「恐ろしいですよ」:食料品配達を生業としているギグワーカーの告白

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サンフランシスコが拠点のスタートアップ、インスタカート(Instacart)はアプリを通じた食料品などの即日配達サービスで売上を伸ばしているが、「ショッパー」と呼ばれる契約従業員とのあいだには、以前から大きな軋轢が生じている。近年はとくに、チップの天引きや給与体系の突然の変更など、ギグワーカーに対する不当な扱いの典型例として、同社はやり玉にあげられている。

新型コロナウィルス感染拡大により、現在、グローサリーストア労働者は生活必需品の提供者として欠かせない存在となっている。だがその一方で、配達員の危険性が大いに注目されており、そんななか、17万5000人のインスタカート(Instacart)ショッパーが全米規模でのストライキを敢行。会社が要求に応じるまで、注文のフルフィルメントを拒んでいる。

匿名性を保証する代わりに本音を語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回はあるインスタカート(Instacart)ショッパーに、このパンデミック中における労働の実情と、今般の状況がギグワーカーにとって転換点になりうる理由について話をうかがった。なお、読みやすさと記事の長さを考慮し、発言には多少編集を加えてある。

インスタカート(Instacart)広報は、米DIGIDAYの兄弟サイトであるモダン・リテール(Modern Retail)へ送付してきた声明文のなかで、同社は数週間前から「すでに、ショッパーの安全な労働環境を保全するための適切な措置を講じている」と述べている。同社は「あるサードパーティ製造業者とともに独自の手指消毒剤を開発しており、3月第5週中には、ショッパーコミュニティ専用のウェブサイト経由で提供していく」と述べているが、それがいつになるのか、具体的な日付けには言及していない。

──インスタカート(Instacart)ショッパーになったきっかけと、仕事の実態は?

昨年(2019年)4月、ポートランドに引っ越したときに契約しました。いくつか個人的なプロジェクトをやりながら生活をしていくには、複数の仕事を掛け持ちするしかないのはわかっていましたから。何カ月か働いて、ひとりで部屋を借りられるだけの貯金はできたのですが、会社が急に給与体系を変えたので、いまはその収入を維持するのがかなり難しい状況です。この手の会社が登場した当初はたしかに、手軽に小金を稼げる、いい副業でした。私はいわゆる「いい時代」は経験していませんが、それでも去年はじめた頃は、週に30時間働いて、諸々の支払をまかなえるくらいは稼げたんです。ただあいにく、このモデルはフレックス制で悠々と働いて、まともな暮らしを送りたいと考えるような人には向いていません。

──ギグエコノミー界では、労働と副業がいわば同義語とされています。状況は変わらない?

臨時でお金が要るから、という理由で働いている人はいまも少なくありませんが、最近は私も含めてフルタイムの仕事として捉える人が増えています。私は企業国家アメリカに20年も勤めましたが、生活は惨めなものでした。それで、ショッパーになろうと決めたんです。スーパーで買物をするときは毎回、相応の収入を得るためにきちんと仕事をする、ということを心がけています。でもいまは、以前と同じ額を稼ぐのに週に60時間働かないとなりませんし、ほかの仕事を見つけたくても、週6日働いているので、その余裕がないというのが現状です。

──インスタカート(Instacart)の給与体系の変更による具体的な影響は?

はじめた頃は、前の週に労働時間を自分で決めることができたのですが、今年(2020年)の1月から「オンデマンド」モードになってしまいましてね。簡単に言えば、早い者勝ちです。いまやみんな、毎日スマホの画面とにらめっこですよ。オーダーが出たらすぐ、どの程度の仕事なのか、頭のなかで見積もらないとならなくて、それは本当に大変です。でも「おいしい」オーダーを、つまりベースとなる額もチップも良くて、商品数が100個未満という実入りの良い注文を掴むには、スピードが命ですから。言い換えれば、この時点でもはや、フレキシビリティ(柔軟な働き方)という考えは存在しません。それどころか、お金のために毎日きゅうきゅうとしています、最近は特にそうですね。

──インスタカート(Instacart)の従業員を含め、多くが賃金と安全性の両面での待遇改善を強く求めるなか、ショッパーとして新型コロナウィルス騒動の最前線で働いているわけですが、現場の実情は?

