Netflix 包囲網は、狭まりつつあるのか?:新競合たちのバランスゲーム

米放送業界におけるシーズンごとの広告販売交渉イベント「アップフロント(Upfront)」の時期だ。大手メディア企業は、その名前こそ舞台上で口にしないものの、ストリーミング大手Netflix(ネットフリックス)の脅威は、これまで以上にリアルな実感を伴っているようだ。

ほかのメディア企業たちは、自社のストリーミングサービスをローンチするべく取り掛かっている。だが、「フレンズ(Friends)」や「ザ・オフィス(The Office)」といった過去の人気テレビ番組のあとのコンテンツを考慮したときに、彼らが持っている動画ライブラリーの価値がどれほどかについて再考している。

以下、重要なポイントを並べる。

  • NBCユニバーサル(NBCUniversal)は、2020年にローンチされる自社動画サービスで「ザ・オフィス」がストリーミングされると述べている。
  • Netflixが持つ「ザ・オフィス」のライセンス契約は2021年まで。NBCUが「ザ・オフィス」を放送するには、その契約終了を待たないといけないのかは明らかではない。
  • 消費者に直接届けるD2Cのストリーミングサービスを大手メディア企業が備えるにつれて、彼らが抱える番組をどう価値付けるかに取り組んでいる。有意義なライセンス収益を手放し、コンテンツは自社プラットフォーム限定配信とするのか、といった具合だ。ディズニー(Disney)の場合はその答えはイエス、だ。ワーナーメディア(WarnerMedia)は両立させることが可能だと考えている。
  • 究極的には、過去の大ヒットテレビ番組は、新しいサブスクライバーを獲得するよりも、すでに存在するサブスクライバー(軽くて、馴染んでいて、イッキ見が出来るもの)の維持に向いている。
  • 本当に重要なのは、ほかでは見られないことだ。それがオリジナルのシリーズであっても、ライセンス物であってもだ。

Netflixは「フレンズ」や「ザ・オフィス」を失うことの影響を確実に受けるだろう。しかし年数をかけて、Netflixはコンテンツライブラリーの中身を失いながらも料金を上げ、収益を上げることに成功してきた。

人気番組「ザ・オフィス」の行く末

5月13日の朝(米時間)、NBCユニバーサルの広告セールス責任者リンダ・ヤッカリーノ氏はラジオシティ・ミュージックホールの壇上で、広告主向けのアップフロント・プレゼンテーションを行った。彼女のスピーチのなかでも記憶に特に残った部分は、6年間放送されなかった番組についてだった。彼女は、Netflix上でもっともストリーミング視聴されている番組が「ザ・オフィス」である、という頻繁に話題になる統計をプレゼンテーションで引用した。そして、この超人気番組が、2020年にローンチ予定のNBCUの動画ストリーミングサービスで視聴可能になると述べたのだ。「視聴者がもっともストリーミング視聴する番組群が戻って来る」と、ヤッカリーノ氏は説明した。

「ザ・オフィス」とNBCUのストリーミングサービスについての詳細は、ヤッカリーノ氏はそれほど語らなかった。たとえば、いつ配信が開始されるのか、Netflixとの配信契約は2021年までだが、それは契約が終わるまではNBCUの自社ストリーミングサービスでは「ザ・オフィス」が配信されないということなのか、という問いの答えだ。「ザ・オフィス」はNBCU上でしか見られない独占コンテンツになるのか、非独占契約としてNetflixにもライセンス配信されるのか? といった詳細も語られなかった。

これらの問いは、競合するストリーミングサービスを準備する大手メディア企業たちすべてが検討している重要な項目だ。たとえば、ディズニーは彼らの映画やテレビ番組をDisney+(ディズニープラス)とHulu(フールー:ディズニーの完全傘下となった)で配信する意図をハッキリとさせている。これによって、彼らが毎年ライセンスを通して得ている何十億ドルという収益を手放すことになる。一方で、ワーナーメディア(WarnerMedia)は両方の良い部分を欲しがっている。

約3倍の価格となった「フレンズ」

昨年後半に、彼らは「フレンズ」の10シーズンすべての独占配信権をNetflixに渡す、ライセンス契約の2019年分の更新をした。この独占配信権に対して、それまでNetflixは、1年につき3000万ドル(約33億円)を払っていたが、この更新に関しては1億ドル(約110億円)を支払うことに同意したようだ。しかし、ワーナーメディアの親会社であるAT&Tは、「フレンズ」が将来的には、複数のストリーミングプラットホーム上に存在することになると、公に計画を語っている。

