テレビのリニアキャンペーンについては、もともと Ad-ID を使用していましたが、ストリーミングとデジタル動画については、その採用は進んでません。けれども、広告バイヤーもセラーも、テレビやストリーミング、デジタル動画からなる広告市場全体への出稿の管理に本腰を入れるようになったいま、こうした状況も変わりつつあります。
テレビとストリーミング、デジタル動画の一体化により、広告市場はさまざまな点で複雑になりました。そのなかのひとつが、テレビネットワーク、ストリーミングサービス、コネクテッドTV、デジタル動画プラットフォームおよびパブリッシャーといった、多方面に流されている広告の管理です。ある場所に流されている広告が、別の場所に流されている広告と同じであることを認識するのさえ、容易ではありません。
そこで登場したのが「Ad-ID(広告ID)」です。「再登場」といったほうが正確かもしれません。アメリカ広告業協会(American Association of Advertising Agencies)と全米広告主協会(Association of National Advertisers)がAd-IDを導入したのは、2002年7月のことでした。その目的は、単体の30秒CMといった広告アセットの分類法を標準化するためでした。
ところが、テレビのリニアキャンペーンについては、もともとAd-IDを使用していましたが、ストリーミングとデジタル動画については、その採用は遅々として進んでいません。けれども、広告バイヤーもセラーも、テレビやストリーミング、デジタル動画からなる広告市場全体への出稿の管理に本腰を入れるようになったいま、こうした状況も変わりつつあるようです。ストリーミングサービスを手がける某企業の幹部は、次のように語っています。
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「誰もが、Ad-ID標準と統合する方法を検討している。ひとつの広告が2度も3度も立て続けに表示されて、喜ぶ人なんていない」。
いつものQ&Aシリーズで解説していきましょう。
◆ ◆ ◆
──Ad-IDとはなんですか?
Ad-IDとは、広告資産のネーミングシステムのことです。これにより、それがテレビCMであれ、プリント広告であれ、バナー広告であれ、広告クリエイティブのそれぞれに統一識別子が添付されます。こうすれば、広告主も、その広告を配信するメディア企業とプラットフォームも、誰もが同じIDを使って、あるひとつの広告を指し示せるというわけです。Ad-IDを使ったほうが、広告主が出稿の仕方を管理するのも楽です。たとえば、ある特定の広告がさまざまなメディアプロパティに表示される回数に制限を加えることができますし、その広告が予定の終了日を過ぎて流されないようにすることもできます。
──Ad-IDの仕組みは?
広告主は、配信を予定している広告資産のそれぞれに独自のAd-IDを作成します。Ad-ID自体は11~12桁の文字列です。最初の4文字は各広告主に関連づけられており、その広告主のすべてのAd-IDに付加されます。12番目の文字はオプションで、その広告が高解像度(HD)なのか、3-Dなのかを示します(Ad-IDが導入された2000年代はじめは、まだHDが初期のころで、3-Dもいずれは普及することが見込まれていた時代でした)。
Ad-IDは広告資産を識別するだけではありません。そこには、その広告についての情報も含まれています。たとえば、広告主の名前、宣伝されている商品、出稿の開始日と終了日、カスタムフィールド(週に何度、各世帯がひとつの広告を目にする見込みなのか、など)といったような情報です。
メディア企業などは、Ad-IDシステムに接続すれば、Ad-IDや、対応する自社の情報にアクセスできます。それにアクセスすることによって、企業は広告主の広告の配信を管理できます。たとえば、ある広告をオーディエンスがさまざまなプロパティで目にする回数の追跡、広告主間のクリエイティブセパレーションの維持、ある特定の広告のパフォーマンスの評価、といったことができます。
──こうしたシステムは、まだ整備されていなかったのですか?
イエスでもあり、ノーでもあります。Ad-IDは20年ほど前から存在しています。そうした点では、これがそのためのシステムです。また、その前任に当たる「ISCI(Industry Standard Coding Identification)」が最初にロールアウトされたのは、1969年でした。しかし、それ以来、このシステムの採用は主に、ロウズ(Lowe’s)やハバス・メディア(Havas Media)といった広告主やエージェンシーに限られてきました。その目的は、広告資産ライブラリーの管理です。
そして、その登場から19年が経った今年7月、NBCユニバーサル(NBCUniversal)は広告プログラム「ワン・プラットフォーム(One Platform)」を介して、ストリーミングとデジタル動画のインベントリー(在庫)でAd-IDをサポートすると発表しました。そして、我々は「Ad-IDを採用する初の大手メディア企業だ」と宣言しました。
──遅れの原因は?
メディア企業にとってAd-IDの採用は、つい最近までは、そこまで急を要する優先事項ではなかったようです。Ad-IDのサポートの追加を検討している某テレビネットワークオーナーの幹部は、次のように語っています。「弊社もこのソリューションを採用したいのだが、現在の最優先事項は何なのかという問題もある。なかなか厳しく感じる。測定という課題もある。配信という課題も。良いコンテンツをつくるという課題もある。全体を見渡すと、なかなか厳しい現状だ」。
──では、何が変わったのですか?
テレビとストリーミング、デジタル動画の継続する一体化です。オーディエンスも広告費もストリーミングとデジタル動画へとどんどん流れ込むようになったいま、広告主があらゆる場所に広告を流す傾向はますます強まっています。ブランド、エージェンシー内の各チームがそれぞれ、たとえば、ソーシャルチームがYouTube広告を買い付け、テレビチームがコネクテッドTVのインベントリーを買い付けるといった具合に広告枠の買い付けの各部を担当していても不思議ではありません。また、ストリーミングの広告枠を販売できる業者の顔ぶれも、テレビネットワーク、ストリーミングサービス、CTVプラットフォームオーナー、アドテク企業……と多岐に渡ります。
この複雑なエコシステムにより、広告主による出稿管理は今後さらに難しくなっていくかもしれません。そして、この課題に対処するために何年も前に考案されたのが、このAd-IDなのです。
[原文:WTF is Ad-ID?]
TIM PETERSON(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)