 

今日から、仕事をしないつもりです。とにかく不安ですし、誰かのおばあちゃんを殺してしまうんじゃないかと思うとぞっとします。実際、恐怖感は日に日に増しています。自分が感染するのも、そこまでじゃないとはいえ、やっぱり心配ですし、ですからスーパーで買物をするのは正直言って、最悪の気分です。私の場合、ストライキの前から仕事量が減っていましたし、幸い、家賃は4月分まで払ってあるのですが、いろいろな支払ができなくなるんじゃないかと思うと、気が気じゃありません。先週末は2件配達したのですが、最初から最後まで冷や汗と震えが止まりませんでした。ポートランドの人たちは、家で大人しくもしていなければ、(社会的)距離も気にしていない。だからいまは、フレッド・マイヤー(ポートランドの大手スーパー)には行きません。入り口でチェックしている人はいないし、カートの消毒だって、従業員がスマホをいじりながら、でしたからね。いまにも叫び出しそうになるのを必死でこらえましたよ。

決定的だったのは、前回の配達です。あるおばあさんに届けたのですが、私が近づくのを極端に怖がられたんです。私らが通常しているサービス、たとえば重い買い物袋を部屋まで運んだり、郵便受けの新聞を持っていったり、といったことですが、そのおばあさんはそういうのを何ひとつ、私にさせようとしなかった。「おばあさん、大丈夫です、なかには入りませんから」と言って、おまけにクロロックスの(除菌)シートまで掲げて見せた。彼女をウィルスから守るためにできることはすべてやっていると、目に見える形で証明するしかなかったんです。車に戻った途端、涙がこぼれてきました。じかに顔を合わせているというだけでこんなにもひどい仕打ちを受けるのかと思うと、情けなくなったんです。

──インスタカート(Instacart)が発表した従業員に対する約束については?

私は一時期ホームレスも同然で、知人宅のソファに寝泊まりする状態でしたが、懸命に働いてようやく、とりあえずですが、経済的な安定を手に入れました。もう44才ですし、その安定が1カ月で消えてしまうかもしれないと思うと、怖くてなりません。でもそれでも、会社が最低限の保障をくれるまでは、ストライキを続けます。インスタカート(Instacart)の文面はいかにも、苦情が出る前から「専門家チーム」に解決策に取り組ませてきた、と言いたげですよね。でも会社はもちろん、私らショッパーが買物と配達を続けて、自分とお客さんを危険に晒していたことを何週間も前から知っていたんですよ。しかも、アルゴリズムと給与体系はほんの数日で変えるくせに、買物/配達の際の新型コロナに関する注意点を教えるとか、そういうことをする気はいっさいなかった。まあ、会社は国の法令である程度は守られるのでしょうが、それでも最近の新規ショッパー登録数の減少で、収益に多少は影響が出たんじゃないですかね。

(この期間につけられた)5つ星未満の評価の削除だって、私らが騒いだからですよ。言うまでもなく会社は、消毒剤や除菌シートといった商品が各地で急速に品薄になっていることを示すデータを前々から持っていた。にもかかわらず、私らのことはずっと放置ですよ、自分でどうにかしろ、と。消毒剤を提供するとか何とか言っていますが、それに関する連絡はいまのところ何ひとつない。会社はこの何年かで消費者と役人の信頼は得たようですが、従業員とのコミュニケーションはいまだに記者会見や公式発表を介してのみ、です。要するに、今回の発表も注目を集めるためのただのPRです。あの会社にはそういう意味での実績はないに等しいですし、労働者に有意義な形で方針を変えることは、この先もまずないでしょうね。

Gabriela Barkho(原文 / 訳:SI Japan)