DTC ブランドの多くは、なぜ Amazon を拒絶するのか?:「ほぼすべてを与えてくれるが…」

Amazonは2018年10月、DTC(Direct-to-Consumer:ネット直販)ブランド創業者の一団を同社のシアトル本社に招待した。それぞれのブランドに適したマーケットプレイスに関する議論を交わしたり、Amazonの施設やAmazon Goストアの見学、さらには夕食会やAmazonの厚意による無料商品提供などが行われた。

招待されたブランドのなかには、すでにセラーとなっているブランドもあり、その成功体験について語ったが、DSTLDデニム(DSTLD Denim)やアンディー・スウィム(Andie Swim)を含む大半のブランドは、Amazon上で大きな存在感を発揮できていない。

そのため、存在感を発揮できていないブランドの創業者らは、AmazonのDTC事業開発統括者である、ジェイソン・ユーン氏やチャド・チッカレッリ氏が率いる幹部との座談会の場で、自分たちのブランドをAmazon上で販売したくない理由を説明した。

理由は次のようなものだった。Amazonが有意義な顧客データを共有することを拒んでいること、高価なファッションなどの領域における差異の理解や専門知識を欠いていること、Amazonの検索プラットフォーム上で自社ブランドが発見されず、Facebookなどのプラットフォームからのアトリビューションや一般的なユーザーエクスペリエンスを追跡できないこと、カスタマーサービスに特色がなく、概して、Amazonとの取引が悪魔と取引しているような感じの悪さを受けること、などが挙げられた。

「DTCの世界でいま得られる唯一のメリットは、ブランドを作り上げれば、Amazonに対抗できるということだ。それが、販売をするうえで重要な点だ」と、DSTLDの共同創業者であるマーク・リン氏は語った。「リテールの分野で事業を長く続けるのは困難だ。利幅が低く、時間を要するからだ。しかし、自分たちのブランドは生き残ると思っている。魂を売ってしまうと、それも終わりだ」。

ブランドが、2017年後半からAmazonの若いマーチャンダイザーから売り込みを受けはじめたときは、これはいけるかもしれないと感じたと、DTC水着ブランドであるアンディー・スウィムの創業者を務めるメラニー・トラビス氏は言う。しかし、Amazonとのやり取りは実際にははじまらなかった。

「Amazon上で商品を販売するのは、顧客志向のブランドにとっては効果的とはいえない。Amazonは顧客を非常に気にかけていると声を大にして自信を持って言いながら、本質的には我々から顧客を奪っていこうとするのは偽善ではないかと、私は言った」と、トラビス氏は言う。「要するに、ブランドを商品に格下げしようと考えているようだ。悪い人たちではないが、モンスタープラットフォームだ」。

反Amazonの成長戦略を掲げることが、Amazonのリテールの仕組みに抵抗する企業の1社であると自社を位置づけたいブランドの自尊心となってきている。これらのブランドは、常に心地よく感じられるやりとりや顧客に寄り添うマーケティング戦略を最優先にした戦略をとり、データに基づいて顧客関係を築くスタイルでビジネスを行っている。顧客はAmazonでおむつや電池などの生活必需品は購入するかもしれないが、ブランドから商品を熟慮して購入する場合は、より大きな商品を購入する。これが、ブランドと、DTC企業だと通常見なされている何百ものAmazon上のセラーとを差別化する考え方だ。富裕層の顧客を獲得するためにベンチャー・キャピタルを利用するのも効果的だ。資産の潤沢なブランドは、少なくとも現在は、Amazonの誘いを断る余裕がある。

Amazonは、純利益を増やすためにこれらのブランドとの取引をする必要はないが、DTCブランドを支持する顧客が欲しいのだ。だから、それを実現するため、配送用に特別包装を行ったり、資金面での投資をしたりと、さまざまなインセンティブを提供している。

