ベライゾン(Verizon)は、米ヤフー(Yahoo)とAOLを合わせた新ブランド、オース(Oath)を創設する。オースは、事実上、アドテク分野でGoogleとFacebookをてこずらせる存在になることが期待される。話としては素晴らしいが、実際にはそうはならないだろうというのが業界ウォッチャーたちの見方だ。
クリスマスツリーの電飾を片付ける作業をはいつでも面倒だが、これと同じことをアドテクでやると想像してほしい。ベライゾン(Verizon)はまさにそんな課題に直面している。
テレコム複合企業のベライゾンは、2017年6月末までに約45億ドル(約4900億円)の米ヤフー(Yahoo!)買収を完了したのち、米ヤフーとAOLを合わせた新ブランド、オース(Oath)を創設する。ケーブルテレビ、インターネット、およびモバイルにおけるベライゾンのユーザーデータも取り込むオースは、事実上、アドテク分野でGoogleとFacebookをてこずらせる存在になることが期待される。
話としては素晴らしいが、実際にはそうはならないだろうというのが業界ウォッチャーたちの見方だ。オースは、ヤフーとAOLが開発したものや買収したものなど、アドテクの部品を何十個も寄せ集めた企業になる。両社はもともと統一されたプラットフォームの構築に苦戦していた。そのうえでこの合併という課題が加わると、最高幹部たちのポジション争いもあって、GoogleとFacebookにさらに後れを取る恐れもある。
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オースは結局のところ、過去のアドテクの亡霊たちがひしめくカオスマップを自らの内に抱え込むことになる。
それは、まるで同じことの繰り返しだ。米ヤフーとAOLは、ベライゾンによる買収の前に、それぞれが買収したものの統合をまだ進めている最中だ。さらに、両社が買収した会社のなかには、自分のところの買収手続きが完全に終わっていないところもある。たとえばモバイル分野なら、米ヤフーが買収したフラーリー(Flurry)は、ピンチ・メディア(Pinch Media)と合併。AOLが買収したミレニアル・メディア(Millennial Media)も、モバイルエクスチェンジのネクスエイジ(Nexage)とジャンプタップ(Jumptap)を買収。動画も同じだ。AOLはアダプティービー(Adapt.tv)を、米ヤフーはブライトロール(BrightRoll)を買収している。
「どちらの会社も最高な(プログラマティック)ソリューションを持ち合わせていないので、ベライゾンが米ヤフーとAOLをひとつにして、そこから完全なスタックを作るのは間違いない」と、米ヤフーとAOLの両方に詳しいあるアドテク会社のCEOは述べた。「AOLの課題は、手に入れたバラバラのピースをひとつにすること。そしてさらに、規模で大幅に上回る米ヤフーを受け入れることになる。今後数年間、統合を目指して苦労することになるだろう」。

AOLと米ヤフーはうまく融合できるのだろうか?
