ソーシャルメディアを得意分野とするパブリッシャーであるユニラッドの凋落は、米国のリトルシングズ(LittleThings)の運営停止とあわせて、資金調達の問題とオーディエンス獲得をFacebookに過度に依存することの危険性を端的に示している。
現在から1年半以上前となる2017年1月、ロンドンのカムデンタウンにあるセレブの社交場、ギルガメッシュでユニラッド(Unilad)の共同創設者2人が、フォーブス(Forbes)による30アンダー30リスト(30 Under 30 list)へのノミネートを祝っていた。バビロニアをテーマにした50mの長さのバーに集まったゲストたちに向けて、ふたりは若い世代が好むFacebook動画をフィードする機能を紹介した。
それよりさらに半年前となる2016年に同社の共同創設者のひとりであるサム・ベントレー氏は、「ユニラッドはやがてFacebook上で歴史上最大のパブリッシャーになるだろう。考えるべきはそこから何をするかだ」と、フォーブスに対して語っていた。
そんなユニラッドの将来にはいま、暗雲が立ち込めている。英国の歳入関税庁は9月第4週、ユニラッドが破産手続きに移行するおそれがあると告知した。同社には同じ週に、高等裁判所で聴聞が行われる見込みだという。こうした告知は基本的に、企業が税金を支払っておらず、支払能力が疑問視される場合に行われる。ユニラッドの広報担当は「歳入関税庁に関する件は、迅速に解決に向かいつつある」とコメントしているものの、同社の経営状態に対する質問への回答は得られなかった。
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ソーシャルメディアを得意分野とするパブリッシャーであるユニラッドの凋落は、米国のリトルシングズ(LittleThings)の運営停止とあわせて、資金調達の問題とオーディエンス獲得をFacebookに過度に依存することの危険性を端的に示している。昨年夏、裁判所はユニラッドに対し、同社の33%の株式を元オーナーに譲渡するよう言い渡した。
バイラルとUGCで成功
ユニラッドは2010年に大学のFacebookページから生まれ、2年の閉鎖を経て2014年にベントレー氏とリアム・ハリントン氏が再び立ち上げた。同社は調査会社のニュースウィップ(NewsWhip)によるFacebookパブリッシャーランキングで世界4位に格付けされたほか、メディア調査会社のチューブラー・ラボ(Tubular Labs)によると、今夏の時点でメディアのプラットフォームとしての閲覧数はトップ5に入るという。それを支えているのが同社のバイラル動画とユーザー生成コンテンツへの理解の深さだ。同社は徹底的に数字を重視することで、Facebook上で少ないリソースで高い閲覧数を獲得している。ユニラッドは公開した動画が30分以内に目標の数値を達成できなければ、その動画を削除してしまうのだ。
動画の閲覧数が伸びるにつれてユニラッドも成長していった。ベントレー氏とハリントン氏がフォーブス30アンダー30に名を連ねたときには、同社はオフィスをマンチェスターとロンドンに構え、100人の社員を抱えていた。
ユニラッドは若い男性向けの軽妙なジョークコンテンツに交えて、メンタルヘルスや男性の自殺、ホームレスなど、より深刻な話題にも挑戦してきた。「まるで麻薬体験みたいな子供向け番組」や「あなたの父親が現代文化について分かってないこと」といったコンテンツの横に、若者に選挙への投票を呼びかける記事や、住宅危機に関する記事が並ぶ。閲覧数が高いからといって収益に結びつくわけではない。ユニラッドがFacebookから直接得ていた収益は少ない(英国のパブリッシャーがFacebookの収益共有プログラムに参加するのは容易ではないため、Facebookへの収益依存度は低くなる傾向にある)。
Facebook依存と自壊
Facebookに依存しているほかのパブリッシャーと同様に、ユニラッドもまたFacebookの恩恵を受け続けるため、同社のアルゴリズムに適応した。Facebookはこの1年、ユーザーの投稿をより重視するようにアルゴリズムに変更を加えてきた。これはパブリッシャーにとっては悪影響だが、ハリントン氏は米DIGIDAYに対してユニラッドはスポーツやゲーム、フィットネス、そしてとりわけアドベンチャーのカテゴリーの小規模な記事においてFacebookで高いエンゲージメントを保っていると語った。それでもFacebookが所有するクラウドタングル(CrowdTangle)のデータによると、今年はじめはFacebookでのインタラクション数は減少している。
