不確実な市場でマーケターをサポートすべく、WSJはブランデッドコンテンツを迅速に展開することができるプロダクト開発に取り組んでいる。これまでの同社のコンテンツリューションはゼロからオーダーメイドで作り上げるものだったが、新商品群はそうした同社のフィロソフィーを曲げてでも「迅速」で「即応性」を高めている。
ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal:以下WSJ)は、ブランデッドコンテンツキャンペーンを迅速に展開できる新プロダクトの開発に取り組んでいる。これにより、マーケティング担当者が急速な変化に対応できるよう支援しようと考えているのだ。
この半年、パブリッシャーや広告主は、先行き不透明な環境下でも消費者とのつながりを維持するため、限られた予算のなかでなんとか業務の進め方やコンテンツ制作を工夫してきた。
コロナ禍以前、WSJのコンテンツスタジオであるトラスト(The Trust)は、カスタムコンテンツキャンペーンの契約からキャンペーン開始までを通常およそ8週間で実施してきた。だが同社のCRO(Chief Revenue Officer)のジョシュ・スティンチコム氏によると、現在その期間は半分の4週間にまで短縮されているという。また、同氏が8月に米DIGIDAYの取材に語ったところによればクライアント側からのカスタムコンテンツ提案が増えており、成約した案件数は17%、更新率は38%増加している。
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「現在、我々は自分たちのフィロソフィーに照らしあわせ、パートナーシップのあり方を見直しつつある。これは非常に困難で挑戦的な試みだ」とスティンチコム氏は語る。「世界が急速に変化し、迅速に行動することがかつてないほど重要になっている。この状況下で、我々は必要不可欠な存在になるため価値を示さなければならないし、ときには方針転換すら厭わず、長期的な視点で準備を進めていくつもりだ」。
コンテンツのテンプレを提供
WSJは8月、移動制限やロックダウンによって高コストな動画撮影などが難しいなかで、マーケターのより迅速なキャンペーン展開を支援するさまざまなツールを導入した。そのひとつが、複雑な情報を素早く伝えるために設計されたシグネチャーシリーズ(Signature Series)という4つのコンテンツテンプレートだ。
なかでも人気のテンプレート「ブリーフィング(The Briefing)」では、動画や写真の画面にテキストとBGMを差し込む内容となっている。WSJはこのテンプレートをクライアントであるエコラボ(Ecolab)に販売した。同社はこのテンプレートを食品や医療関連施設における徹底した洗浄と消毒、監査プロセスを提供する「エコラボ科学認定(Ecolab Science Certified)プログラム」のPRに利用している。また、別のテンプレート「サウンドバイツ(Sound Bytes)」は静止画や動画に音声を追加するためのものだ。ほかにもデータの可視化を支援する「スマートチャート(Smart Charts)」、イラスト動画とナレーションの「Bスクール(B-School)」といったテンプレートが用意されている。
同社はこれらのテンプレートの料金については明かしておらず、売れ行きについても現段階ではコメントしていないが、すでに何十件もの契約の申し出を受けているという。これまでのWSJのカスタムコンテンツリューションは、ゼロからオーダーメイドで作り上げるものだった。
次々にプロダクトをローンチ
トラストで編集長を務めるフィリパ・ライトン・ジョーンズ氏は、「現在の危機とかつてない不確実性のなかで重要なのは、クライアントとのより密度の高いコミュニケーションと、啓発的なソリューションの提供だ」と語る。「コンサルタントのようにクライアントと緊密に協力し、Cクラスレベルのオーディエンスからより深い情報を引き出すためのソリューションを開発した」。
それが「インサイト(InSite)」というツールだ。インサイトにはマーケターが購入可能なファーストパーティのオーディエンスセグメントが50種類用意されている。たとえば、クライアントは財務アドバイザーやCEOをターゲットとし、彼らを含むオーディエンスグループが過去1カ月間に閲覧したものを記事やテーマ、キーワード、フォーマット、時刻といったパラメーターで分類し、把握することができる。そして、財務アドバイザーやCEOが関心を持っている話題を特定し、コンテンツをカスタマイズするのだ。
インサイトはこうしたデータをパッケージ化して、クライアントが自分たちの選択にあわせて利用できる形で提供する。これまでも、特定の記事データを解析することで似たデータは得られたが、当然ながら時間がかかる作業だった。
メディアエージェンシーであるスパークファウンドリー(Spark Foundry)のコンテンツ部門グローバル責任者を務めるアリソン・タイレル氏は、最近トラストとともに全4章で構成されるデータドリブンなソートリーダーシップに関するコンテンツを制作した。ブランド専門家への協力依頼やインタビューの実施、データポイントの照合などで4週間を費やしたという。「プロジェクトが時間の余裕なしに必要とされる場合がある。重要なプロジェクトで、品質は犠牲にできない。そういったプロジェクトでは、オーディエンスへのアクセスの速さと、極めて順調に機能している制作チームなくして成功はありえない」。
さらに、WSJは6月に実施したオンライン広告の先行販売において、デロイト(Deloitte)などのクライアントが迅速にコンテンツを展開できるよう支援するプロダクト「トラストダイレクト(Trust Direct)」も発表している。このプロダクトはコンテンツを展開する前にトラストの編集者が24時間の事実確認プロセスを実施するもので、コンテンツの編集に関する提案も受けることができる。
B2Bの状況は良好
コロナ禍において、「迅速」という言葉は新たな意味合いを帯びるようになった。これはニュースという速報性が重要なコンテンツを提供するニュース系パブリッシャーにとって、雑誌やテレビ局以上に重要な概念だ。一部のB2C広告主はより迅速なキャンペーン展開を求めているが、これは小規模なコンテンツを通常より安価に作り上げなければいけないことを意味する。
WSJのオンライン広告事業にとって、B2Bの広告主は中核的存在だ。米国市場全体で見るとB2B企業からの広告収益はB2C企業からのものより少ない。しかし、コロナ禍により外出が減っている現状では、より状況がよいのは前者だ。eマーケター(eMarketer)のデータによれば、B2B広告主による今年のオンライン広告支出は81億4000万ドル(約8470億円)で、66億4000万ドル(約6900億円)だった2019年から22.6%増加している。
ネイティブ広告プラットフォームのポーラー(Polar)でCEOを務めるカナル・グプタ氏は、B2B分野のパブリッシャーは、全体として業務の量は減っているものの、パンデミックの影響下においても安定していると語る。「当社のB2Bパブリッシャーのクライアントは、パンデミックが始まった当時は収益減を予想していたが、当社のプラットフォーム上では横ばいとなっており、減少はしていない」。
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)