ブランドがエージェンシーに求めるのは、透明性よりコスト

クライアントがエージェンシーにもっとも強く求めているものは、高い透明性でも強固なパートナーシップでもない。価格の安さだ。

世界的な製薬会社のグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline:以下、GSK)は2018年、17億ドル(約1880億円)の広告予算のコンペを開催した。同社はその際、コンペに参加したエージェンシーに対して、メディア費用をあらかじめ確約するよう求めたという。デジタルメディアではそのような価格保証はできないというのが業界の常識であるにもかかわらずだ。しかし、ほとんどのエージェンシーがその要求に従ったと、このコンペに参加したあるエージェンシー幹部は述べている。

このコンペは、コンサルティング企業のIDコムズ(ID Comms)とエビキュイティ(Ebiquity)による管理と審査の下で実施され、半年間続けられた。だが、GSKの調達チームにコンペが引き継がれると、徐々にコスト削減交渉の場に変わっていったという。それまでは、GSKのマーケティングチームが、エージェンシーの運営モデルを詳しく吟味し、メディア購入の透明性がどのように確保されるのかを判断していた。

ところが、交渉が長引くにつれて、KPI(重要業績評価指標)や戦略的パートナーシップの話は減っていった。調達チームは最終的に、エージェンシー幹部らをラグビー場の企業用観覧席に連れて行き、どれほどのコスト削減を実現できるかをプレゼンさせたと、先のエージェンシー幹部は語った。

こうした話し合いを経て、最終的に契約を勝ち取ったのは、フランスの大手広告代理店グループであるピュブリシス(Publicis)だった。この件についてGSKにコメントを求めたところ、広報担当者が次のように回答した。「GSKでは、戦略的な思考、差別化要因、当社の事業への理解、システム、報告体制、人材の質、メディア費用、契約条件など、さまざまな基準に基づいてメディアエージェンシーとの契約を検討している」。

コスト以外の条件で明らかな勝者がいなければ、コストが最後の切り札になることが多い。ただし、その金額が他社を大きく下回っている必要がある。そこで、安いインプレッションを利用したコスト削減レースがはじまってしまうこともあるという。だがそのようなインプレッションは、安全でなかったり、ビューアビリティ(可視性)が劣っていたり、実際には存在しなかったりする可能性がある。

ピッチコンサルタントによるアドバイス

情報筋によれば、ピッチコンサルタントが適切なアドバイスを提供できていないこと、そしてエージェンシーが不適切なプロセスや意思決定に反論しようとしないことが、状況をさらに悪化させているという。

「エージェンシーや技術パートナーの入札は、鉄やガラスの調達と同じようにはいかない」と、デジタルメディアコンサルティング企業のデジタル・デシジョンズ(Digital Decisions)でマネージングパートナーを務めるルーベン・シュルーア氏はいう。「コスト構造には非常に細かな違いがある。運営モデルや戦略の適合性について検討するときは特にそうだ。したがって、意思決定の過程で最終的な価格ばかりを重視するのは、まったく馬鹿げたことだ」とシュルーア氏は語った。

だが、大規模なメディア取引では、このような形で話が進められるのが普通だ。広告主の多くは透明性の問題を理由にコンペを行うが、勝負を左右するのはコスト圧力なのだ。エビキュイティのデータによれば、同社が2018年に実施した100件のコンペのうち、54%はコストの改善がもっとも重要な条件だったという。「戦略的ビジョンと専門知識」が最優先の条件となっていたコンペの割合は34%だった。

アディダス(Adidas)は、2018年に3億ドル(約331億円)のメディア予算のコンペを実施。半年を費やして運営モデルの計画を作成し、エージェンシーはその計画を自社のピッチに組み込んだ。メディアセンス(MediaSense)の監督の下で行われたこのコンペで勝利したのは、メディアコム(Mediacom)だ。情報筋によると、メディアコムの勝因は同社がアディダスに有利なコストを保証したことにあるという。ただしアディダスは、さまざまな要因に基づいてエージェンシーを決定したと述べている。