だがメディア企業がFacebook以外のプラットフォームへの多角化と、eコマースのような収益源の確保を進めるなかで、ユニラッドは少なくとも見かけ上はFacebookに相対的に大きく依存したままだった。同社はスポーツ配信やイベントへのスポンサー確保を狙い、ライブストリーミング配信に力を注いでいた。そして2016年には総合格闘技のオンライン配信で成功を収めたほか、キャドバリー(Cadbury)やワーナー・ブラザース(Warner Bros.)、ポーカースターズ(Pokerstars)、ライオンズゲート(Lionsgate)といったブランド各社のブランドコンテンツを獲得している。ブランドコンテンツはパブリッシャーにとって高収益になりうる一方で、多数のパブリッシャーが参加しておりマージンが低く、エージェンシーとの関係性を築くのにも時間がかかる。
さらにユニラッドに打撃を与えたのが、匿名の元社員が立ち上げた「ユニラッド・エクスポーズド(Unilad Exposed)」というサイトだ。同サイトではユニラッド社内における不正行為や薬物使用などの問題が告発されており、同社は広告バイヤーに対して社内調査を行っていることを伝え、ベントレー氏は6月に辞職した。
ほかの若い男性向けのパブリッシャーは、ブランドとしての安全性を重視する広告主に対してユニラッドよりも大々的なアピールを行っている。ラッドバイブル(Ladbible)は社会責任キャンペーンの「トラッシュアイルズ(Trash Isles)」を展開し、カンヌライオンズでグランプリを獲得した。さらに同社は映画のレーティングに似たコンテンツランキングシステムを導入し、ブランドが隣に表示するコンテンツをリスクの高さから選べるようにしている。
ふたつに分かれる評価
メディアのバイヤーによるユニラッドへの評価はふたつに分かれている。匿名のバイヤーによると、ラッドバイブルやViceのようなほかの若者向けのパブリッシャーはもっと営業に熱心だが、ユニラッドは自社のやっていることを説明するためにエージェンシーを訪れたことがないという。
一方、メディアエージェンシーのマレンロウ・メディアハブ(MullenLowe Mediahub)でイギリスのマネージングディレクターを務めるディノ・マイヤーズ・ランプティ氏はユニラッドとの業務を続けており、内容にも満足していると語る。
「ユニラッドのビジネスモデルの良さは、彼らが高いエンゲージメントと注目を集めるユーザー生成コンテンツの編集者とパブリッシャーであり続けていることだ」と、ランプティ氏は指摘する。「この分野は競争が激しいが、やり方が上手い。流行の兆しをよく分析しており、オーディエンスが求めているものや、閲覧数が稼げるコンテンツを迅速に提供している」。
ユニラッドの不安定なビジネスモデルに加えて、元創設者であるアレックス・パートリッジ氏も同社の財政面での負担となっている。昨年夏、裁判所はユニラッドに対してパートリッジ氏に同社の資産の33%の譲渡を命じ、それに伴い同社は資金を調達するか身売りするほかなくなった。その時点で買い手は2000万ポンド(約29億円)から4000万ポンド(約58億円)を支払う用意があると報じられた。
「不吉な前触れだ」
ユニラッドはいまでも市場で確固たる地位にあるが、ビジネスモデルには欠陥があると指摘するのが、個人メディアアナリストのアレックス・デグルート氏だ。同氏は、ユニラッドが売却されて、新しいオーナーのもとで資産を活用するだろうと予測している。
「ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)のプラットフォームに依存しているパブリッシャーの多数が、事業を自社で制御しきれない状況に陥っている。ユニラッドには大きな支持者がおらず、そこに社内での醜聞や争いが生じれば変化して乗り切るのは容易ではない」と、同氏は分析し、次のように語った。「今回の件は、より広範な問題を象徴しているともいえる。これは動画の再販売を行うローエンドの、大きなUSP(独自の販売条件)を持たない企業にとっての不吉な前触れだ」。
LUCINDA SOUTHERN(原文 / 訳:SI Japan)