世界中で拡大する新型コロナウイルスの健康以外への影響が小売業界を少しずつ蝕んでいる。2019年末に中国で感染が拡大し、同国での生産活動が減速したことで、Amazonのサードパーティセラーが新型コロナウイルスの影響を感じはじめているのだ。
世界中で拡大する新型コロナウイルスの健康以外への影響が小売業界を少しずつ蝕んでいる。2019年末に中国で感染が拡大し、同国での生産活動が減速したことで、Amazonのサードパーティセラーが新型コロナウイルスの影響を感じはじめているのだ。
現在、隔離命令と移動制限が原因で、多くの工場や設備の労働者が出勤を停止している。そして、1月から2月にかけての春節後、受注残が増加し続けている。全体的な売上の落ち込みはまだ見られないが、セラーたちは近い将来に在庫切れになるという恐怖から警戒態勢に入り、事前に計画を立てはじめている(※原文記事は3月5日公開)。
Amazonのマーチャントを襲うサプライチェーン停止の余波
Amazonのマーチャントにソフトウェアソリューションを提供するイーテールズ(Etailz)のCOOミッチェル・ベイリー氏は「マーチャントにとって最悪なことは在庫切れだ」と話す。イーテールズはAmazonの出品者でもあり、サプリメントや栄養食品を販売している。前回の発注で過剰在庫を抱えているため、現在のところ、イーテールズ自身の品ぞろえに問題はない。しかし、イーテールズが所有する数千のAmazon出店者のデータによれば、全体的な出荷の遅延が原因で、特定グループのセラーに売上の落ち込みが生じている。最初に打撃を受けたこれらのセラーは主に、家具、靴といったカテゴリーの商品を販売している。季節ごとに商品が入れ替わり、サプライチェーン減速の影響を受けやすいカテゴリーだ。
Advertisement
Amazonに出品するクラフトキットのブランド、グロー・アンド・マーク(Grow and Mark)の創業者ウィル・ジョンストン氏によれば、新型コロナウイルスのアウトブレイクにより、中国のサプライヤーたちは納期までに出荷できるかどうかを心配しているという。「いまのところ、売上に大きな影響は出ていないが、出荷待ち商品の在庫が切れれば、おそらく売上に響くだろう」と、同氏は話す。キットに使用するガラス瓶など、すでにいくつかの商品の遅延が発生しており、現在、台湾経由で出荷する手続きを進めているという。
さらに、中国の大口サプライヤーの1社から、同社の商品の製造に必要な部品の調達に苦労しているという報告を受けたと、ジョンストン氏はいう。これらの遅延は年末、ホリデーシーズンの注文に影響する見通しだ。グロー・アンド・マークにとって、ホリデーシーズンは例年、Amazonにおいて1年でもっとも忙しくなる時期だ。
独創的な戦略で在庫を維持
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)によれば、サードパーティセラーは売上を故意に減速させるため、Amazonに掲載する広告を25~50%減らしはじめているという。在庫を数週間長く維持しようと、あらかじめ計画していた取引やプロモーションを取りやめたブランドもある。
Amazonのマーチャントを対象にしたトレーニングプログラム、ナイン・ユニバーシティ(Nine University)の共同創設者で、Amazonでサードパーティのライフスタイル商品も販売しているテイラー・ハイオット氏は、オーダー関連の打撃がもっとも大きいのは家族経営の小さな店舗だと話す。ウォルマート(Walmart)、Appleなどの大手小売企業と異なり、小さな実店舗を持ち、Amazonにも出品しているセラーのほとんどは、タイやベトナムに製造を移転する手段も資金もないと、ハイオット氏は説明する。
だからこそ、中国から商品を持ち出すことが、今後数カ月、売上を維持するために不可欠なのだ。税関の新たな規制によって、大量の商品が港や船で足止めを受けているいま、セラーにとっては、中国の供給業者とのコミュニケーションが鍵を握る。ナイン・ユニバーシティのセラーたちはワッツアップ(WhatsApp)のようなメッセンジャーアプリで隔離された人々と連絡を取り、手続きを進めたり、最新状況を確認したりしている。「サプライチェーンの至るところで影響を感じる」と、ハイオット氏は話す。「その日、港で作業している人が捕まらなければ、誰かと話をすることすらできない」。
物流やフルフィルメントを専門とする企業に依頼し、たとえば、メキシコやインド経由の出荷に切り替えることで、遅延に対処しているセラーもいる。いわゆる「ソーシングエージェント」への依頼も増えている。ソーシングエージェントとは中国に拠点を置く中間業者のことで、マーチャントの代理人として、商品の出荷を早めるよう交渉してくれる。
Amazonは予想される在庫不足にどう対処しているのか
Amazonにとっての主な懸念は7月のプライムデー(Prime Day)だ。Amazonはサードパーティセラーに依存しており、売上の60%近くをサードパーティセラーが稼ぎ出しているため、年に1度のプライムデーの計画を立てておくことが重要なのだ。Amazonはこの数週間、セラーに複数のメモを送っている。既存の注文を処理できない場合のアドバイスが書かれており、評価の低下や否定的なレビューを回避するため、店舗を「休店中」にすることも推奨している。
新型コロナウイルスの影響拡大に伴い、価格のつり上げや偽物の問題も拡大している。たとえば、2月上旬以前、N95規格のマスクは13.28ドル(約1394円)で販売されていたが、現在、200ドル(約2万1000円)の値が付いた商品も見られる。価格のつり上げは規約違反にあたり、需要が高い商品の価格をつり上げようとしたセラーに対し、Amazonはペナルティを科している。
Amazonは対策として、ウイルス撃退をうたう商品の取り下げをセラーに要請している。さらに、1週間ほど前から、新型コロナウイルス関連の検索についての注意書きが掲載されている。「新型コロナウイルス感染症の予防策について学ぶ」というリンクも現れるようになった。それでも、買い物客の恐怖が和らぐ気配はなく、プラットフォームのアルゴリズムに圧力をかけ続け、セラーは価格をつり上げ続けている。Amazonは3月に入り、マスクや除菌剤などの防災用品100万点の出品を取り下げ、価格のつり上げに対処したと発表している。
機会に乗じて勝者に
人気商品を扱い、その恩恵を得ているマーチャントもいる。イーテールズのデータによれば、Amazonは取り締まりに最善を尽くしているものの、商品の出荷が減速したおかげで、「防災」カテゴリーは売上が伸びている。ジャングル・スカウト(Jungle Scout)のデータによれば、何千もの業者が恩恵を実感しているようだ。防護服の売上は1カ月で353%上昇し、医療用マスクは1日平均8510個売れている。
ナイン・ユニバーシティでも「終末」キットの売上が増加している。ハイオット氏は、先々の計画が功を奏したセラーもいると語り、春節前に備蓄し、その利益を享受している人々を引き合いに出した。ナイン・ユニバーシティのデータによれば、「米国内での調達の大きな伸び」も見られる。一部のセラーは在庫を維持するため、米国のメーカーに目を向けているという。
「最初に動いた者が必ず最初に利益を得る」と、ハイオット氏はいう。「人々は外出を恐れると、オンラインで買い物をはじめるのだ」。
Gabriela Barkho(原文 / 訳:ガリレオ)