進歩的な広告主は公正な報酬を実現しようとしているが、マーケティングチームと調達チームの考え方はいまだに異なっている。

「状況は刻々と変化しているものの、我々が本来いるべき場所に立っているとは思えない」と、メディア分析を専門とするエビキュイティでメディア管理責任者を務めるレーティシア・ジネッティ氏はいう。「広告主にとっては、エージェンシーをその戦略的な能力で区別することが難しい場合がある。そのため、メディア費用だけでなく報酬や技術コストも含め、エージェンシーがどれほどのコスト効率を実現するのかを見ているのだ」。

問題は、広告主がオンラインメディアについて自分たちが何を知らないのかを理解していないことだ。そしてピッチコンサルタントは、そのギャップを埋めるのに苦労している。

「ピッチコンサルティングの分野は急速に拡大しており、ある程度の専門知識がどこにでもあるわけではない」と、ある高級ブランドの広告主のメディアディレクターは匿名を条件に述べている。「我々は報酬として、定額制とインセンティブ制を採用している。我々はパートナーに利益を上げてほしいと思っているが、その利益率が我々と同じになるのが理想だ。しかし、市場では成果ベースや業績ベースの報酬への移行が見られる」。

もっとも、クライアントが代理店からの異議を受け入れることもある。「私が最近取り組んだ案件で、ある大手代理店が価格競争はできないとの理由で、大きな市場でのコンペを拒否した」というのは、世界的な消費財企業のマーケティング調達ディレクターだ。「私は驚いたし、我々にとってはやや都合の悪い話だった。だが最終的に、私は彼らの誠実な姿勢を尊重した。そして彼らは、社員が低い報酬でたくさんの仕事をしなくても済むようにしたのだ」。

このマーケティング担当者によれば、エージェンシーのデジタルメディア調達能力を判断するうえで、価格保証はいまも有効な基準なのだという。だが、もっとも重視すべきはそのメディアの効果であることを強調したうえで、「ピッチコンサルタントは、この点でいまも奮闘を続けている」と、このマーケティング市場調達担当ディレクターは語った。この人物は、ピッチ管理とメディア管理の両方を社内で行うための取り組みを推進している。

「エージェンシーのオンラインでのパフォーマンスを判断するために、KPIに価格を含める必要があるのは明らかだ。だが、それ以外にも対象を広げ、リーチと品質の関係、ビューアビリティ、バリューチェーンの透明性といった当社の戦略的優先事項に、エージェンシーがどれほどうまく適合できるかという点を考慮すべきだ」と、このマーケティング担当者はいう。「価格を無視するのではなく、より広範で『柔軟な』指標に基づいて比較ができるような、体系的なアプローチをピッチコンサルタントから提案されたことはまだない」。

新しいモデル

広告主は今後も、価格保証をメディアエージェンシーの選択基準として利用するだろう。メディアの有効性よりメディア費用のほうが容易に判断できるからだ。この数年間、アブソルート(Absolut)、BTグループ(BT Group)、ロレアル(L’Oréal)といった広告主は、エージェンシーへの報酬の支払いに新しい手法を適用しようとしている。販売促進や顧客ロイヤルティの取り組みであれ、自動車の販売であれ、効果の測定はいまも主観的に行われているため、その価値を判断することは難しい。リスクと見返りのバランスを取ることができる広告主や代理店はほとんどないのだ。

フォルクスワーゲン(Volkswagen)が2016年にコンペを行ったとき、あるエージェンシーは車1台あたりのコストに基づく報酬モデルを提案した。だが、フォルクスワーゲンはその提案を拒否したと、そのエージェンシーの幹部はいう。広告は販売に影響を与える要素のひとつに過ぎず、その因果関係を証明するのは難しい。そのような状況で、自動車の単価のような成果ベースのモデルを広告主が確約するのは困難なのだ。価格保証など、伝統的な手数料ベースの報酬モデルを廃止することは簡単ではない。

「メディアエージェンシーの審査においては、戦略的なマーケティング目標と広告の効果を証明する必要性のあいだで対立が起こることが多い」と、コンサルティング企業のメディアリンク(Medialink)でシニアバイスプレジデントを務めるニック・マニング氏はいう。「大ざっぱにいえば、マーケティング担当者はイノベーションを望み、調達担当者は同じメディアのコストを下げることを求めている。だが、デジタルでは異なる対応が必要だ。重要なのは効果と価値であって、価格ではない。いままでとは異なる方法でパフォーマンスを追跡する必要があるのだ。デジタルをテレビと同じようにベンチマークすることはできない」。

Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)