人材獲得に悩む、 インハウス 化を進めるブランドたち

製薬大手のバイエル(Bayer)が2017年中ごろ、社内の戦略家チームでアナリティクスとプログラマティックを主導する人材を探しはじめたとき、デジタル戦略とプラットフォームの担当VPだったジョシュア・パラオ氏は、応募者25人を審査した。しかし、条件を満たして面接に進んだのはわずか3人だった。そしていま、マーケティングのさらなるインハウス化を進め、現在10人のチームを2018年末までに倍増することを目指しているが、今回も、雇用が難問であることが明らかになりつつある。

「当社は求める人材のタイプにはこだわりがあり、マーケットプレイスがどのように機能しているのかを理解している人を求めている」と、パラオ氏はいう。「つまり、適切なスキルに加えてクライアント側の経験もある人材だ。特にバイエルのような老舗の大きいクライアントだと、スタートアップやエージェンシーからやってくると、あまりに違っているということがあり得る。そのため、カルチャーが合うことが重要になることがある」と、同氏は語った。

このバイエルのように、マーケティングリソースのインハウス化を進めている企業は、必要な人材を見つけるのに苦労している。その理由は、カルチャーへの適合、旧態依然とした人材システム、一部の沿岸都市以外での人材探しなど、いろいろとある。

古くなった社内業務が大きく影響して、採用プロセスが遅れることがある。チームの人材を採用する際に、会社全体の採用を実施している総合的な人事部門はあるが、社内エージェンシーに特化して人を見つける専門の人材やチームがないという会社がある。その場合、エージェンシー責任者は独自の内部ネットワークに頼って必要な人材を探す。それでうまく行くこともあり、ある幹部(匿名を希望)によると、LinkedIn(リンクトイン)に人材紹介の依頼を1件投稿したところ、少なくとも10件の候補者を得られたという。一方で、この幹部によると、こういったネットワークは若手人材など、さまざまな人材においてサイロ化が進んでいる。

人材獲得に特化した人材

ザ・ワンダフル・カンパニー(The Wonderful Company)は、フィジーウォーター(Fiji Water)、テレフローラ(Teleflora)、ワンダフル・ピスタチオズ(Wonderful Pistachios)といったブランドポートフォリオを社内のフルサービスエージェンシーがもう11年も担当しており、人材探しのための人材もいる。しかし、同社のプレジデントでワンダフル・エージェンシー(Wonderful Agency)のトップであるマイケル・ペルジゴン氏によると、そんな同社でも、採用の取り組みは会社の人事部門から切り離す必要があった。

ザ・ワンダフル・カンパニーがメディアバイヤーとクリエイティブを雇おうとした際、人事部門はワンダフル・エージェンシーの「クリエイティブのニーズを理解できなかった」と、ペルジゴン氏は語る。そこで1年半前、ワンダフル・エージェンシーはマリサ・ルイス氏を雇用し、社内エージェンシーの採用だけを指揮させた。ルイス氏は複数の広告エージェンシーで採用を担当したことがあり、サピエントレイザーフィッシュ(SapientRazorfish)では人材獲得のシニアマネージャーを、ハバス・ワールドワイド(Havas Worldwide)では人材ディレクターを務めた。適切な人材を見つけるため、ルイス氏はそうした経歴による人脈をたぐった。

「この分野の人材獲得に特化した人間がいると大幅に効率的になる」と、ペルジゴン氏はいう。現在、ワンダフル・エージェンシーで働く150人のうち、95%は従来型の広告エージェンシーからきた人だという。

人材獲得を阻む各種問題

ただ、いまは、エージェンシーからの採用に関心がある企業ばかりではなくなっている。エージェンシーは最高の人材をもたらさないというのだ。これがインハウス化の動機になり、同時に、人材発掘の別の道を切り開いている。米国企業で働くあるマーケター幹部は、デジタルやメディアの最高の人材はApple、Facebook、Googleといったプラットフォームやテック企業が獲得しているのに、「なぜいまだに広告エージェンシーに目を向けるのか」と主張する。そうすると問題になるのは、テック企業が従業員に提供していることが多い、高い給料や、株その他のインセンティブにどう対抗するかなのだという。

採用プロセスの管理業務も多くの企業で妨げになっている。ある大手国際企業の幹部は、必要なインハウスの採用を妨げている大きな要因のひとつはスピードだと指摘した。会社が最初に実施し、その後も管理していく必要がある事務仕事を考えると、年末までに5人見つけて採用するというのでも驚異的なのだという。

見過ごせないもうひとつの問題が立地だ。企業がニューヨークやロサンゼルスのような主要都市にない場合、インハウスチームのどの空きポジションについても、必要な人材を見つけるのが大幅に難しくなる。

人材獲得にふさわしい場所

国際企業の新しいインハウスチームのためにメディアのバイイングおよびプランニングの職とクリエイティブ職、両方の採用を担当しているマーケターによると、ニューヨークに近いニュージャージーが拠点でも問題になる。「都市に通勤する必要がないからここで働きたいのだという人が私のチームにはいるが、ニューヨークに住み、仕事をしたいという人もまだ多い」のだという。

インハウスのエージェンシー以外の分野でもトップ人材の競争は激しくなっており、企業は戦略的に世間の注目を避け、主要都市の中心部にやってきている。マクドナルドが6月に本社を47年ぶりにシカゴ郊外からシカゴに戻したのも、そのためだ。マクドナルドのCEOのスティーブ・イースターブルック氏は新しい本社のオープニングで、マクドナルドの従業員を歓迎し、「ここに来てもらったからには、ニ度とよそには行かせない」と語った。5月にはGEが、大学の卒業予定者との距離を詰めるため、コネチカットの郊外を離れてボストンに移った。

もちろん、中心部にあるということは諸刃の剣でもある。都市の中心部にある会社のほうが直面する競争は大きくなる。たとえばワンダフル・エージェンシーは、ロサンゼルスのほかの広告エージェンシーからだけでなく、映画スタジオやエンターテインメント企業からの人材獲得にも取り組んでいる。「人材を巡る戦いは激しくなる。よいクリエイティブ人材がふさわしい場所を見つける機会が端的に増える」とペルジゴン氏は話す。

一方で、企業がロサンゼルスにあると、州外や米国外から人を雇う際に有利だ。「大きい市場に引っ越すのはあまり怖くないようなのだ。というのも、なんらかの理由でうまく行かなかったとしても、ほかのチャンスを見つけられるからだ」と、ペルジゴン氏は語った。

Ilyse Liffreing (原文 / 訳:ガリレオ)