タクシー業界のアップデートを目指す、 JapanTaxi の挑戦 : 同社CMO 金高恩 氏

100年以上続く老舗産業にも、デジタルシフトの波が押し寄せている。

ジャパンタクシー(JapanTaxi)は2018年7月5日、全国どこからでもタクシーを呼べる配車アプリ「全国タクシー」の累計ダウンロード数が500万に到達したと、プレスリリースで発表した。タクシー業界最大手の日本交通を母体とする同社は、グループに限らずタクシー業界全体のデジタルシフトを支援している。同リリースによると、現在日本交通へ寄せられる配車リクエストの7割は、「全国タクシー」を経由したものだという。

かつて、「日交計算センター」という社名だったジャパンタクシー。当時は、給与計算といった自社用のシステム開発が主な業務だった。しかし、2011年の「全国タクシー」アプリローンチを皮切りに、テクノロジーを活用したサービス開発や実証実験を推進し、2015年にはジャパンタクシーへ社名変更を行った。リアルとITを掛け合わせた同社の取り組みが、いま実を結びはじめている。そんなジャパンタクシーの強力なエンジンとなっているのが、CMOの金高恩(Kim Goeun)氏だ。

遅れていたタクシー業界

Japan Taxi CMO・金高恩氏

ジャパンタクシー CMO・金高恩氏

「ほかの業界に比べ、タクシー業界は極端にデジタルシフトが遅れていた」と、金氏は過去を振り返る。「しかし、ここ数年でようやく変革のための地場を固めることできた」。

ジャパンタクシーに参画する以前は、ヤフーやサイバーエージェントといった大手IT企業で、事業開発やプロデューサーを経験してきた金氏。テクノロジーを活用して、人々の習慣や暮らしに変化を与えることが、自分にとって大きなテーマだと語る。しかし、「全国タクシー」もかつては、課題も多かったという。

「以前はアプリのプロモーションにおいて、オンライン・オフライン、すべてのタッチポイントを一気通貫で捉えられていなかった。それぞれに最適化したストーリーテリングができていなかった」。

ストーリーテリングの肝

当初は、デジタル広告にプロモーションを頼っていた「全国タクシー」。新規にリーチし、それなりのダウンロード数を獲得できていたが、そのぶんアプリそのものの機能や価値が、十分に伝わっていなかった。ユーザーレビューも、全国どこでも配車リクエストできるというアプリの機能ではなく、タクシーそのものの乗車体験に関する内容がほとんどだったという。

そこで注目したのが、都内で1日85万人、年間で約3億1100万人といわれている、既にタクシーを利用している層。同社にとっての「既存顧客」だ。乗車中の利用者に対して、車内に設置されたタブレットや、乗務員による対面のプロモーションを実施し、「全国タクシー」の機能紹介を実施したところ、これが効果てきめん。前述のようなレビューが減っただけでなく、アプリのダウンロード数も飛躍的に増加した。

現在、ジャパンタクシーでは、オンラインや車内でのプロモーションのほか、タクシー車体広告、新聞広告、イベントといった、さまざまなタッチポイントを活用している。だが、それぞれに最適化されたストーリーテリングを心掛けているという。

乗車体験をアップデート

さらに、決済機能「JapanTaxi Wallet」の実装は、「全国タクシー」の利用に拍車をかけた。車内タブレットへ配信した、紹介動画の効果は高く、実装前と比べて数百倍の成果が出たという。乗車中の顧客に最適な訴求を実施することで、サービスのストーリーを自然に伝えることに成功したのだ。

「既存顧客による積極的なアプリの利用は、あまりタクシーに乗らない層、つまり『新規顧客』の獲得に繋がる」と、金氏は語る。現状、タクシーは老若男女誰でも気軽に乗れるものとは言い難い。その背景には、タクシー乗り場や、流し車両(※業界用語で、走行しながら顧客を探している車両のこと)を探すといった、既存の乗車体験の煩わしさがあるからだ。

「だが、普段からタクシーを利用する顧客のあいだで、我々のアプリが当たり前の存在になれば、そこから波及して新規顧客の意識にも変化を与えることができる。『タクシーって自分から探す必要ないんだ。お金のやり取りにまごつかなくていいんだ』と。乗車体験がアップデートされるのだ」。

さらなる未来のタクシーへ

こうした波及力を高めていくためにも、「今後さらにアプリでの体験を研ぎ澄ませていく必要がある」と、金氏は語る。

2018年2月には、自動車大手のトヨタが、ジャパンタクシーに対して75億円を出資。その後、ジャパンタクシーはトヨタに加え、KDDI、アクセンチュアと4社共同で、AIを活用した配車予測システムの検証及び試験導入を東京都内で開始した。これは、タクシーの運行実績やスマートフォンの位置情報をもとに、場所ごとのタクシーの需要を予測するシステムで、その正解率は94.1%だったという。

「これが実用化されれば、利用者が必要な時には、すでに近くにタクシーがいる、という状況を作ることができる」と、金氏は語る。「こうした実証実験を通じて開発されたテクノロジーを、ほかのタクシー会社へ広めるために技術的サポートも行うことで、業界全体のデジタルシフトを目指していきたい」。

来る9月の11日・12日に、ウェスティン都ホテル京都で開催される「DIGIDAY BRAND LEADERS」では、ジャパンタクシー CMO、金高恩氏のセッションが行われる予定だ。

Written by Kan Murakami
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