人気番組に関しては個別にケースごとにライセンスを考慮する可能性は確実に存在している。これらの縦方向に統合されたメディア企業たちが消費者の時間とお金をめぐって大手テック企業達と争うことになるなかで、それぞれのD2Cプラットフォームを優先するようになる、というのが広く受け入れられている考えだ。この結果、Netflixの動画ライブラリは削られる可能性がある。リコード(Recode)によって引用されているジャンプショット(Jumpshot)のデータによると、Netflix上での人気番組トップ50のうち半分以上が競合ストリーミングサービスをローンチしようとしているメディア会社によって制作されたコンテンツだ。

しかし、サブスクリプション形式の動画サービスにとってライブラリープログラムはどれほどの価値を持っているのか。契約を1年更新するためにそれまでの3倍以上の金額を払ったことからも、Netflixが「フレンズ」をキープしたかったのは明らかだ。しかし、「フレンズ」はサブスクリプション数を増やすことはできるのか。これらの番組が存在することで、新しい入会者が増えるというよりは、既存の会員をキープする効果の方が大きいだろう、というのが業界関係者に取材した結果出てきた意見だ。

「(ライブラリー用の番組)は価値がある。ユーザの退会を抑える働きがあるので、持っておくべきだ。「フレンズ」のような大人気番組であれば、もしかしたらターゲットの顧客を獲得するキャンペーンとして使えるかもしれない。しかし、包括的な顧客獲得キャンペーンには向いていない。とはいえ、退会抑制につながるのであれば、競合プラットフォームからそのコンテンツを取り出し、自分のサービスに載せることで、いくつかのオーディエンスを捉える助けとなるかもしれない」と、長年勤務するメディア・エグゼクティブは語る。

「フレンズ」と「ザ・オフィス」は、人々が自宅でテレビにつけて流し視聴をする良質の番組だ。そのため、Netflixはコンテンツとして抱えておきたい。しかし彼らの独占オリジナルシリーズこそが、新規のサブスクライバー獲得には貢献している。重要なのは、ほかでは見られないことにある。

Netflixへの長期的な影響

これらのライセンス契約に関する判断がNetflixに長期的にどのような影響を与えるかは、いまだ明らかではない。Netflixが「ザ・オフィス」を失った場合、18歳から29歳の間のユーザのうち29%はサブスクリプションを停止するかもしれない、ということを示唆するデータも存在している。業界関係者のなかには、大人気の番組のいくつかが失われることでもちろん影響はあるものの、全体的な影響はそれほど劇的なものにはならないだろう、と考えるものもいる。メディアリーデフ(MediaREDEF)のマシュー・ボール氏によると、Netflixのカタログは2012年から比べると、3分の2に縮まっている。しかしそれでも、利用価格は46%上げられ、サブスクライブ利用者の数も継続して増えている。Netflixはテレビネットワークのひとつに置き変わろうとしているのではなく、ネットワークの集合体としてのテレビそのものを置き換えようとしている(生放送のニュース番組とスポーツを除く)。独占コンテンツやオリジナル番組に集中することで、プラットフォームから離れていくライセンス作品の代わりを作ろうとしている。

これが最終的に何を意味しているかというと、消費者にとってはひとつやふたつのストリーミングサービスに加入することでは、お気に入りの番組すべてを見ることはますます困難になっていくというシンプルな事実だ。トリミングサービスの数は今後増えていく。それによって消費者のオプションも増えることになる。それが良いことか悪いことかは置いておいて。3から4以上の動画サブスクリプションにお金を払いたくないと考える消費者たちにとって、欠かすことのできないプラットフォームになれた会社が成功するだろう。

Netflixは現在1億4890万人の会員を抱えている。この会員から得られるデータ(ほかの大手メディア企業によるストリーミングサービスがローンチするころには、さらに多くなっているだろう)を使って、消費者にとって欠かすことのできない存在であり続けようとしている。同じ関係性を消費者と築こうとするなかで、ほかのメディア競合他社たちは彼らのコンテンツがどのポジションに付くのかを見極めないといけない。

Sahil Patel(原文 / 訳:塚本 紺)