データドリブンマーケティングの「ロードマップ」の作り方:企業のデジタル推進を実現するために

本記事は、FICC代表取締役社長と、VML Tokyoの代表を兼務する荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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データドリブンマーケティングの利点は明らかです。 データに基づく軌道修正と改善は、マーケティングチームが成果にコミットできる唯一の実践的な方法です。また、測定可能な仮説と適切なデータ分析に基づくマーケティングの意思決定は、ブランドの持続的な成長を可能にするものです。

マーケティングは統計学に裏打ちされた科学的分野であり、その活動はそもそもデータドリブンであるべきです。相手の反応を定量的に記録し、改善に活かす「インタラクティブマーケティング」の概念は、90年以上も前に、クロード・ホプキンスの『科学的広告法』(1923)によって確立済みです。いまになって、あらためてマーケティングにデータの活用が求められる背景には、計測可能な項目やデータ量の爆発的な増加に、私たちのマーケティングが対応できていない現状があります。現代市場において有効なデータドリブンマーケティングを実行するためには、闇雲にデータを収集する前に、そのプロセスを見直すべきでしょう。

多くのデータを収集し、統合し、分析すれば、意思決定に役立つヒントが得られるという考え方は間違っています。少なくとも、ひと握りの世界的なIT企業以外に、十分なデータ量や分析技術の獲得は現実的ではありません。一般企業が闇雲にデータを収集しても、手元にある断片的な情報から、有効なマーケティングの意思決定を行うことはできないでしょう。

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データに基づく意思決定は、目的、仮説、そして実行・検証方法の定義による事前設計が必要です。データやテクノロジーは、明確な方向性があってこそ、マーケティング効果の改善に役立てることができます。持続的かつスケール可能なデータドリブンマーケティングの実現には、正しいプロセスを示すロードマップと、規律を持った実行が欠かせません。

①目的

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ビジョン・ミッション
組織のなかでデータドリブンマーケティングの推進を担うのは、主に複数のブランドやマーケティング機能を横断する部署です。しかし、そもそもデータドリブンマーケティングに取り組む目的が明示されていなければ、ブランドやマーケティング機能を担当するチームとの衝突が発生し、推進が困難になります。会社組織の目的と合致するビジョンと、その達成方法(ミッション)を定義する指標がなければ、横断部署によるデータドリブンマーケティングの推進は見込めません。

マーケティング戦略
戦略は、目的の達成に向けた資源活用の指針であり、目的や資源に変更がなければ変えるべきではありません。施策の結果がマーケティング戦略に影響を与えないことはありませんが、しっかりとした現状分析に基づくマーケティング戦略であれば、大きな変更を行う必要はないはずです。また、データドリブンマーケティングを推進する部署にとって、マーケティング戦略は他部署によって定められるものであるはずです。そのため、上記のロードマップではマーケティング戦略を「目的」の段階に含めています。

プロジェクト目的
すべてのマーケティング活動の目的は、高いマーケティングROIの実現です。データドリブンマーケティングは、高いROIの実現のために意思決定の速度と精度を改善します。デジタル施策がROIに直接的な影響を及ぼすダイレクトレスポンスなどの分野では、デジタル単体での部分最適でも十分な成果が見込めます。しかし、それだけではROIの改善に大きく貢献できないカテゴリーも多く存在します。この場合、デジタル施策から得られたラーニングを資源とし、より大きな影響を及ぼす施策へのフィードバックを行うことが有効です。データドリブンマーケティングのプロジェクトは施策単体ではなく、他施策へのフィードバックを通じたROIの改善を目的とすることで、マーケティング組織全体に貢献することができます。

②仮説

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パーセプションフロー・モデル
ROIの持続的な改善には、マーケティング施策の仮説検証を繰り返し行う必要があります。マーケティング全体の詳細な設計図がなければ、仮説検証の粒度は荒くなり、精度は低くなってしまいます。消費者の認識変化を軸とし、マーケティングの全体像を描くパーセプションフロー・モデルを用いれば、データドリブンマーケティングに必要な仮説を網羅することができるのです。