「ほぼ、あらゆるものを提供する」

Amazonは同社のプラットフォーム上で販売を行うブランドを常に探していると、Amazonの元従業員でAmazonのコンサルタント会社であるヒンジ(Hinge)の創業者であるフレッド・キリングズワース氏は言う。しかし、Amazonは、ブランド・エクイティや得意顧客を持ち、概して自社で数年間のオンライン販売経験を持つこれらのDTCブランドに、同カテゴリにおいて、特別に意見を主張することを求めていると、彼は言う。競合するウォルマート(Walmart)は、ボノボス(Bonobos)やJet.com(ジェットコム)、モッドクローズ(Modcloth)などのデジタルブランドの買収にすでに乗り出しており、Amazonは独自のDTC戦略を考える必要がある。

Amazonは販売してもらえるように特別な条件を持ちかけてくると、複数のブランド創業者らが米DIGIDAYに語った。それらの取引条件には、ブランドが同社のプラットフォームで販売することを条件にした、50万ドル(約5475万円)から100万ドル(約1.09億円)の資金投資や、Amazon上での100万ドル分の広告の無料利用、Fulfilled By Amazonを介した無料インベントリ管理などがある。Amazonにこの記事のためにいくつかコメントを求めたが、回答はなかった。

「ほぼ、あらゆるものを提供してくれた。私たちの企業を買収する以外のすべてのものを提供してくれたともいえる」と、Amazonからの売り込みを受けた、あるブランドのCEOは述べた。「しかし、そのような予算を持っているわけではない。ただ、それを実現するだけのリソースを持っていることは明確にしている」。

DTCリテールは、業界で影響力を持つようになってきた。ピッチブック(PitchBook)のデータによると、VCによるインターネットリテール分野のスタートアップへの投資は、2017年は38億ドル(約4160億円)であったが、2018年には50億ドル(約5476億円)まで上昇した。これらのブランドは、オフラインでもリーチを広げており、今後5年で850店のデジタルブランド店舗がオープンする予定になっている。しかし、デジタル分野が本業のブランドが、VCからの投資を顧客獲得に利用する必要がある場合は、利益を上げるのが困難であることは、Amazonにとって追い風となるはずだ。成長を加速させるために、ターゲット(Target)やノードストローム(Nordstrom)で販売を開始した企業もある。

しかし、Amazonの営業担当者は粘り強い。Amazonの連絡担当者から定期的に連絡を受けると、リン氏は言う。スニーカーブランド、グレイツ(Greats)の創業者であるライアン・バベンジン氏は、Amazonの営業担当者は「あらゆる方法、形、形式で」彼のチームにアプローチしてきたという(しかし、「恭しく丁寧にお断りした」とのこと)。

オンライン家具ブランドであるアーティクル(Article)でマーケティングディレクターを務めるダンカン・ブレア氏は、昨年、アーティクルの製品をAmazon上で販売してほしいと、週に1度、Amazonから連絡を受けたという。この取引はお断りしたと、彼は言う。なぜなら、アーティクルの特色のひとつは、配送し、組付けし、家具を撤去するまでがサービスに含まれ、これはAmazonではうまくいかないからだ。

もっとも重要な問題は、Amazonが非常に顧客志向の会社であるため、ブランドを大事にしているようには見えないのが常であることにあると、Amazonのエージェンシー、オルカパシフィック(OrcaPacific)でビジネスマネージャーを務めるカイリ・オルソン氏は言う。10月の座談会に参加した創業者によると、Amazonは自社の顧客データに関するポリシーに関しては折れたくないと考えていたということだ。つまり、DTCブランドは、Amazonの通常の顧客洞察だけは閲覧できるが、どのような人がAmazonで商品を購入しているかについての詳細は閲覧できないということになる。

Amazonは、防御策として顧客の信頼を得るために、データの扱いに厳しいポリシーを敷いており、AmazonのWebサイトでショッピングをした顧客は自分たちの情報がセラーやブランドに渡ることはないと確信して良いと謳っている。この部分に関しては、顧客のデータを頼りにしているDTCブランドは、それがビジネスモデルを阻害するという点を除いては、尊敬の念を持って見るだろう。

しかし、そのようなデータをAmazonがチラ見せすれば、DTCブランドのリクルーティングにより効果的だと思われる。Amazonの営業担当者は、マーケティング費用を自社サイトではなく、FacebookやAmazonの商品販売ページなどの外部プラットフォームに多く費やすことによって、Amazonであるという信用があるために、ブランドが良い成果を残していることを示唆したと、アンディー・スウィムのトラビス氏は言う。Amazonはそれを裏付ける数値については語らなかった。

