インスタの IGTV を実験場にする、人気ユーチューバーたち

インスタグラム(Instagram)本体よりも長い動画を投稿できる動画プラットフォームIGTVは、まだYouTubeの本物のライバルとして浮上するところまでには至っていない。だが人気ユーチューバーたちは、すでにIGTVに、YouTubeとは別物としての役割を見出しているようだ。ただそのせいで、YouTube動画を使いまわしてアップするプラットフォームであるというイメージが、ますます強くなってしまう恐れもある。

人気ユーチューバーのエヴァ・グタウスキー氏は、YouTubeチャンネルをふたつ運営している。メインのチャンネルには1000万人以上の登録者がおり、同氏が買ったものを細かく紹介したり、YouTubeで流行っているパフォーマンスチャレンジをやってみたりするといった作り込まれた動画を視聴しに集まってくる。もうひとつは、日常を切り取ったビデオダイアリーをときどき投稿する、登録者数150万人のチャンネルだ。それ以外にIGTVチャンネルも持っており、ここ1カ月ほど頻繁に使っているという。というのも、IGTVではYouTubeでのイメージには多少合わない動画も投稿できるからだ。

「IGTVには、メインの(YouTube)チャンネルにはアップしないような動画も投稿できる。あちらはメイクアップチャンネルではないので、メイク関連の動画は投稿しない。でもIGTVなら、ずっとアイデアは温めていたけれど、メインのYouTubeチャンネルには合わないと思っていた動画を試せる」と、グタウスキー氏は語る。

息苦しくなったYouTube

YouTubeに投稿できない動画を制作する場所としての可能性を、IGTVに見出している人気ユーチューバーはほかにもいる。グタウスキー氏は、美容やフードなど、新しいタイプのコンテンツに参入する機会と見ている。ほかのユーチューバーたちにとってIGTVは、かつてYouTubeの得意分野だった、もっと気楽な動画を制作できるチャンスだ。企業が出す広告費にふさわしい、より高品質の動画を制作しなければならないというプレッシャーをクリエイターたちが感じるようになり、そうした気軽な動画はあまり作られなくなっているのだ。

「ここ数年、(YouTube上の)クリエイターたちは、広告やマーケティングとの親和性が高い、これまでとは違う、より無難なコンテンツの制作に取り組まざるを得なくなっている」そう語るのは、YouTubeに29万2000人のチャンネル登録者を抱えるクリエイター、マリ・タカハシ氏だ。

広告が不適切なコンテンツと一緒に表示され、ブランドイメージが損なわれる恐れがあるという批判を受け、YouTubeは、広告主が出稿を嫌がる可能性がある動画での広告表示を猛然と無効にしてきた。そして今年からは、広告枠のGoogle Preferred(グーグル・プレファード)プログラムに含めるチャンネルを選択する際に、クリエイターが作る動画の品質も考慮するようになっている。その結果、人気ユーチューバーたちは、より長く、より高品質の動画を、以前より数少なく制作するようになった。そのほうがYouTubeのリコメンデーションアルゴリズムやコンテンツレビューシステムで有利に働くし、挿入するミッドロール広告の数を増やしてさらに収益を上げることもできるからだ。

IGTVはちょっとしたガス抜き

YouTubeではより高品質な動画を制作しなければならないというプレッシャーがあるため、それとは対照的なIGTVが、ちょっとしたガス抜きの場になっている。観ている人に親しみを感じさせるような、形式張らない動画をアップロードできるのだ。かつてはYouTubeが、そういった動画の多い場所として知られており、視聴者はそれを観て、クリエイターたちに親近感を覚えるようになっていった。テレビや映画で見る遠い存在のセレブたちとはまた違った存在だ。

「私はIGTV動画のほうがパーソナルだと感じている。YouTubeの動画を撮るときは、カメラや照明の準備をしなければならないが、IGTVの方では、そんなプロフェッショナルなことはまったくしていない。ただiPhoneで撮るだけだ」と、インスタグラムにフォロワー180万人、YouTubeにはチャンネル登録者130万人を抱えるデンゼル・ディオン氏は語る。

6月の頭から、ディオン氏はIGTVに毎週1本の動画を上げることに決めている。インスタグラムのメインフィードには長さ1分までの動画しか投稿できないが、IGTVならもっと長い動画が作れるからだ。それでもYouTubeの動画ほど長くなくてもいいし、作るのにもそれほど時間はかからない。「IGTVの動画はその場の思いつきで作っている。撮ってすぐ投稿しているものばかりだ」と同氏は話す。

2週間前、ディオン氏のマネージャーが、今週はまだIGTV動画を投稿していない、と催促してきた。「そのときはニューヨークにいて、どうしようかと思ってしまった。それで、にきびがひとつ出来ていたので、その上にほくろを描いてみたら、それがウケた」とディオン氏。この2分半ほどの動画はIGTVで66万9000回以上視聴され、ディオン氏のIGTV動画のなかでは2番目によく観られたものになっている。

この状況の良い面悪い面

YouTubeに代わるプレッシャーの少ないプラットフォームとして、クリエイターの注目度が上がってきているIGTVだが、こうした状況には良い面も悪い面もある。まず、クリエイターたちがIGTV用にオリジナル動画を作ってくれれば、先週カリフォルニア州アナハイムで開催されたデジタル動画コンベンション、ビドコン(VidCon)での、ある14歳の子の発言にあったような「YouTubeのゴミ箱」といった評判を覆せるかもしれない。そうなれば、クリエイターがYouTubeに持っている視聴者がライバルプラットフォームのIGTVに移ってきて、視聴者が増える可能性もある。

一方で、クリエイターたちが、自分のYouTubeチャンネルに投稿する基準を満たしていない動画をどんどんIGTVで公開すれば、IGTVはYouTubeにはいらないものを置く場所として定着してしまうかもしれない。そうなると、視聴者がIGTVの動画に対する興味を失ってしまうことも考えられる。また、インスタグラムがIGTVでの広告表示をはじめるとなったときに、高品質な動画に広告を出したいと思っている広告主への売り込みは厳しくなるだろう。かつてそうした広告主たちは、コンテンツの品質に対する懸念から、YouTubeへの広告出稿におよび腰だった。だからこそYouTubeは、視聴者数や動画の品質など、一定の基準を満たすチャネルにのみ広告出稿できるプログラム、Google Preferredの提供を開始したのだ。

ただ、IGTVはまだ広告に対応しておらず、それが実施されるまではクリエイターたちが大挙してIGTVに参入してはこないだろう。そう考えると、人気ユーチューバーたちがサイドプロジェクトを投稿する場として、IGTVが残り続けるのを後押しする効果があるといえるだろう。タカハシ氏がIGTVに魅力を感じたのは、タテ型(が主流だが、現在はヨコ型にも対応している)動画のプラットフォーム用に編集していると、動画を作りたいという強い欲求が蘇ってきたからだという。「これだけ長いあいだやっていると、モチベーションを維持し続けるには、こうした情熱を感じるプロジェクトがどうしても必要になる」と、タカハシ氏は語った。

Tim Peterson (原文 / 訳:ガリレオ)