ブランド力 を見せつける、ナイキの「炎上マーケティング」:コリン・キャパニック選手起用の成功例

ブランドのマーケティングという点では、広告の言葉以上に行動でブランド力を示しているブランドは少ない。そんななか、コリン・キャパニック選手を使った「Just Do It」キャンペーンで、まさにナイキ(Nike)は行動で持ってブランド力を見せつけている。

アメリカにおける警察官による暴力事件と不平等さに対する抗議として、アスリートたちが国歌斉唱中にひざまずく(通常は敬意を表するため、「全員起立」しなくてはいけない)というムーブメントをはじめたのが元サンフランシスコ・フォーティナイナーズのクォーターバックだったコリン・キャパニック選手だった。彼を起用した今回の広告は、ブランドの「目的」を中心にすえたマーケティングのなかでも、もっとも力強く、またナイキ史上に残る素晴らしいマーケティング判断のひとつであると、広告主たちは評価している。

「ナイキはこれまでも大胆なブランド声明を出してきたが、今回のは一番でなかったとしても、彼らのもっとも大胆なマーケティングのひとつだ」とマーケティングコンサルタント企業のヴァーブ(Verb)の共同ファウンダーであるヤディーラ・ハリソン氏は言う。「しかもこれは一度だけの広告じゃなくて、キャンペーンであることも、さらに素晴らしい」。

有言実行のキャンペーン

NFLが抱える最大のパートナーのひとつであるナイキ、彼らはNFLと何十億ドルにものぼる契約を抱えているとされてるが、そんな立場でありながらこのキャンペーンを展開するのは、相当な勇気であるとマーケティング専門家たち複数が述べた。

「まさに有言実行だ。表現の自由を支持すると、言葉で表すことも重要だが、それを自ら披露し、称賛し、何百億ドルもの広告キャンペーンでプロモーションするとなると別の話だ」。PRブランディング企業マルベリー・アンド・アスター(Mulberry & Astor)のファウンダーであるクリス・アリエーリ氏は言う。

少なくとも注目を集めるという点ではナイキのこのキャンペーンは、すでに効果を示している。「信念を持て。たとえすべてを犠牲にすることになっても。」というタグラインが入った、ナイキによるスポンサードの投稿をキャパニック選手がツイートしてから24時間以内に、ナイキはすでに4300万ドル(約48億円)相当のメディア露出を得たと、エイペックス・マーケティング・グループ(Apex Marketing Group)はブルームバーグ(Bloomberg)に述べている。データ分析企業ブランドウォッチ(Brandwatch)のデータマネージャーであるケレン・テリー氏によると、ツイートが投稿される1日前の9月2日から広告の発表があった日の間で、オンライン上でのナイキ言及は1300%の急増加が見られたという。またキャンペーンの一環として、ナイキはキャパニック選手のアパレルをプロデュースする。靴やTシャツがそのラインに含まれる予定だ。またニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の報道によると、キャパニック選手が展開している「自分の権利を知ろう(Know Your Rights)」キャンペーンにも寄付が行われるようだ。


キャパニックの起用のリスク

キャパニック選手の起用にリスクがあることは、疑いの余地も無い。アメリカンフットボールのスター選手であった彼は、いまだにどのNFLチームとも契約できていない。彼は2015年のフットボールシーズン以降、大手ブランドの広告にも現れていない。彼の主張・存在は、ブランド広告に起用するには、あまりにも世論を分断してしまっていると考えられてきたわけだ。

4日の終わりまでに、キャパニック選手が広告に登場するというニュースが流れたことで、ナイキの株価は3%以上下落した。キャンペーンはソーシャルメディア上でも多大なバックラッシュを受けた。ナイキ商品を投棄したり、切り刻む様子を投稿する顧客たちも現れた。正午までにはTwitter上で、#BoycottNike(ボイコットナイキ)のハッシュタグが1億8840万以上のインプレッションを集めたと、ブランドウォッチは伝える。

ニューヨーク大学ブランド戦略の助教授であり、コンサルティング企業メタフォース(Metaforce.co)の共同ファウンダーであるアレン・アダムソン氏は、すべての人にアピールすることはできないと、ナイキは理解しているという。もしもすべての人にアピールしようとすれば、それは本物らしさを失うことになり、どの方向に向かっているのかが明確でなくなってしまうという。これは目的を中心に据えたマーケティングを追求しようとする企業によくある問題のひとつだ。「市場は非常に分断され、極端になっている。そんななかで全員を満足させようとしてしまうと、誰の目にも止まらなくなる」と、彼は説明する。

ペプシの炎上との違い

キャパニック選手に集まる注目だけを見ていると、キャンペーンの中心が彼であるかのように思えてくるが、そうではない。起用されているアスリートは数多く、キャパニック選手はそのうちの一人でしかないと、ナイキの広報担当は述べている。「信念の声」と題されたセレーナ・ウィリアムス選手を中心に据えた広告スポットも8月最終週にローンチしている。シアトル・シーホークスのラインバッカーであるシャキーム・グリフィン選手やニューヨーク・ジャイアンツのワイドレシーバーであるオデール・ベッカムJr.選手もまた、キャンペーンに登場する。障害や結果が何であれ、夢を追いかけるアスリートたちを称えるキャンペーンとなっている(グリフィン選手は片手しかないという障害を持つ)。

「今日のナイキを作り上げたのは、まさにこのような種類の広告だ。これはまさに『Just Do It』キャンペーンが打ち出すべきものとなっている。パワフルかつ、個人的なストーリーを生み出していくナイキの能力の高さから、このキャンペーンは30年も続いてきたのだ」と、インフルエンサーエージェンシーRQのアカウントディレクターであるケイティ・ウェルハウセン氏は言う。

テリー氏は、バックラッシュは数日以上は続かないだろうと予測する。ペプシ(Pepsi)のジェナー・ケンダル氏を起用したCMの大失敗のような状態ですら、ソーシャルメディア上のコメントは数日中に鎮火したと付け加える。「自分たちが正しいと信じている事柄に明確にスタンスを発表することは、ナイキはこれまでも行ってきた。受け取っている反応については、彼らがよく分かっていると考えて間違いない」。ナイキはどれくらいのバックラッシュを予想していたかについてはコメントをしなかった。

4日にはNFLが声明を出した。「NFLは対話、理解、そして団結の価値を信じている。私たちのコミュニティにおける意味のある、ポジティブな変化を促進するため、関わっているすべての人々の役割と責任を支持する。コリンや他の選手たちが提議している社会正義に関する問題は、私たちが注意を払い、行動を起こす必要がある」とNFLのコミュニケーション・広報部門エグゼクティブ・バイスプレジデントであるジョセリン・ムーア氏は言った。

Ilyse Liffreing(原文 / 訳:塚本 紺)