティブバイスプレジデントを務めるブレンダン・ガーハン氏は「ブランディングの観点からすると、これは短期的な取り組みだが、うまくいけば長期的な成功につながる可能性がある。Musical.lyは口パク動画以外にも広がりを見せており、まだまだポテンシャルがある。メインストリームになるためには、ニッチから抜け出す必要があるだろう」と、指摘する。

世界的なリーチ

そのための手段のひとつがクリエイターの呼び込みだ。8月1日に、TikTokはロサンゼルスでMusical.lyとの統合を祝うパーティーを開催した。アメリカのTV番組ワッツトレンディング(What’s Trending)のCEOでありパーソナリティーも務めるシラ・ラザー氏もこのイベントに招待された。長年にわたりMusical.lyでの動画作成と同アプリのユーザーの支援を行ってきた同氏は、このイベントのメッセージはTikTokの世界的なリーチだと指摘する。インスタグラムはSnapchat(スナップチャット)を打ち負かしてYouTubeのユーザーを奪いつつあるが、中国国内でアクセスできるのはTikTokだけなのだ。

ラザー氏は「Musical.lyの創始者は、ステージで中国とアメリカの間のギャップを橋渡ししたいと語っていた。ラテンアメリカや中国、アメリカのクリエイターが集まり、国境のないクリエイターのエコシステムを作り出している。素晴らしいことだと思う」と語る。


Musical.lyがハリウッドで開催したパーティーで#TikTokに統合されることを発表!より幅広いユーザーやクリエイターにアピールできるようになる、今回のブランド変更と統合には大賛成。

TikTokのグローバルマーケティング部長を務めるステファン・ハインリッヒ氏によると、同アプリはアジアやラテンアメリカ、中東、インドで使われているという。TikTokに入社する前にはMusical.lyに勤めていた同氏は、YouTube Redで商品マーケティング部長を務めた経歴も有する。

TikTokについて、「自分とは関係の薄い、非常に短時間のトレンドになっている動画を気軽に楽しみたい人のためのサービスで、そうした人々にとって魅力的な動画がそろっている。時間は貴重というのが当社の信念で、スローガンも『一秒も無駄にしない(Make every second count)としている』だ」と、ハインリッヒ氏は語る。

マネタイズの手段

とはいえクリエイターの時間は限られており、YouTubeやインスタグラム、はてはSnapchatに至るまで、各プラットフォームはクリエイターや広告主との関係性をすでに確立している。だが、TikTokもまた成長の過程で、ほかのマーケットからクリエイターを取り込んできた経験がある。KrAsiaによると、TikTokのチームはすでにインドネシアやタイで人気のインスタグラムのクリエイターの獲得に成功したという。

また、TikTokには公式の収益化プログラムが存在しない。現時点で、TikTokの生放送が実施できるクリエイターは限られており、TikTokはアプリ内のチップ(100コインでおよそ110円)の一部を収益として受け取っている。TikTokはインフルエンサーが自分自身でブランドとスポンサー契約することを許可しており、そうした契約を結んでもTikTokへの支払い義務は発生しない。

Musical.ly(TikTok)がオーディエンスと収入の多様化につながっているクリエイターも存在する。Snapchatで人気の俳優、ビリー・マン氏は、トップクリエイターの紹介で2017年にMusical.lyをはじめた。それ以降、同氏にとってMusical.lyのインフルエンサーマーケティングは非常に大きな収入になっているという。

マン氏は、TikTokは「副収入としてありがたい。請求書はぜんぶこの副収入で支払えているよ」とし、「TikTokで生み出される金は莫大だ。インスタグラムやFacebookのようにね」と語った。

価格に残る課題

クリエイターにとってMusical.lyでの副収入には問題も存在する。価格決定の仕組みが整備されていないという点だ。マン氏によると、ほかのプラットフォーム上のインフルエンサーマーケティングの相場を知らない新規クリエイターたちは、Musical.lyでフォロワー数や投稿のエンゲージメント数に見合わない安い価格での契約に合意してしまうことがあるという。Musical.lyはこうした契約を主導する立場にないものの、相場の説明は今後、Musical.lyやクリエイターのコミュニティーが行っていくべきだろう。

マン氏は「Musical.lyのインフルエンサーはくだらないことを投稿して楽しみたいだけ、という見られ方から脱却しつつある。私たちはコンテンツを作り出し、プロジェクトを進めて生活費を稼ごうとしている独立した事業主なんだ」と語る。


TikTokでの競争は激しい。アメリカ市場でのデジタル広告費用は、FacebookとGoogleによるものが大半を占めている。Musical.lyは、TikTokに統合される直前にエージェンシーに広告ユニットの売り込みを行った。TikTokのハインリッヒ氏は、今年後半にかけて同アプリがアメリカで広告商品の販売を開始する予定だと明かした。

TikTokの独自性

ラザー氏は、TikTokは独自性を強調すべきだと指摘し、次のように語った。

「TikTokの規模は非常に大きい。だがSnapchatやインスタグラム、YouTubeのようなユーザーに関連したコンテンツや信頼性を備えているのか? TikTok上でのスターには、どんな価値があるのか? そしてTikTok上でのバイラルは、どういう意味を持つのか?」。

Kerry Flynn(原文 / 訳:SI Japan)