③計画

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検証方法
マーケティング施策のROIには、さまざまな影響要因が存在します。メッセージ、クリエイティブ、ターゲティング、メディアなど、それぞれの影響を個別に検証しなければ、成功・失敗要因を特定することはできません。影響要因と該当する指標を分解し、評価方法を定めることで、収集すべきデータを定めることができます。

データ収集
どんなにたくさんのデータを保有しても、有益な意思決定につながらなければ無意味です。マーケティングの仮説と、正確な検証方法があってこそ、私たちはデータから価値を抽出することができます。デジタル施策はユーザーの行動に基づく細かい効果検証が可能ではありますが、マーケティングの意思決定がすべて行動データから取得できる訳ではありません。しかし、現在では個体識別を通じて、ユーザーの行動と調査データなどを掛け合わせることが可能です。データ収集の設計次第では、個別の広告視聴などの行動と、態度変容やオフラインの購買行動などとの直接的な因果関係を検証することができます。

企画・プランニング
検証方法とデータ収集の目処が付けば、具体的な施策のプランニングを開始することができます。言い換えれば、この段階までできていなければ、個別の施策を担当するエージェンシーにブリーフィングをすることはできません。検証すべきコミュニケーションをもとに、コンテンツやクリエイティブを企画し、適切なデータ収集が可能なメディアや媒体を選定します。さらに、目的を達成し、検証に十分なデータ量が確保できるよう、予算の配分を行います。

④実行

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実装、配信・運用
実行段階では、デジタル広告やコンテンツなどから正しくデータを収集するための実装と、配信・運用作業があります。これらの段階が正確に実行されなければ、調査パネルなどとのデータ連携や、評価方法に基づく分析が行えなくなります。マーケター自らが行う工程ではありませんが、データ収集における技術的制約を理解することは計画立案にも役立ち、決して無駄なことではありません。

データ分析
分析の段階では、データから意思決定に役立つ情報を抽出します。施策の実行から得られたデータを、さまざまな角度から分析することは可能ですが、プロジェクトがその分析を目的に設計されていなければ、データが十分であっても意味のある結論が導き出せるとは限りません。この段階では、新たにデータの活用方法を考えるのではなく、計画に定められたROIの影響要因と評価方法を活用し、将来再現すべき成功や、防止すべき失敗を導き出すのです。データ分析は事前の設計に従わなければ、精度と効率を維持することはできません。

⑤改善・レビュー

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ラーニング
マーケティング組織の強さは、ラーニングの数に比例します。優秀さとは、学習効率の高さであり、ひとつの事象からたくさんのラーニングが得られている状態を指します。しかし、重要な意思決定に役立たない情報は、ラーニングであるとは言えません。事前に定められた目的に沿って、仮説検証を行うことでマーケティングROIの改善に役立つラーニングが得られます。

フィードバック
得られたラーニングを活用できなければ、マーケティングROIの改善を実現することはできません。ラーニングをほかのメディアや施策で活用できるよう汎用化し、プロジェクト目的で定めたフィードバック先へと適用します。

プロセス改善
すべてのプロジェクトにはミスが付き物です。想定外の成功を含むミスは、人的なものではなく、プロセスの不備が原因です。理想的な実行とは、ミスを一度も犯さないことではなく、同じミスを二度と犯さないことです。プロジェクト終了時のレビューではミスの原因を特定し、プロセスの改善策を組織全体に周知します。

目的から整然と設計されたデータドリブンマーケティングは、将来あるべき姿を見据えて、マーケティング組織を前進させます。データの正しい活用は、過去を検証するだけでなく、私たちに未来を形作る術を与えてくれるのです。いままでに、多くの企業がデジタル推進を掲げ、デジタルマーケティングに特化した部署を立ち上げてきました。しかし、その多くはいまだ大きくマーケティングROIに貢献することができず、その存在意義を問われ続けています。デジタルマーケティングの本質的な価値は、デジタルメディアを通じた消費者との接触ではなく、消費者の反応を収集・記録する「インタラクティブ性」にあります。いま、デジタル担当部署に求められるのは、マーケティング全体のROI改善に役立つ、データドリブンマーケティングの体制を確立することではないでしょうか。

Written by 荻野英希
Photo by Shutterstock