YouTube上の質の高いコンテンツを制作するオーナーから直接インベントリを購入しようとするエージェンシーが増えている。「効果的なCPMで直接購入されるYouTubeインベントリに対するエージェンシーからの需要が非常に高まっている」と、大手メディアオーナーのパブリッシング部門の幹部は言う。
将来的にブランドセーフティの問題で困らないようにするために、YouTube上の質の高いコンテンツを制作するオーナーから直接インベントリを購入しようとするエージェンシーが増えてきている。
「効果的なインプレッション単価(CPM)で直接購入されるYouTubeインベントリに対するエージェンシーからの需要が非常に高まっている」と、大手メディアオーナーのパブリッシング部門の幹部は言う。
柔軟性が高いYouTube広告
YouTubeは、パブリッシャーのレートカード(媒体料率表)から45%も収益を差し引く。だが、それでも、パブリッシャーが自社のレートカード以上で広告販売できれば、大きな利幅を生めるような柔軟性が、YouTubeにはある。たとえば、パブリッシャーのYouTubeインベントリのレートカードがCPMで20ユーロ(約2900円)であっても、これを30ユーロ(約4300円)のCPMで販売し、YouTubeに前者の45%の分け前を支払う場合などだ。
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メディアエージェンシーは長い間、オーディエンスをYouTubeなどのプラットフォーム上で大規模かつ安価で買い取ることを好んできたが、リスクの少ないものを購入するためにより多く支払いたいと表明しているエージェンシーでは、この考え方が変わりつつある。
「CPMが高いほど、リスクが低くなる」と、メディア購買エージェンシーの従業員は語る。「YouTube/ネットワークス(Networks)上のコンテンツオーナーから購入すると、確かに高価だが、プログラムに従って利用でき、はるかに安全な購入を意味することになる」。
ブランドセーフティへの圧力
圧力は増すばかりだ。2月第4週、ディズニー(Disney)やネスレ(Nestle)、マクドナルド(McDonald’s)、AT&Tは、自社の広告が若い女性の動画のすぐ隣に表示され、信頼の失墜につながる不適切なユーザーのコメントが付随していたと発表し、同プラットフォームから自社広告を引き上げた。このような問題を完全に回避しつつ、YouTubeのオーディエンスや規模を今後も生かすために、エージェンシーは質の高いパブリッシャーのオーディエンスを直接買い取っている。
メディアオーナーは、この大きなプラットフォームから広告収益の分け前を多く獲得するために、2017年のYouTubeのブランドセーフティに関するスキャンダル以来ずっと、広告主に対して自社のブランドセーフティを保証すると謳ってきた。
「デジタルプラットフォーム上のブランドセーフティの問題にスポットが当たるなかで、チャンネル4(Channel 4)やオール4(All 4)は、ブランドセーフティを大きな課題と位置付けるブランドに対し、必然的に目的地となる場所を提供する」と、チャンネル4のデジタルおよびクリエイティブの統括者であるデイビッド・アモディオ氏は言う。
見直されるプロコンテンツ
しかし、広告主の予算が長い時間をかけて同プラットフォームから離れ、再びパブリッシャーの方へ移動していたと示す証拠は少ない。予算はしばしば一旦凍結され、2〜3週間を経たのち、撤退したプラットフォームに戻る。同日に公開されたメディアバイヤー100社に関する米DIGIDAYの調査では、このような良い成果を上げているプラットフォームへの出費を削減する大きな傾向は見られないと判明した。
とはいうものの、こういった状況下で、エージェンシーはYouTubeから撤退するつもりはないが、その予算を質の高いメディアのオーナーが制作したコンテンツを持つチャンネルに向けようとしている。
「詐欺やブランドセーフティの懸念から、質の高いパブリッシャーはブランドセーフティが保証されている環境で広告や創造的な制作物を販売するようになった」と、YouTubeで多数のオーディエンスを抱えるパブリッシング部門の幹部は語る。「数年間、ブランドやエージェンシーは、ユーザーだけがもっとも重要であり、コンテクストや環境は二の次であると考えていた。しかし、これは過去のことだ。これがいま、YouTubeにおいても拡大している」。
エージェンシーたちの見方
メディアオーナーのYouTubeチャンネルを直接購入したエージェンシーは、YouTubeのスキップできる広告フォーマットであるトゥルービュー(TrueView)ではなく、スキップできない広告を購入している。なぜなら、エージェンシーは、顧客が質の高いコンテンツを待ちわびている可能性が高いと考えているからだ。
「取引において、交渉を開始してからお膳立てを整えるまでにはより長い時間を要するが、顧客が本当に見たいと思うような完成度の非常に高いコンテンツが手に入る」と、メディアエージェンシーの幹部は言う。
多数のYouTubeオーディエンスを抱える質の高いコンテンツプロバイダーの独自リストを作成しているエージェンシーグループもある。このリストに記載されているコンテンツプロバイダーは、各エージェンシーグループがプログラマティックギャランティード(保証型のプログラマティック取引)に基づいてクライアントの利益になるようにYouTube上で購入したいとして事前に考えたプロバイダーだ。エージェンシー筋の情報によると、ゴードンラムジー(Gordon Ramsey)の「キッチンナイトメアズ(Kitchen Nightmares)」などの番組ブランドのYouTubeチャンネルを放映するディズニーやヴィーヴォ(Vevo)、リトル・ドット・スタジオ(Little Dot Studios)などが該当するという。
「アプローチを変えるべき」
このような機会はこれまでもあったが、勢いはもっと緩やかだったとリトル・ドット・スタジオでデジタルメディア販売部門を統括するエリオット・バウム氏は言う。
「一般的にはこれが選択肢だとは考えられていないが、エージェンシーは少しずつその意味を理解しはじめている。ほかの企業は依然としてインフルエンサーに頼りだ。しかし、YouTube上でパブリッシャーのオーディエンスを直接買い取ることは、まさに広告主が行う必要のある中枢を成すものである。広告主はYouTubeへのアプローチ方法を変える必要がある」。