マインクラフト(Minecraft)やロブロックス(Roblox)などの「プロト・メタバース(Proto-Metaverse)」と呼ばれるプラットフォームは、白人の男性ティーンエージャーたちの世界として認識されている。関連企業たちは、現実世界の多様性を反映させるための対策を講じている。
社会でメタバースへの注目が集まるにつれ、関連企業たちは、現実世界の多様性を反映させるための対策を講じている。
マインクラフト(Minecraft)やロブロックス(Roblox)などの「プロト・メタバース(Proto-Metaverse)」と呼ばれるプラットフォームは、白人の男性ティーンエージャーたちの世界として認識されている。
しかし、ゲームコミュニティのユーザー層が拡大するにつれて、その実態は変化しつつある。「たとえばロブロックスのユーザー構成を見ると、一般の人のゲーマーに対して抱くイメージよりもはるかに多様だ」と、インモータルズ・ゲーミング・クラブ(Immortals Gaming Club)の元最高デジタル責任者である、タル・シャチャール氏は強調する。「そのためこれらのプラットフォームのユーザー構成も、人々が『フォートナイト層(Fortnite demographic)』と聞いて思い浮かべるものよりも、はるかに多様性に富んでいる」。
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ゲーム業界における多様性の現実
しかし、多様性が存在することは、人種・国籍・性別といった観点でさまざまなアイデンティティを持つ人々が、平等性が担保されていることを意味しない。
ゲームの世界における差別問題は歴史的なもので、これまでも女性や人種的マイノリティのゲームコミュニティへの本格参加を妨げてきた。「(差別を行う側の意識には)これは私たちの世界であって、彼らのためのものではないという認識があるようだ」と語るのは、ABFクリエイティブ(ABF Creative)の黒人スタッフ、アンソニー・フレイザー氏だ。ABFクリエイティブは、最先端をいく黒人ゲームデザイナーのジェリー・ローソン氏に関するポッドキャストを制作している。
「私たちは、『ゲームを楽しんでいるという理由だけで』、嫌な思いをした」。
現実世界のアイデンティティからの解放
もちろん、メタバースに携わっている企業のなかには、ゲーム業界における多様性の問題を理解しているところもある。彼らは、こうした問題に対処することが、メタバースの住人たちと、そこから利益を得ようとしている企業の両方にとってのメリットを生み出すと信じている。メタバースに関心を持つベンチャーキャピタルファンド、ビットクラフト・ベンチャーズ(BITKRAFT Ventures)のパートナー、セバスチャン・パーク氏によると、メタバースが持つ「ユーザー生成型の性質」は、マイノリティのユーザーが、企業に頼らずに自分を表現できることを意味するという。「従来のゲームでは企業に多様性の表現が求められるが、メタバースでは、ユーザーがクールだと思うものを自分で創り出すことができる」。
パーク氏はその例として、16歳のある女性ロブロックス・プレーヤーの作品が、数十万ドル(数千万円)の利益を生み出した事例を挙げた。そこに社会的な抑圧はなかった。彼女はただ、「『私はこれをやってみたい』と思っただけなのだ」とパーク氏は述べる。
実際、現実世界で自らのアイデンティティを形成する要素のうちいくつかは、仮想世界では意味をなさなくなる、とパーク氏は述べる。メタバースでは、生まれたときに与えられた性別や肌の色で人を判断することは不可能だろう。パーク氏は、「自分のアイデンティティが、先天的で変えることのできない条件に縛られなくなったのはとてもクールだ」と話す。
あらゆる人々が参加できるように
このように、メタバースには社会から取り残された人々をサポートする素地がある。しかしにもかかわらず、メタバースになる得る可能性のあるプラットフォームでは、女性やマイノリティの人々への尊厳が担保されていないという声も訊かれる。メタバース関連の投資ファンドであるリパブリック・レルム(Republic Realm)の代表、ジャニーン・ヨリオ氏は、メタバースのユーザーの幅を広げることは、既存のユーザーにとっても有益だろうと述べている。
またヨリオ氏は、メタバースが現実世界を仮想的に反映したものになるためには、その人口動態も、現実世界の人口動態を反映したものでなければならないと強調する。そうでなければ、本物の仮想世界とはいえない。それは、(仮想世界ではなく)、インタラクティブなビデオゲームに過ぎないというのが、同氏の主張だ。
さらに、「もし白人男性が白人男性のために作ったような世界なら、それは的外れなものになってしまう」とヨリオ氏は付け加える。「メタバースは、高齢者も含めてさまざまな人々のために存在しなければならない。ビジョンが現実のものとなるためには、あらゆる人々が皆そこに参加できるようにしなければならない」。
ALEXANDER LEE(翻訳:塚本 紺、編集:村上莞)