「多くのアクセスを簡単に集められる」:有名人の「死」を取材する ジャーナリスト の告白

アメリカの人気シェフ、アンソニー・ボーディン氏がフランスで6月8日、明らかに自殺したことが判明してからわずか数時間後には、インターネットには2種類の記事があふれていた。ひとつは、この作家・ジャーナリストでもあるシェフに関する回想の記事、もうひとつは彼の彼女や友人シェフのエリク・リペール氏、彼が出演していたテレビ番組に関する、検索エンジンごとに最適化されたクリックベイト(刺激的な見出しや画像でクリックを誘う広告)だ。これらが溢れた理由は、パブリッシャーが簡単にトラフィックを稼げることにある。

ジャーナリストやメディア企業は、悲劇が起こった場合、常に現場に駆けつけなければならない。しかし、有名人の死となれば、デジタルパブリッシャーは、コンテンツがオーディエンスの検索クエリに適しそうだと判断すると、それらを量産し、有名人の死をネタにして簡単にトラフィックを集めるスタイルを取ってきた。一番乗りの報道となる場合もあるだろう。あるいは、古いコンテンツを刷新して利用したり、引っかかってくれそうな検索語を選定したり、古い記事をソーシャルメディアプラットフォーム上に再配信したりする場合もあるはずだ。今回のケースでは、多くの人が有名人の死をネタにしていることに気づき、非難の声を上げた。

匿名と引き換えに率直に語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、有名人の死のニュースに飛び付くのはどのような感じなのかを聞くために、ある老舗新聞社のデジタルリポーターとデジタルライフスタイルパブリッシャーの編集者から話を聞いた。その回答をいくつか紹介する。

――有名人の死に関して、これまで最大でどれぐらいの数のコンテンツを制作した?

リポーター:長寿番組MTVに出演していた、ある男性の死亡ニュースでは、トラフィックは非常に増えた。彼が亡くなってから、彼の遺体が土葬されるまでの2週間ほどのあいだ、私は彼の妻と、毎日電話で話していた。彼の死に大きな関心を寄せる人も多かったので、彼女には毎日連絡していたのだ。これは気の滅入るものだった。

編集者:私たちは通常、死亡ニュースの記事数を制限している。2〜3記事が良いところだろう。葬儀ビジネスに従事しているわけではないからだ。もっと祝賀的な角度のニュースを探すほうが多い。伝説的な俳優が死亡したら、どうするかだって? その俳優が出演している映画で、「これは素晴らしいので見ておくべき」という記事ぐらいは出すと思う。しかし、再度プロモーションをかけることを考えているなら、もっとコンテンツを制作するかもしれない。私が以前に勤務していた会社では、10本近く記事を書いても問題にならなかったが。

――有名人が亡くなったらどんなことが起きますか? 完全に非常事態ですか?

リポーター:私は遅番で働いているので、起床するとニュースチームがどのように私の所属するチームと連携して取材をしたかについてSlackメッセージを大量に受信している。ニュースチームは実際に、ケイト・スペード氏(ハンドバックデザイナー。ボーディン氏の3日前にやはり自殺)の件で指揮を執っていた。私たちは現場から情報をすくいあげて、その情報を弊社のWebサイト上でオーディエンスに対して発信していた。ニュースチームは現場で、彼女の関係者と話をしていた。

編集者:どの程度ニュースを発表するのが適切かに関しては、緊急のミーティングがたくさん開かれる。また、そのニュースに関連した古いコンテンツを再度味のあるプロモーションにして、電子メールやソーシャルメディアを介して流すため、舞台裏で非常に泥臭い作業が行われている。ライフスタイルのWebサイト運営会社で働いてみると、記事や切り口を不適切とするかどうかを決定するのには、少し時間をかけることが分かった。自社の報道区域内でニュース速報となる事件が起きた場合、私はそのデータを詳しく調べ、検索結果からこの事件が起きている場所を絞り込み素早く把握する。Google Trendsでは、悪事を働いた被疑者として、常に同一の人物が表示され、たとえば、純資産、交際関係、家族の状態など被疑者の情報を調べれば、必ず返してくれる。これらの事件に関する情報は簡単に手に入る情報であり、事件に関する記事を自ら進んで書けばトラフィックを確実に稼げる場合もある。

――しかし、そのようなミーティングでは、人の死に関して書くかどうかではなく、その書き方が問題になることが多い。

編集者:まったくその通りだ。デジタルメディアでは毎日、経営層から求められる常に野心に溢れた目標に応えられるよう、記事に人気が出て、トラフィックが増加するようなニュースはないかと期待している。そのような場合、どの程度までニュースを「利用し」(これを表す適切な言葉がほかに見当たらないが)、味を出しながら、オーディエンスが高く評価する記事を発信するか? 基本的な答えを求めるのが、より難しくなる。このミーティングに参加できなくなるのは困るが、だからといってネット上で怒りを買って、自社ブランドがその怒りを鎮めるような事態にもなりたくはない。

――コンテンツを素早く制作することが特に重視されていたか?

編集者:スピードが、必ずしも優れた判断に結び付くとは限らない。記事自体は興味深くても、ニューズウィーク(Newsweek)が批判されたことに関して、私が強く思うことは、ニューズウィークが記事を出すのがあまりに早すぎるため、印象が悪くなっているのではないかということだ。

――このネガティブな反応によってパブリッシャーが今後、これらの状況に対応する方法を変えると思いますか?

リポーター:何があろうと、パブリッシャーはここで紹介したのと同じような記事を使って、Google検索で上位を得ようとするだろう。この問題に気づく人が多くなったというだけだ。かつては、この問題に気づかれないようにしてトラフィックを稼げていたのだ。私はこれからも、こうしたやり方はなくならないと思っている。だが、気づく人は増えるだろう。

編集者:これは本当に昔からのやり方だ。ニューズウィークはこのやり方で成果を上げた。誰もがいままで見てきたやり方を、通常ではありえない早さでやってきたのだ。これらのニュースは、通常は1日もあれば広がる。しかし、検索してもはっきりと結果が出てこないため、普通に検索してもその検索結果を通常はすぐには見られない。いずれにしても、PR的な視点から見ると、ニューズウィークの効率重視が実際、あとあとの悪い印象につながったのだ。

ニューズウィークのトラフィックが今朝最高であったことには疑いの余地がない。つまりそういうことだ。パブリッシャーたちは、この方法によって収益を上げる。電子メールやソーシャルメディアと比べると、検索においては特に、この方法をこれからも用いない理由はほとんどありませんから。ただ、オーディエンスのあいだではブランドとコンテンツの分離が進んでいるのです。

Max Willens(原文/訳:Conyac