米国のテレビ業界は、ATSC3.0と呼ばれる新しい放送規格を使用する独自の方法でネット配信動画に対応しようとしています。デジタルマーケティングにおける新語をわかりやすく解説する一問一答シリーズ。今回は、このATSC3.0がどのようなことを意味するかを詳しく見ていきます。
テレビストリーミングサービスでは、たいていの場合、NBCやFOXの系列局などのローカルテレビ局のコンテンツは放送されていません。また、スリングTV(Sling TV)のようなサービスでは、いろいろなマーケティングを実施できるものの、逆にそれはローカルテレビ局では実施できません。
いま、視聴者がネット配信動画に軸足を移していくことが原因となって、テレビ局やテレビ局のオーナーたちは、倒産の危機に面しています。そこで、彼らは現在、ATSC3.0と呼ばれる新しい放送規格を使用する独自の方法でネット配信動画に対応しようとしています。ATSC3.0を使用すると、視聴者は自身のスマートフォンを用いて無料でローカル局のチャンネルをストリーミング視聴でき、ローカルテレビ局もターゲティング広告を活用できるようになるのです。
デジタルマーケティングにおける新語をわかりやすく解説する一問一答シリーズ。今回は、このATSC3.0がどのようなことを意味するかを詳しく見ていきます。
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――なにはともあれ、ATSC3.0ってなんですか?
ATSC3.0とは、ローカルテレビ局のチャンネルをケーブル放送受信契約あるいは衛星放送受信契約を結ばなくても配信できる新しい放送規格です。ATSC3.0は、視聴者が通常のテレビ画面のほかに、スマートフォンやノートパソコン、タブレット端末、クルマのなかでさえ、これらのチャンネルを視聴できるようにします。
――なるほど。では、その仕組みは?
テレビやスマートフォン、ノートパソコン、タブレット端末、クルマなど、基本的に画面が付属するものを製造している企業が、専用のチップをそれらの製品に組み込む形になります。
――ということは、新しいテレビを入手する必要がある?
もしくは、スマートフォン、あるいはクルマですね。製品が何であれ、現在出回っているものは対応していません。今後対応される新しいデバイスを購入するか、あるいはATSC3.0に準拠した、テレビ向けのドングルを購入することが条件になります。
――スマートフォンで利用する場合の仕組みは?
ATSC3.0を使用すると、ローカルテレビ局は、無線信号を利用しなくてもスマートフォン搭載のチップを用いて放送ができるようになります。無線通信を利用した場合、大きなデータ通信量を要することになり、無線通信料金は跳ね上がる可能性がありますね。ATSC3.0は、リスナーがデータ制限に妨げられずにラジオを聴けるようにスマートフォンにFMラジオチューナーを組み込むようなものです。広告やインタラクティブ広告のようないくつかのコンテンツはインターネットを介して配信されますが、それほど容量を要さないコンテンツだけに制限されることになりそうだと、シンクレアブロードキャストグループ(Sinclair Broadcast Group)のCEO、クリス・リプレイ氏は説明します。彼は、ATSC3.0は「OTA(従来型のテレビ放送)とOTT(ブロードバンドインターネットを使ったテレビ放送)が一緒になったようなものだ」と述べています。
――なぜ広告はインターネットを介して配信されるのでしょう?
ターゲティングのためです。ATSC3.0を用いることで、テレビ局は視聴者が視聴しているものを追跡でき、どの広告を視聴者に対して表示するかを決定する材料として考慮できます。この情報は、視聴者が郵便番号のレベルまでで、どこで視聴しているかのような別の情報とまとめられることで、テレビ局やそのような情報を多く保有しているシンクレアブロードキャストグループのような企業がターゲティング広告を活用し、ターゲティング広告以外の広告を活用する場合と比べて割のいい料金を通常、課金できるようになります。
――広告を閲覧したら知られるのですか?
知られることになりますね。「ATSC3.0を利用すると、すべてが計測対象になる。誰がどの番組や広告を見たかが正確に把握される」と、コンサルティング会社、TVRevの共同創業者兼リードアナリストであるアラン・ウォルク氏は言う。
――これは、儲かりそうですね。
そのとおりです。だからこそ、シンクレアなどの企業がATSC3.0を広めようと躍起になっているのです。
――サービスの展開はいつになるか?
サービスは連邦通信委員会(Federal Communications Commission)によってすでに承認されており、フェニックスやダラスで試験運用中です。ローカルテレビ局のオーナーのグループは、2020年までにATSC3.0に対応する予定だと言っています。しかし、これは提供されることになるサービス計画のほんの一部にすぎません。
――そのほかの部分とは?
ATSC3.0を搭載した製品を購入する顧客です。彼らは、そのような製品を製造しているAppleのような企業によって影響を受けます。サムスン(Samsung)やLGは、すでにATSC3.0に対応したテレビを開発済みですし、シンクレアが投資している、モバイル製品向けのATSC3.0のチップは、2019年1月のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(Consumer Electronics Show)までには準備される予定だと、リプレイ氏は語ります。
――コードカッター(ケーブル/衛星テレビを解約するユーザー)が欲しがるのでは?
おそらくそうでしょうね。ケーブル放送受信契約あるいは衛星放送受信契約の解約を検討している顧客はそうなると思います。「今後の予想を述べるとしたら、コードカッターが増えるはずだ」と、ウォルク氏は語ります。ですが、どの程度かは誰にも分からないようです。