メディア業界の経済環境は厳しく、活字メディアの広告収入激減で多くのコンテンツ作成者の活動が停滞するととともに、ニュースサイト自体の予算も削減傾向にある。そこで登場したのが、何千というニュースサイトにデータ主導の特集記事を無料配信するスタッカー(Stacker)だ。
ニュースサイト運営会社はコンテンツ強化を求めている。しかし、業界の経済環境は厳しく、活字メディアの広告収入激減で多くのコンテンツ作成者の活動が停滞するととともに、ニュースサイト自体の予算も削減傾向にある。
そこへ登場したのが、何千というニュースサイトにデータ主導の特集記事を無料配信するスタッカー(Stacker)だ。
スタッカーの発表によると、同社のホームページ掲載の記事に加えて、新聞社、テレビ局、ラジオ局などサービス契約を締結したクライアント企業のサイトに掲載された記事の閲覧者数は2021年、米国内だけで合計4000万人に達した。クライアントのなかにはハースト(Hearst Communications)、トリビューン(Tribune Publishing Company)、マクラッチー(The McClatchy Company)といった新聞大手や、ネクスター(Nexstar Media Group)のようなテレビ局ネットワークも含まれる。スタッカーによると、同社の配信サービスを利用するパブリッシャー数は2020年から21年にかけて300%以上増加したという。
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スタッカーの沿革と経営陣
スタッカーの沿革と経営陣を紹介しよう。CEOのノア・グリーンバーグ氏は、データアグリゲーション/データ可視化専門のグラフィック(Graphiq:本社サンタバーバラ)出身。2017年、同僚だった3名と共同でニュージャージーを拠点にスタッカーを創業し、CEOに就任した(グラフィックは同年、Amazonに買収された)。編集主幹のニコル・コールドウェル氏は、環境関連ニュースに注力するグリーンマターズ(Green Matters)の立ち上げに関わったほか、ライフスタイル情報サイトのスリリスト(Thrillist)でも編集者を務めていた。
グリーンバーグCEOとコールドウェル氏率いるチームは、コンテンツ分野で未開拓の「ホワイトスペース」に狙いを定めて活動している。具体的には、これまでAP通信(Associated Press)やロイター(Reuters)といった通信社が主に扱っていたコンテンツが対象となる。ただしスタッカーは、従来とは異なるニュースサービス運営モデルを採用した。ブランド企業とのスポンサー提携でコンテンツ制作費をまかない、スタッカースタジオ(Stacker Studio)を通じて全国・地域のパブリッシングパートナーに無料配信しているのだ。
今まで外部から出資を受けたことがないスタッカーは、設立後半年で黒字化し、2022年の売上高は前年比250%増を見込んでいる(グリーンバーグ氏によれば、年商が8桁、つまり1000万ドル[約11億円]規模に近づきつつある)。コンテンツ制作部門は約30名の正社員と60名のフリーランスからなり、毎月150本の記事を執筆している。
中小企業の情報発信を支える
スポンサードコンテンツでは、月に35本の記事がブランド企業パートナーの資金提供を受けて作成・配信される。これまでにスタッカーが契約したパートナーはおよそ100社にのぼる。
そんなパートナーの1社が、ベンチャーキャピタルから調達した資金でロンドンに設立された保険分野のフィンテック企業、シンプリービジネス(Simply Business)だ。同社はスタッカーの提案によるコンテンツ/アーンドメディアの統合化戦略を、中小企業向け保険商品の販売促進に活用している。自社サイトでは中小企業のニーズに特化した記事が次々と配信され、1本あたり約170回、他社メディアで紹介される。サービス開始から半年で、シンプリービジネスの記事が他社メディアで取り上げられた回数は1000回を超えた。「スタッカーは、当社のリンク構築戦略の合理化に貢献した」と、シンプリービジネスのデジタルコンテンツ部門のシニアマネージャー、マリア・ブリス氏はいう。
もう1社のパートナー、カナダに本社を置く環境配慮型商品メーカーのペラ(Pela)で成長事業開発部門長を務めるクリス・フレゲル氏は次のように語っている。「スタッカーと組むことによって、質の高いジャーナリズムと、当社の成長に投資する機会が得られる。まさにウィンウィンの関係だ。信頼のおけるチームが我々に代わって、パブリッシャー各社がこぞって配信したがるような内容の記事を作成し、結果として当社ブランドの認知度と権威が高まる。こんなビジネスモデルはほかにない」。
グリーンバーグ氏は、コンテンツマーケティングにおける近年の進化として、企業が「本格的なジャーナリズム」に力を入れるようになったと述べており、「時事的で信頼できるコンテンツを作成すべく、ブランド各社が多額の投資をおこなっている」という。最近では大手仮想通貨取引所のコインベース(Coinbase)など、新たにニュース事業に参入した企業の例もある。
とはいえ、大半のブランドは自前のニュース編集部を立ち上げるつもりはないだろうし、作成したコンテンツを自社サイトやブログ以外の手段で発信する技術を持ち合わせていない企業も多いだろう。スタッカーが助力できるのはそこだ。「当社は、クライアント企業が投じた予算で作成した質の高いコンテンツを全国のパブリッシャーに無料で配信しながら、自社のニュース編集部門の資金源を確保するというモデルで事業を運営し、人々の興味を引いている」。
超地域密着型のコンテンツを大規模配信するスタッカーは、ローカルニュース、ビジネス、ライフスタイル関連の記事で、全米50州の384都市に拠点を置く中小メディアの情報発信を支える役割を果たしている。農村部の病院閉鎖をめぐる記事であれ、有権者の州別統計情報であれ、スタッカーはデータの山に埋もれてしまいがちなトピックを発掘し、記事に仕立てる。
もちろん、執筆には専門知識が欠かせないが、ほかのニュースメディアと異なり、スタッカーはジャーナリストの採用を進めている。「7種類もの業界の情報を扱うにあたって、各分野の専門家が相当数必要になるため、当社ではつねに人材を募集している」とコールドウェル氏はいう。
公正な記事の制作とその姿勢
クライアントの立場からみたコンテンツ作成作業の進め方を説明しよう。たとえば、ある不動産会社がスタッカーとスポンサードコンテンツ契約を結んだとする。コールドウェル氏率いる編集部はブレインストーミングを通じて、不動産業界で注目を集めているトピックを洗い出す。特定のデータセットにより業界トレンドを明らかにし、記事の切り口を決める。導き出した知見をクライアントに示し、扱うテーマの範囲について承認を得る。
記事がスポンサードコンテンツであると明記するなど、読者にとっての透明性確保は不可欠だ。スタッカーでは、キーワードスタッフィング(本文の内容とは関係のないキーワードを詰め込み、検索結果の上位表示を狙う行為)や、宣伝文句の挿入といった戦術は使わない。コールドウェル氏はこう語っている。「我々は公正な記事を作成しており、その姿勢はほかの仕事でも変わらない。取り上げるテーマと、当該分野の専門家をマッチングさせたら、あとは各地で日々活動する他社のニュース編集部と同じように、正確な情報を届けるべく力を尽くすだけだ」。広告主はスタッカー側の提案に同意したうえで意見を述べることはあっても、編集作業には関与しないと、コールドウェル氏は強調した。
「我々は全米各地のニュース編集部にコンテンツを配信しており、会社の品位と評判がすべてだと自覚している。だからこそ、スポンサーの意向に左右される記事や、広告宣伝ととられるようなコンテンツを提供するわけにはいかない」。
[原文:Wire service Stacker aims to solve content crunch for newsrooms and brands]
TONY CASE(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU