ショッピングモール、小売スタートアップの「テスト場」に:空きスペースの有効活用

大変なことになっている小売業界についに明るい兆しかもしれない。現在、スタートアップのインキュベーションハブとしてショッピングモールの再利用が進んでいる。

ショッピングモールの運営会社がスタートアップ向けのプログラムと協力して、ネットワーキングやメンターシップの機会、コワーキングスペースをスタートアップに提供しているのだ。11月にはペンシルベニア・リアル・エステート・インベストメント・トラスト(PREIT)とインキュベーターの1776が、PREITのチェリー・ヒル・モール内に小売インキュベーターを開設する。また、ウェストフィールド(Westfield)はこの3年間、ショッピングモールのウェストフィールド・サンフランシスコ・センターのスペースを活用し、スタートアップとメンバー小売企業とをつないでいる。

大手の小売業者が閉店し、米国のモールの空室率がこの6年間で最高を記録するなか――2018年第2四半期は8.6%と報じられている――、モールの運営会社はスペースの新しい使い道を模索している。新しいデジタル企業は実店舗への入り口を提供されるだけではなく、モールの顧客と製品をテストできる。

1776のCEOであるジェニファー・マー氏は、「これもまた小売のショッピング体験に対する人々の見方を変えるものだ。顧客は地元の商品提供者とつながることができ、スタートアップは限られたスペースでたくさんのものを提供できる」と語る。

さまざまなテストの場に

1776とPREITによるインキュベーターは、チェリー・ヒル・モール内の1万1000平方フィート(約1000平方メートル)のスペースに入ることになっており、現在、スタートアップの関心を集めている。PREITで戦略とコミュニケーションのSVPを務めるヘザー・クロウェル氏は、オンラインではじまったコンセプトを現実の小売空間に導入する手伝いをこのインキュベーターでやりたいと語っている。

1776のネットワークのメンバーである、フィラデルフィアが拠点の食品スタートアップ、シンプリー・グッド・ジャーズ(Simply Good Jars)の場合、実際のスペースを共用すれば、DTC(Direct To Consumer)の製品戦略がどのように機能するかをテストする機会を得られる。現在、このモールのスペースの共用については1776と話し合い中で、いまは提携企業の敷地に設置した自動販売機を通じて製品を提供している。創業者のジェレド・カノン氏は、物理的な前哨基地があれば、顧客に製品を直接提供して実験ができるようになると語った。

大きな小売業者はポップアップストアをリーチ拡大に活用するが、小さな会社も、インキュベーションのスペースで営業することで、長期賃貸契約の負担なしに、製品への顧客の満足度をテストできる。加えて、リテールテクノロジー企業も、管理された環境内で新しいツールをテストできる。

コロンビア・ビジネス・スクールのユージーン・ラング・アントレプレナーシップ・センターのマネージングディレクター、ジェレミー・ケーガン氏は、「服がどう見えるのかを試着の前に表示できるようにすることで、拡張現実や仮想現実(のツール)をテストできる。こうしたものは直接、実験して見てみたいものなのだ」と語った。

ネットワーキングの機会

製品テストや新しいブランドのマーケティング策だけではない。モールを拠点とするインキュベーターは、定評ある大きな小売業者とのネットワーキングの機会をもたらす。ウェストフィールド・サンフランシスコ・センター内にあるウェストフィールドの小売イノベーションハブ、ビスポーク(Bespoke)では、起業家をより広いテック界や小売界の人員とつないでいる。DTCのスタートアップ、B2Bの小売技術企業、ベンチャーキャピタリスト、大きなブランドのイノベーションチームなど、1日に約80社がここで仕事をしている。ビスポークのメンバーには、家庭での音声活用を切り開くボイスラボ(VoiceLabs)、拡張現実と仮想現実のプラットフォームであるiステージング(iStaging)、オンラインファッション小売のオリジナル・ステッチ(Original Stitch)などが名を連ねている。

「ウェストフィールド・サンフランシスコ・センターはこの都市の小売の中心であり、小売市場やテック市場が集まり、お互いに学び、イノベーションを起こすのに理想的な立地だ」と、ビスポークのディレクター、ジュディス・シャバル氏。「小売に特化したネットワーキングを提供することで、メンバーが開発を進めるテクノロジーや立ち上げるサービスを学びたいグローバルな小売業者を引き寄せている」と同氏は語った。

ウェストフィールドはビスポークを設立後、イベントを350回以上、開催した。ビスポークを通じて、大きな企業が具体的な弱点に対処するためスタートアップと組む。ウェストフィールドのネットワークに加わった小売業者は、スタートアップと協力してテクノロジーやサービスを試すことができる。

モールのイノベーションラボは、モールの空きスペースに新たな命を吹き込むチャンスをもたらすが、重要なのは、スタートアップが展開するツールや製品がマーケティングの仕掛けにとどまらず、イノベーション空間としてのモールの役割を実際に高めるものであることだと、ケーガン氏は語った。

Suman Bhattacharyya (原文 / 訳:ガリレオ)