パブリッシャーの多くは何年も前から、いまや遺物と化したプリントビジネスへの依存度の低減(とコストの削減)を試みてきた。しかしその一方で、新型コロナウイルスのまん延によって、プリントビジネス再活用の小さな窓も開かれてきた。
アメリカ人は今後さらに数カ月間、新型コロナウイルスの影響による隔離生活を自宅で強いられる。そのことがわかっているパブリッシャーのなかには、正攻法で読者に向き合い、売上を伸ばそうとしている企業もある。
ロサンゼルス・タイムズ(The Los Angeles Times)は過去数カ月にわたり、D2C(Direct-to-Consumer)ブランドにフォーカスするメディアエージェンシーに向けて、ダイレクトメール(以下、DM)やカスタムパブリッシングキャンペーンを盛んに売り込んできた。テキサス・マンスリー(Texas Monthly)は1月、自社のカスタムパブリッシング部門を再開し、アメリカ国内広告主向けの多種多様なサービスの一環として、DMとカスタムパブリッシングを提供している。グループ・ナイン・メディア(Group Nine Media)は、売上と価値を段階的に高める新たな手法の発見に力を注いでいる。たとえば、自社が手がけるサービス「ボックスド(Box’d)」やニューヨークシティで新規展開されるフードデリバリー事業を介して配達されるプロダクトサンプリングやブランデッドボックスなどだ。
パブリッシャーの多くは何年も前から、いまや遺物と化したプリントビジネスへの依存度の低減(とコストの削減)を試みてきた。しかしその一方で、新型コロナウイルスのまん延によって、プリントビジネス再活用の小さな窓も開かれてきた。
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「ロサンゼルス・タイムズの各レガシー部門には、プラス効果のポテンシャルがまだまだ眠っていると、私は思っている」と同紙の最高売上責任者、ジョシュア・ブランダウ氏は語る。「コロナ禍を通じて、ロサンゼルス・タイムズはDMビジネスを活用するチャンスに恵まれてきた。(DMなら)読者がいま実際にいる場所で、彼らにリーチできるからだ」。
DMが提供する魅力的な基盤
とはいえ、そこには一定のバランスが必要になってくる。広告主の期待に応えることと、重要度が高い顧客層にDMを送ることの狭間で、うまくバランスを取らなければならない。
DMのうわべを高く評価するマーケターなど、ほとんどいないだろう。ところが近年、DMを見直す動きが各所で見られるようになってきた。なかでも熱い視線を注いでいるのが、FacebookやGoogleにとらわれることなく、メディア支出の多角化を目指しているD2Cブランドたちだ。
チャネルとしてのDMには、さまざまな課題がある。たとえば、デジタル広告のほぼ即時のフィードバックと比較すれば、そのレスポンスタイムはとてつもなく長い。だがその一方で、DMは非常に魅力的な基盤も提供してくれる。
「DMのレスポンスレートは常に0.5~1.5%だ」と、ブランダウ氏は語る。「ほとんどのデジタルキャンペーンよりも高いレスポンスレートだ」。
新型コロナウイルスが全米に広がり、人々が自宅にこもるようになると、広告主の優先順位や戦略もすぐに変わった。
メディアエージェンシーのフォワードPMX(ForwardPMX)でアカウントディレクターを務めるジャスティン・ブロンス氏は、多くの広告主がDMをはじめて試すようになったと話す。そして、DMチャネルに確立されたプログラムを持つクライアントは、2020年に優れた業績をあげたという。「昨年は、こうしたクライアントのすべてが(DMによる)20~25%の売上増を達成している」と、ブロンス氏は語る。
機を見るに敏なパブリッシャー
パブリッシャーもまた、この状況に即した反応を示した。店舗の閉鎖により、ビューティーブランドの多くが頼りにする店内サンプリングも実施できなくなった。これを受けてマリ・クレール(Marie Claire)は、1年以内に万単位の登録者を獲得することを期待して、DMによるサンプリング事業を開始した。
すでにグッズの郵送を行なっているパブリッシャーにとっては、サンプリングの追加は、それほど難しいことではない。たとえばグループ・ナインは、ボックスド(グループ・ナインがポップシュガー[Popsugar]を買収する前に「マスト・ハブ・ウィズ・ポップシュガー[Must Have with Popsugar]」としてはじまったプログラム)を介して、さまざまな製品が詰まったブランデッドパッケージを読者に送っている。同社はまた、昨年12月にスリリスト(Thrillist)からローンチしたゴーストキッチンを活用して、この方向へのさらなる事業拡大も検討している。
「グループ・ナイン・メディアでは、我々が消費者に与えられる付加価値について、盛んに検討されるようになっている」と、同社の最高売上責任者を務めるジェフ・シラー氏は語る。「たとえば、食事で汚れたときのためのオキシクリーンもそうだ」。
しかし、パブリッシャーがオーディエンス全体の辟易を警戒するとき、彼らがとりわけ守ろうとするのはサブスクライバーだ。
「テキサス・マンスリーには、3つの中核となる事業目標がある」と、同誌のプレジデントを務めるスコット・ブラウン氏は語る。「1つ目は、最高の雑誌をつくること。2つ目は、それを求める読者を増やすこと。そして3つ目は、財務面の目標だ。こうしたオーディエンスは極めて重要な存在だと、我々は考えている」。
近い将来、この選択肢があるパブリッシャーは、メディアやコンテンツ、バーチャルイベントなども盛り込んだ大型契約のなかに、DMを織り込もうとするかもしれない。
エージェンシーは好意的な態度
ブロンス氏によれば、パブリッシャーはこれまで、エージェンシーに対してこの種のオファーをしてこなかったという。それを試すパブリッシャーが増えるのは喜ばしいことだと、同氏は話す。
「できることなら、我々もこうしたことをしたいと思っている」と、ブロンス氏は語る。「そうすることで、このプログラムやその仕組みについての深い洞察が得られる。DMの専門知識があれば、業績を改善するにはどうすればいいかもわかるようになるはずだ」。
[原文:With America still on lockdown, publishers lean into direct mail]
MAX WILLENS(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)