「基本的に資金はVCから集め、そのマーケティング予算として集めた資金をAmazonのために利用してほしいと、Amazonは言う。侮辱されているように感じた」と、トラビス氏は言う。

ブランドの創業者らは、また、Amazonがプライベートブランドを利用して、高価なブランド製品を安売りする可能性がないかについて答えてほしいと考えている(なお、Amazonはこれについて否定している)。「『Amazonのプライベートブランドはいまのところ、御社のような領域に注力していない』と、Amazonは言うだろう」と、ヒンジのリン氏は語る。「私は、『確かに、いまのところはね』と言いたい」。

「Amazonは常に自社のことばかり考えている。そのため、たとえいくつかの取引を取りやめてでも、自社の利益ばかりを考えている」と、eコマースおよびマーケティングのプラットフォームを提供するコマースハブ(CommerceHub)のCEO、フランク・プア氏は言う。「Amazonはパートナーシップを組まない。一方的な取引をする。理解を示してくれるとしたら、それは釣りだ」。

「業績は右肩上がり」

すべてのブランドがAmazonの申し出を断っているわけではない。ベッドのオンラインビジネスを本業とするブランド、ボール&ブランチ(Boll & Branch)のチームは、昨春にAmazonチームと会うためにシアトルに飛び、その数カ月後にはAmazonのWebサイトで成功を収めている。Amazonはあらゆる販売方法(サードパーティあるいはホールセール、パートナーを介してなど)を提示してきた、とボール&ブランチで事業開発およびパートナーシップを統括するケイティ・ナウム氏は言った。最終的にトールリッジ(Tall Ridge)をパートナーとして販売することが決まった。彼女は、取引の期間あるいは大半のトラフィックの発生源はどこかについては語らなかったが、この体験は良いものだったという。

「次のような判断を下した。顧客の存在するところにいたい、また、できる限り簡単に購入してもらえるようにしたい」と、ナウム氏は言った。「この取引を結んで以来、業績は右肩上がりだ」。

ベッドブランドのブッフィー(Buffy)も、Amazon上で羽根布団を販売しており、ブッフィー独自のパッケージングを使用して購入者に配送するようにAmazonを説得することができた。これは、上層のブランドだけが得られる特典だと、CEOのレオ・ワン氏は言う

Amazon上で商品を販売する、たとえば、ブランドのマーケティングをするために同プラットフォーム上で商品をひとつだけ販売して、自社Webサイトへのトラフィックを増やすなどだが、これが意味のあることのように思える場合もある一方で、これを行うのは危険だという人もいる。Amazonは、たとえブランドが同プラットフォーム上で販売していなくても、ブランドが同社の一般化したデータを用いて、Amazon上で広告を出す機会も実際に提供している。しかし、Amazon上に広告を出し、顧客を別のブランドのWebサイトへ引き付けるのは、ギャンブルのようなものだと、リン氏は言う。

最終的には、すべてのオンラインブランドはAmazonに対するなんらかの戦略を取る必要があるだろうと、オルカパシフィックのオルソン氏は言う。しかし、DTCブランドにとっての問題は、Amazonが顧客データの取扱いについて譲歩しないことでも、競合商品となるプライベートブランドの開発に着手する可能性があることでもない。問題は、このWebサイトの体験が自社に不利に働くことにある。アルゴリズムは検索結果にもっとも安価で頻繁に購入されている商品を優先して表示する。それはつまり、高価な商品を上位に表示するのが難しくなるということだ。バベンジン(Babenzien)は、Amazon上でのナイキ(Nike)の存在感に黄信号を灯している。「顧客がAmazon上でナイキではなく、ナイキ以外のセラーから購入することが続けば、ほかのブランドはどうすれば成功できるだろうか?」と、彼は言った。

「私からすると、Amazonはリテールの一側面であり、Shopify(ショッピファイ)やFacebookなどのブランドは、また別の側面であると考えている。これらの企業は共存できると考えている。なぜなら、Amazonは商品の世界に属しているからだ」と、トラビス氏は言う。「ブランドがすぐになくなるということはない。しかし、Amazonはブランドにとっての適した場所ではない」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:Conyac