ワイアードメディアグループ(Wired Media Group)は、つねにテクノロジーの最先端にいたいエグゼクティブ向けのメンバーシッププログラムを発足。その「エマージング・テック・カウンシル(Emerging Tech Council)」に入会するには、年会費4000ドル(約40万円)が必要となる。
パブリッシャーは新たな収入源を求めて、サブスクリプションプログラムやイベントシリーズを立ち上げてきた。そうしたなか、さらに一歩先へ進んだのが、コンデナスト(Conde Nast)傘下のワイアードメディアグループ(Wired Media Group)だ。
「ワイアード(Wired)」「アルステクニカ(Ars Technica)」「バックチャネル(Backchannel)」を運営する同グループは、つねにテクノロジーの最先端にいたいエグゼクティブ向けのメンバーシッププログラムを発足。年会費4000ドル(約40万円)の「エマージング・テック・カウンシル(Emerging Tech Council)」に入会すると、会員は(最大4人の同僚とともに)対面式のミーティングやバーチャルイベントに参加して、テック系スタートアップのプレゼンを聞いたり、オンラインコミュニティに参加したり、ニュースレター(ほぼ月刊)を受け取ったりできる。2017年1月に開催される最初のイベントでは、人工知能と機械学習をテーマに、アルステクニカの創設者であり編集長のケン・フィッシャー氏を迎えてバーチャル討論を行う予定だ。
「頂点にいる人々」が訴求対象
ほかのパブリッシャーの場合、読者から収益を生む取り組みは、大衆を対象とする傾向がある。それに対し、ワイアードメディアグループのプログラムは、訴求対象を意図的に絞り込んだものになる。コンテンツは経営幹部向けに特化しているし、高額な会費を妥当だと思える人は限られるだろう。
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ワイアードメディアグループの最高売上責任者(CRO)を務めるキム・ケルハー氏によると、プログラムの目的は、これまで「ワイアード」のイベントや「バックチャネル」の記事公開後に長く続く読者コメントのやりとりを通じてグループが培ってきたエンゲージメントを、さらに発展させることだという。「すでに習慣化しているものを発展させる形でなければならない」と、ケルハー氏は語る。「トップクラスの影響力を持つブランドなら、ピラミッドの頂点にいる人々と深く関わる機会を得られる」。
ワイアードメディアグループはこのプログラムで、新興企業のトラクションテクノロジーパートナーズ(Traction Technology Partners)と提携。同社の共同創業者エリック・ショーンフェルド氏とニール・シルバーマン氏は、テクノロジーカンファレンスの「デモ(Demo)」や「テッククランチ」主催のイベント「ディスラプト(Disrupt)」のプロデュースを手掛けている。「テッククランチ」の元編集者でもあるショーンフェルド氏は、カンファレンスの主催者がイベントとイベントのあいだの期間、参加者らとのつながりを保つのに苦労していたことから、このアイデアを得たという。
年間目標はわずか100人の登録
「イベントは皆が集まる場のスナップショットになりがちだ」と、ショーンフェルド氏は指摘する。「主催者の視点でみると、毎回ゼロからつくりだすことになる」。
彼が考案したのは、業界カンファレンスに経営者会合をかけあわせたモデルだ。これに似たメンバーシップ制度を「ナショナルジャーナル(National Journal)」も提供している。料金は団体規模により5000~5万ドル(約50万〜500万円)、内容は特化した調査とツール群、それにネットワーキングを加えたイベントとなっている。「スレート(Slate)」の「スレートプラス(Slate Plus)」プログラムは、年間35ドル(約3500円)で特別記事やイベントにアクセスできるというもの。「インフォメーション(The Information)」の年間399ドル(約4万円)のメンバーシップ制度には、コミュニティ参加などの特典がある。
ワイアードメディアグループのプログラムの場合、対象オーディエンスは、どの業界にいるかにかかわらず、技術トレンドを先取りする必要がある経営幹部だ。プログラムのバーチャルな部分については、規模を拡大することも理論上可能だが、同グループの目標は年間わずか100人の登録だ。「意図的にごく限られた人数に絞っている」と、ケルハー氏は明かす。
このプログラムの落とし穴
このようなプログラムには落とし穴もある。「ワイアード」誌がイベントを主催するのは、これがはじめてではない。「ワイアードビジネスカンファレンス」を長年開催してきた。しかし、イベントには苦労が伴う場合もある。首尾よく運営するのは難しい。成功するかどうかは編集スタッフの関与に左右されるが、彼らはプログラムへの協力という追加の重荷を背負いつつ、イベントを主催することになるのだ。スポンサーを得ることでコストを相殺できることもあるが、イベント自体に口を出されるのは望ましくないだろう(ワイアードメディアグループは現在のところスポンサー募集をしていないので、この問題は回避できている)。
メンバーシップ制度の継続的運用には手間がかかる。ワイアードメディアグループのプログラムには専任スタッフが10人いて、うち6人が同グループ、4人はトラクションテクノロジーパートナーズに所属している。これに加え、バーチャルイベントに参加するワイアードメディアグループの編集者もいる。さらに、プログラムを販売すること自体も難題だ。
「これは新たなアプローチ、新たな経験だ。我々はメンバーに、バリュープロポジション(価値提案)は何か、そこから彼らが何を得られるのかを説明しなければならない」と、ショーンフェルド氏は語る。「それは、彼らがこれまでに経験したほかのものに関連づけられないような、まったく新しいものになる」。
Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Thinkstock / Getty Images