アメリカの一部のローカルニュースパブリッシャーは、ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium:以下、LMC)が開発したある製品を使用して数的優位に立とうとしています。一問一答形式で解説していきます。
デジタル世界に到来するプライバシーの変化は非常に大きく、支配的な企業がライバル同士だけでなく外国の政府とも小競り合いをしているため、ローカルニュースのパブリッシャーが積極策に出るすべはないように見えるかもしれません。
しかし、アメリカの一部のローカルニュースパブリッシャーは、ローカル・メディア・コンソーシアム(Local Media Consortium:以下、LMC)が開発したある製品を使用して数的優位に立とうとしています。LMCはガネット(Gannett)、シアトル・タイムズ(Seattle Times)などの地方新聞社やテグナ(Tegna)のような放送局が加盟する戦略的パートナーシップ組織です。
LMCが開発した製品はニュースパスID(NewsPassID)というサインオン技術で、何千ものローカルニュースサイトの集合的なオーディエンスを活用できる広告ネットワークへと発展することが期待されています。
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以下、一問一答形式で解説していきます。
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──ニュースパスIDとは何ですか?
ほかのすべてのメディアと同様、ユーザーからより多くのファーストパーティーデータを収集しようと試みるローカルニュースパブリッシャーのために開発されたシングルサインオン技術です。ニュースパスIDを導入したパブリッシャーは収集したデータをデジタル広告だけでなくサブスクリプション戦略にも利用できます。登録ユーザーはサブスクリプションファネルに呼び込みやすいためです。
──つまり、サインオン技術ということですか?
その通りです。
──しかし、広告ネットワークでもあるのですか?
最終的にはそうなる予定です。ニュースパスIDは2021年第1四半期に試験段階に入ったばかりで、4つのパブリッシャーがいくつかのSSP(サプライサイドプラットフォーム)で統合テストを行っています。LMCはこの段階で、さまざまなサイトが単一IDに対応していること、オープンオークション環境でデータ漏えいがないことを確認する必要があります。
すべてが計画通りに進めば、第3四半期中にバイサイド技術との統合テストが始まる予定です。
理論的には、サインオン技術の成功は広告ネットワークの成功につながります。ニュースパスIDで識別された既知のユーザー数が増えるほど、バンドルして広告主に提供できるインプレッションも増えるためです。規模が大きくなれば、より多くの広告主が集まり、結果として需要が増えれば、パブリッシャーの売上も増え、その結果、さらに多くのパブリッシャーが集まるという流れです。
──すでにサインオンツールを導入しているパブリッシャーはどうなるのでしょう?
LMCが期待しているのは、そうしたパブリッシャーがニュースパスIDを使い、広告に関する同意を管理できるようになることです。あるオーディエンスメンバーがパーソナライズド広告に同意した場合、プライバシーに配慮した方法で、LMCの全会員で構成されるセグメントに追加できます。
──インベントリー(在庫)の価格は誰が設定するのですか?
各参加パブリッシャーがそれぞれのインベントリーの価格を設定することになります。
──広告主はコンテンツカテゴリーとしてのニュースに消極的ですが、この問題はどのように解決するのでしょう?
一部は解決できますが、すべてではありません。LMCがローカルニュースに対する広告主の認識について調査を依頼した結果、多くの広告バイヤーはローカルニュースのインベントリーを購入することに魅力を感じているものの、ローカルニュースにはスケールメリットがなく、バイヤーに言わせれば、しばしばデジタル知識や専門知識が不十分な人がインベントリーを販売しているため、取引をためらっていることが判明しました。最近のマクラッチー(McClatchy)とガネットのような提携が時折見られることを除けば、多数のローカルニュースパブリッシャーが提携することはほとんどありません。
もし参加パブリッシャーのオーディエンス増加に十分な勢いが付けば、スケールや知識の問題は解決するはずです。コムスコア(Comscore)によれば、LMCの月間ユニークユーザー数は1億9200万人で、オーディエンスの合計はNBCユニバーサル(NBCUniversal)やバイアコムCBS(ViacomCBS)、ハースト(Hearst)を上回っています。
──過去に結成されたパブリッシャーの広告アライアンスは失敗に終わっていますが、なぜこれは成功するのでしょう?
断言するのは時期尚早ですが、LMCの試みはパンゲア・アライアンス(Pangaea Alliance)、アリーナ(Arena)などの過去のアライアンスとは異なります。
ある意味では、個々のパブリッシャーの力不足が全体としての力になっています。全国規模の広告主のプログラマティック予算を獲得できるほど体力や専門知識がないため、参加パブリッシャーが直販を狙い、インベントリーの大部分を切り離したり、隠したりする可能性は低くなります。
さらに、(サードパーティCookie廃止といった)今後の変化は広告バイヤーの予算配分を混乱させる可能性が高いため、ニュースパスIDで結ばれた広告ネットワークは少なくともマーケターから見直されるはずです。
もちろん、スケールメリットがあればという条件付きですが。
[原文:WTF is NewsPassID?]
MAX WILLENS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)