五大紙のなかで、圧倒的な販売部数を誇る読売新聞。しかし、デジタル施策については、やや立ち遅れた印象があった。そんな同紙が、昨春からの広告局の体制変更と、この4月に予定されている「大手小町」リニューアルによって、デジタル施策が本格化しているという。読売新聞東京本社の執行役員で広告局長の安部順一氏に話を伺った。
5大紙のなかで、圧倒的な販売部数を誇る読売新聞。直近の実績では月間890万超と、国内だけでなく世界一読まれる新聞となっている。また読売新聞グループは、日本テレビや中央公論新社など、多くのメディアやグループ企業を擁する日本有数のメディアコングロマリットだ。しかし、デジタル施策については、その他五大紙と比べて、やや影の薄い印象があった。
しかし昨春、多様化するクライアントの要望に応えるため読売新聞東京本社は、広告局の組織改編に踏み切る。広告の種類別で専任の担当者を立てていた従来の「広告商品別営業」から、ひとりの担当者があらゆるメディアを横断し、さまざまな広告メニューを組み合わせて提案する「広告主対応型営業」にしたのだ。これを同社では「ワンストップ営業体制」と呼ぶ。
そして、その後1年が経過し、今年18年目を迎えた女性サイト「大手小町」が全面リニューアルする。この4月から「OTEKOMACHI」とサイト名も新たに、「30代の働く女性」にターゲットを絞ったデジタルマガジンスタイルへ生まれ変わるのだ。また、その広告販売戦略も本紙サイトの先鞭として、デジタル時代に対応した「ワンストップ営業体制」のノウハウが遺憾なく注ぎ込まれるという。
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DIGIDAY[日本版]は、読売新聞東京本社の執行役員で広告局長の安部順一氏にインタビューを実施。「ワンストップ営業体制」の背景から、「OTEKOMACHI」の広告戦略まで、読売新聞のデジタルシフトについて話を聞いた。
◆ ◆ ◆
――はじめに、「ワンストップ営業体制」とはどういうものですか?
従来は、デジタルはデジタル、新聞は新聞と完全に社内で営業部隊が分かれていました。しかし昨今、クライアントからは総合的なソリューションの提案を求められるようになってきました。従来の営業体制ではお客さまがやりたいことに合わせていけないため、紙もデジタルも一緒に売っていくことになったのです。そのような営業局の新体制を「ワンストップ営業体制」と呼んでいます。
――新体制の構築は、大変な手間がかかったのでは?
まずは、新聞広告スタッフの意識変革が最優先だと思い、デジタル知識を身につけるための教育を行ってきました。さらに、営業局にデジタルに精通したメディアデザイン部(以下MD部)を設置し、商品開発やプランニングを行っています。
――MD部は具体的にどんなことをやっているのでしょう?
MD部にはデジタルに精通した専門の人間もいれば、従来の「別刷り広告」を専門としている人間もいます。ワンストップ営業といっても、すべての担当者がすべての分野に精通することはできないため、MD部のスタッフが最適な広告フォーマットを開発します。読売新聞のリソースを活用した新しい商品を開発する部隊と考えてもらえればいいと思います。それを営業スタッフが売るわけです。
たとえば、グループ企業である中央公論新社の中公ムックと新聞広告のパッケージや、読売日本交響楽団の会場でのサンプリング配布と新聞広告のパッケージがいい事例といえるでしょう。ここでは、もちろんデジタルと紙媒体とのパッケージも行います。なお、現在のMD部は15名で構成されています。

「OTEKOMACHI」のサイトデザイン
――「OTEKOMACHI」では、どのような広告戦略をお考えですか?
旧「大手小町」は、すでに18年近く運営してきていますが、2017年4月より、まったく違った見た目に生まれ変わります。スマートフォンファーストのデザインを取り入れ、デジタルマガジンに近いものを作ろうとしています。ターゲット層である、働く30代女性の生活に馴染み、受け入れてもらえるサイトにすることを考えています。
私は1年前まで、中央公論新社で総合月刊誌『中央公論』の編集長をしていたのですが、新聞を毎日作ることと、雑誌を作ることはまったく違います。新聞はニュースがメインのためコンテンツのテーマを事前に作り込むことはできません。ですが、雑誌の場合はある程度早くから、特集テーマを決めて作り込むことができます。
クライアントに引っ張られないで紙面を作っていくのが新聞の魅力。雑誌は、クライアントをより意識した誌面づくりになります。新しい「OTEKOMACHI」では、2〜3カ月先までのテーマを決め、クライアントの皆様にもお示ししていきます。ローンチは4月の予定ですが、すでにクライアントも数社決まっています。
――「OTEKOMACHI」では、ネイティブ広告も実施されるようですね。
ニューヨーク・タイムズの広告制作チーム「T-ブランドスタジオ」のような専門組織を広告局内に設けました。「クリエイティブチーム」と呼んでいます。このチームが中心となり、ネイティブ広告を制作していきます。
このチームの体制は、いまのところ記者出身のライター2名と新聞広告のデザイナー2名、さらに、編集局次長も務めた新聞編集の専門家1名です。新聞社という特性を活かし、元新聞記者をライターとして採用した、レベルの高いネイティブアドを展開できることが差別化になると思っています。
――「大手小町」の人気コーナー「発言小町」はどうなるのでしょう?
「発言小町」は、従来の特徴を踏襲して、少しだけ新しい要素を入れるだけに止めようと思っています。なぜなら、CGM(Consumer Generated Media)の要素が強い、ユーザーが自由に発言できる「発言小町」はその分、広告の入りにくい特徴があります。そのため、新しい「OTEKOMACHI」へのトラフィック流入元として、割り切ろうと思っています。

新営業体制の仕組みについて語る安部氏
――運用型広告はどのくらいの割合で運用しているのですか?
いまはデジタル収益の4割程度です。というのも、新聞社サイトの信頼性を損なわないために、かなり厳選して運用しているからです。ちなみに専門部隊がデジタルチェックを行っています。クローズドのマーケットプレイスは一部実施していますが、いまのところそこまでは大きくはありません。
――今後御社の広告ビジネスはどう変化していくのでしょう?
デジタルのマーケットはとても重要になっていますが、紙媒体の広告収益とは、まだ比べ物になりません。いままですくえなかった、デジタルだけのソリューションをもつことは重要ですが、ものすごくデジタル傾斜するところまでは行っていません。新聞広告もまだまだ伸ばしていかなければいけないのです。
昨年4月から、プラスになっている業種に出版と食品があります。新聞で広告を出して欲しいという出版社が多いのは、同じ活字メディアとして相性が良いからです。また、チョコレートなどの機能性表示食品は、CMよりも紙面でじっくりとその効果を説明する広告を打ちたいという要望が多い。
他新聞社はデジタル局を設けて完全に分業しているところもあるが、我々は一括にまとめることで、より広い商品を開発できる道を模索しようとしています。
▼安部順一
読売新聞東京本社 執行役員広告局長早稲田大学政治経済学部卒。1985年に読売新聞社入社後、経済部で大蔵省キャップや日銀キャップを務める。2014年に中央公論新社取締役 雑誌編集主幹兼中央公論編集長に就任。そして、2016年に現職の読売新聞東京本社 執行役員広告局長に就任している。著書に『東海の産業遺産を歩く』(2013年、風媒社、単著)、『メガチャイナ〜翻弄される世界、内なる矛盾』(2011年、中央公論新社、共著)など。
Written by 中島未知代、長田真
Interview by 長田真
Photo courtesy of 渡部幸和