RFID は、なぜ いまだ「小売」分野で普及しきらないのか?:何年間ももてはやされてきた最新技術

ソーホー地区にあるレベッカミンコフ(Rebecca Minkoff)の旗艦店といえば、数年前までは小売と技術の未来の見本市のような場所だった。

同店には、2014年のオープン当時からスマートミラーが完備されていた。全商品にはRFIDのタグが取り付けられ、RFIDリーダーは試着室のミラーに内蔵された。カスタマーが試着室に商品を持ち込むと、ミラーには自動でほかの色やサイズといった商品情報が表示されていた。さらにほかの服と組み合わせた場合の見た目まで映し出されたのだ。共同創業者のウリ・ミンコフ氏は当時、RFIDの導入について「ショッピングにおける面倒を取り除く」ため設計したと語っている。

オープンから間もなくして、同社はスマートミラーの力もあって売上が予測の3倍に達したとしている。翌年にはラルフローレン(Ralph Lauren)のマンハッタン5番街の旗艦店もRFID付きのスマートミラーを導入した。

だが2020年現在、レベッカミンコフの店舗ではRFID技術が使われていない。同社はその理由ついてコメントを避けている。ラルフローレンは2017年に5番街の旗艦店をコスト削減を理由として畳んでいる。RFID技術がいまも同社の店舗で使われているかは不明だ。ラルフローレンもまた、米DIGIDAYからの問い合わせに返答していない。

ここ10年ほど、小売業界における一般的な課題について、アナリストや役員らは近距離無線通信であるRFID技術が解決すると口を揃えてきた。RFIDは小売企業にコスト削減、売上増万引防止、店舗における体験の改善をもたらすとされた。在庫について常時追跡できるため、バーコードより優れた存在としてカスタマー満足度も上がると考えられていたのだ。だがロボティクスなど、ほかの小売業界における技術と同じように、実際の使用現場では考えられていたほど消費者向けでも、便利でもなかったのだ。

最初に理由としてあげられるのはその高価なコストだ。ここ10年でRFIDタグは非常に安くなったとはいえ、小売店で、特に複数のRFIDリーダーを導入するには高すぎるのが現状だ。アナリストらも、価格面がRFID普及のボトルネックになっていると指摘する。

さらに数百社からの何万という商品をラインナップする大手量販店の場合、商品へのRFIDタグ導入の約束を各社から取り付けるのに何年もかかるおそれがある。メイシーズ(Macy’s)は2009年にブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)の1店舗でRFIDの試験運用を開始したが、全商品にRFIDを導入するまでに8年もの時間が必要だった。リサーチ企業IDテックEX(IDTechEX)のレポートによると、RFIDタグがもっとも導入されているのがアパレル業界だ。それでも2019年時点でRFIDタグの導入率は10%に過ぎない。

いまの所、RFIDタグの使用例はあまり華々しいとはいえない。店舗数が少なく商品価格も高い場合は、RFIDリーダーの必要数が少なく、RFIDによる在庫確認が迅速に行え、費用対効果も高い。だが、コンピュータービジョンなど、在庫確認の手段としてRFIDを脅かすような新技術も登場している。

ピュブリシス(Publicis)の最高商業責任者ジェイソン・ゴールドバーグ氏は、「RFIDは主役にはならず、商品在庫の確認や追跡のための技術にとどまりそうにも思える」と語る。

RFIDとは何か?

RFIDは、平たくいえば電波による情報の読み取りと取り込みを行う技術だ。RFIDのシステムは一般的に、タグとリーダーという2要素に分けられる。小売店であれば商品や値札にRFIDのタグを取り付けるとともに、RFIDリーダーを別途運用する。

これまで小売店の従業員は、店舗内の全商品や配送の商品数を、ひとつひとつ手やバーコードスキャナーなどで数える必要があった。バーコードスキャナーの問題点は、スキャナーをバーコードに正確に合わさなければ読み取れず、数秒かかる場合もあるところだ。たかが数秒でも、商品を数千点数えるとなるとかなり時間がかかる。

RFIDスキャナーであれば、スキャナーを直接タグに向けなくてもタグから情報を読み取れる。そのため在庫をはるかに素早く、かつ遠くから数えられるようになる。さらに通常のバーコードと比べて、配送や期限など、より多くの情報を保存できる。さらに従業員は、RFIDスキャナーを使うことで商品が店舗のどこにあるか正確に把握できるようになる。試着室に置きっぱなしにされた商品や、間違った棚に置かれた商品もわかるようになるのだ。

アウトドアのアパレル、アウトドアボイス(Outdoor Voices)は2018年11月にRFIDの利用を開始した。同社のサプライチェーン担当バイスプレジデントを務めるネイト・ピーターソン氏は米DIGIDAYへのメールのなかで、かつては店舗における週に1度の在庫確認は数人がかりで数時間かかっていたと述べている。それがRFIDの利用を開始してからひとりで済むようになり、その時間も1時間以内に収まるようになったという。

iPhoneをベースとした小売管理プラットフォームのニューストア(NewStore)もまた、RFIDの提供企業と協力して在庫管理を行っている。同社の最高商品責任者ジェイン・キャノン氏は「店舗における正確な在庫数を正確に把握できるというのは収益面でも、カスタマーサービス面でも良い影響がある」と語る。RFIDにより在庫確認の時間を短縮することで、フロアで店員がカスタマーに対応できる時間がより長くとれるようになるためだという。ニューストアはアウトドアボイスや男性シャツのD2Cブランドのアンタックイット(Untuckit)などと取引を行っている。

マイナス面

小売企業からすれば、店舗にRFIDを導入することで人件費を減らせるが、それによってコスト全体を削減できるとは限らない。

ゴールドバーグ氏は、RFIDタグはかつて1ドルから2ドル(約110から220円)ほどの値段だったが、いまでは10セント(約11円)程度で買えるという。だがバーコードの値段は0.5セント(約0.55円)以下だ。それもあって、小売企業としては商品が高額なほど、価格面でRFIDタグを導入しやすい。

またRFIDリーダーの問題もある。こちらの価格は数十万円にもなる。各店舗にRFIDリーダーを1台か2台置く程度のほうが、小売企業としてはコストを安上がりに抑えられるのだ。だが、レベッカミンコフのようにRFIDリーダーをすべての試着室に導入したり、天井に埋め込んだりして店舗内の在庫数を常時把握しようとすれば、そのコストは数百万円にもなる。

一方でコンピュータービジョンが、店舗内の在庫数を常時確認するという意味でRFIDの使用例として最適だとする小売企業もいる。Amazon Goの店舗では開店当時、RFID技術が使われているのではないかと噂されたが、同社によればそうではなくコンピュータービジョンによってカスタマーが商品を手にとったことを認識しているのだという。

店舗へのRFID導入に否定的な小売企業ばかりではない。ハイテク店舗を数店立ち上げ、話題作りしたい企業もいる。プーマ(Puma)が昨年8月にマンハッタンで開店した北米の新旗艦店では、レベッカミンコフのように鏡にRFID機能を搭載している。試着室に持ち込んだ商品の情報や、似たスタイルのおすすめ商品などが表示される。

ゴールドバーグ氏はRFIDタグは個別の商品でなく、商品を載せたパレットごとに割り当てるのが最善だと指摘している。同氏はそれにより荷降ろしもより迅速にできるとし、「こういった運用がさらに増えていくのではないか」と語った。

Anna Hensel(原文 / 訳:SI Japan)