「 ITP2.1 では、日本の広告運用の基準値がすべて変わる」:とある広告エージェンシー幹部の告白

Appleの新しいアンチトラッキング策「インテリジェント・トラッキング・プリベンション(Intelligent Tracking Prevention:以下、ITP)2.1」が、日本の運用広告界隈で波紋を呼んでいる。諸外国に対して日本では、ことさらiPhoneユーザーが多いため、その影響の大きさは計り知れない。

「『もう嫌だ…』という声を聞く」と、ある日本の広告エージェンシー幹部は、現場の混乱について語る。「ITP2.1によって、これまで広告運用の拠り所としていた基準値がすべて変わってくるからだ」。

匿名であることを引き換えに、業界の裏側を赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、この広告エージェンシー幹部に、「ITP2.1」をめぐる混乱について語ってもらう。なお、本記事は可読性を重視し、少し編集してある。

――「ITP2.1」は、日本において、どんな影響を与えているのか?

グローバルで見るとiOSのシェアは20%弱。それに対して日本でのシェアは、一時期の70%からはシェアを落としてはいるものの、昨年時点でまだ50%弱はある。

いまや、モバイルへの広告出稿額のシェアはどんどん上がってきており、ネット広告費の80%近くがモバイル広告への出稿だ。そのため、計測、ターゲティング、サイト内分析など、あらゆる領域で対応が迫られている状態といえる。

――ITP2.1に対して、運用広告の現場の反応は?

「いつまでITPの対応に追われるんだ…もう嫌だ…」という声を聞く。というのも、サードパーティクッキー(Cookie)の即時破棄からようやくファーストパーティクッキーの計測に切り替えたばかりだからだ。今度は、そのファーストパーティクッキーが7日間で破棄される。

つまり、これまで計測できていたコンバージョンの一部が計測できなくなるのだ。ということは、目標のCPAも変わってくる。そこの握り直しが必要になるし、これまでの実績をベースにして年間の目標件数を決めているような広告主とは、目標数値の再設定も必要になるだろう。

さらにサイト分析で言えば、Googleアナリティクス(Analytics)上ではSafari経由のUU数が増加することが想定される。ということは、これまで広告運用の拠り所としていた基準値がすべて変わってくるのだ。

こういったことすべての対応策を考えて、広告主と会話をして…というリソースは、ただでさえ通常業務で忙しいうえに法改正で残業時間に対してのモニタリングが厳しくなっているいま、エージェンシーにとっては余計なことでしかない。

――なるほど…。では、ITP2.1に対して、日本のツールベンダーはどんな対応をとっているのか?

3月末に日本のツールベンダーから相次いで、それに対応する内容のリリースが出た。クッキー情報が消える8日目以降も、「ローカルストレージ」を利用することでユーザーを特定できるようにする、というものがほとんどだ。

海外のプラットフォームやツールベンダーからは、特に対応はまだ出ていない。おそらく、iOSシェアが高い日本の方が危機感を強く持っているのだろう。

――そうした日本のツールベンダーの対応は、どのくらい効力がありそう?

Appleのエンジニアがローカルストレージにも対応していく、と明言している。だがら、ローカルストレージが使えなくなるのも時間の問題だと思う。

話は少しずれるが、GDPRは日本国内に限った話で言えば対象とはならないが、世界的な動きとしてクッキーを個人情報として見なす、という動きがある。だが、ローカルストレージでの対応はクッキーと異なり、ユーザーに対してオプトアウトの選択肢を与えない。そのため、個人情報に近しい情報をユーザーの許可なくローカルストレージ上に保存して広告に使う、というのはITP関係なく、いずれ規制されそうな気もしている。

――ITP2.1に対して、日本の広告主の反応は?

ものすごく二極化している。

「よくわからないから、代理店やツールベンダーがうまいことやってくれるでしょ」と、他人事のように見ている広告主もいれば、ITP2.1の情報が出た瞬間に「アレはどうなるんだ、コレはどうなんだ」と、質問攻めで、かなりの危機感を持っている広告主もいる。

ただ結局は、自分たちで詳細を理解するというよりも概要は把握して「詳細の対応は代理店やツールベンダーにお任せ」という広告主がほとんどだと言える。

――ITP2.1に対して、日本の広告主はどのように捉えるべきか?

ITPの詳細な仕様や対策を考えることは、代理店に任せてもらって問題ない。だが、「これまでのクッキー中心だったデジタルマーケティングが変わろうとしている」ということを理解した方が良い。

――ITP2.1に対して、今後業界は、どんな対応をとっていく?

クッキーではなく、モバイル端末の広告識別子である IDFA/AAID を活用した広告配信手法が徐々に主流になっていくと想定している。

ITPの流れとは別だったが、DMP・CDP活用の流れも強まってきている。自社データをいかに分析して、IDFAやAAIDに繋いで、どのように広告配信で使っていくか、が重要になってくるだろう。

サイト内の分析で言えば、Googleアナリティクスで正確なデータが取得できないため、iOSの分析を捨てるという判断も必要になってくると思う。虫食いの中途半端なデータをもとに分析をしたとしてもまともな結論は出ない。

Written by 長田真
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