プログラムコードを統合すれば済む話ではない。人材や組織の管理体制、社風の統合はまた別問題だ。
「ONEは幻想」
オースの設立は、ONE by AOLを連想させる。オースもONE by AOLも、ベテランCEOのティム・アームストロング氏が主導する統合ソリューションだ。
アドテクの強力な信奉者であるアームストロング氏は、大量の合併と買収を通してAOLを再編した人物。2013年には動画広告プラットフォームのアダプティービーを、2014年にはビディブル(Vidible)を、そして2015年にモバイルアドテク企業のミレニアル・メディアを買収した。そんな同氏のアドテク投資のなかでも、2015年に創設したプログラマティックのプラットフォームであるONE by AOLは最大級だ。これは、動画、ディスプレイ、テレビにまたがるAOLのさまざまな広告製品をひとつのソリューションとして統合するのが狙いだった。しかし、2年が経過して、本記事のためにインタビューした業界幹部たちは、統一されたプログラマティックサービスをAOLが提供しているとは、まだ感じていない。
「AOLはマネージドサービスを得意としていて、プログラマティックに関する社内ピッチを開催する企業に多くのものを提供している。しかし、たとえばダブルクリック・ビッド・ マネジャー(DoubleClick Bid Manager)、ターン(Turn)、メディアマス(MediaMath)など、セルフサービス向けに開発されたサービスと比べて、AOLをセルフサービスのプラットフォームと考えたことはない」と語ったのは、プログラマティックコンサルティング企業ラブマティック(Labmatik)のマネージングパートナー、トム・トリスカリ氏だ。「AOLの(プログラマティックの)やり方は、買収を通じて獲得したものをつぎはぎして構築されているので、何もかもダッシュボードでできるわけではなく、内部の手引きが必要だ。『統合されたシームレスなアドテクスタックとワンストップショップ』というAOLの宣伝文句を考えるとイメージしやすいだろう」と同氏は言う。
パブリッシャー相手にプログラマティックのコンサルタントをしているある人物も同じ意見だ。この人物がAOLと直接仕事をして、たとえばモバイルエクスチェンジのネクスエイジ(ミレニアル・メディアが2014年に買収)について疑問が生じたら、AOLはこの人をミレニアル・メディアに回すだろう。
「理屈の上では、私はOne by AOLと仕事をするべきなのだが、AOLには統合された内部インフラがない。Oneというのは幻想なのだ」と語るこのコンサルタントは、匿名を希望している。「これをオースに当てはめるならば、AOLと米ヤフーの真の統合が実現するのかどうかは誰にもわからない。それに統合を終えた時には、アドテクは現在とまったく違うものになっているだろう」とそのコンサルタントは続けた。
AOLと米ヤフーはプログラマティックのソリューションが競合している
AOLと米ヤフーはそれぞれ、合併や買収を通じて少しずつプログラマティックサービスを構築しており、当然のことながら、重なる部分がかなりある。広告配信分野を見ると、AOLには(同社にとっては大きな事業ではないが)アドテック(AdTech)が、米ヤフーにはジェミナイ(Gemini)がある。モバイル分野なら、AOLはミレニアル・メディアを買収したし、ヤフーにはフラーリーがある。動画分野、AOLはアダプティービーとビディブルを、ヤフーはブライトロールを買収した。だが、誰が見てもこの分野で一番だといえる存在がない。
「経験から言うと、これらはみんなそこそこで、ふたつの平凡な勢力が手を組んだようなものだ。AOLも米ヤフーもヘッダーの組み込みに秀でているわけではない」と、先ほどの匿名のコンサルタントは語った。
ひとつになったオースでは、リーダーシップ、製品、営業チームなどの対立は許されない。AOLと米ヤフーは、モバイル、動画、ディスプレイ、広告配信にまたがる中核的なデフォルトプラットフォームを構築し、そのプラットフォームに移行する必要がある。本記事のためにインタビューした人たちによると、市場はモバイルと動画に向かっており、この両者の統合が真っ先に進められる可能性が高いという。
「ブライトロール、アダプティービー、ミレニアル・メディア、ネクスエイジ、フラーリーはいずれもまだ別々の製品のような状態にあり、どれも統合されていない」と、大手テクノロジープロバイダーの広告収益担当バイスプレジデントは語った。「これらはベライゾンが簡単にまとめられるものではない。結局、非常に難しい技術的課題になる。統合は、実現するとしても何年もかかるだろう」。
オースは、GoogleやFacebookとは売りが異なる
本記事のために話を聞いた企業幹部たちの大半が、技術統合の点で米ヤフーとAOLの合併を楽観視していない。しかし、ベライゾンの買収によって増える価値は大変な規模になる。テレコム複合企業のベライゾンはコンテンツ事業を求めている。FacebookとGoogleに対抗し、Amazonにもある程度対抗したいベライゾンは、米ヤフーとAOLの買収により、広告主にとってさらに価値が高まるだろうと、前出の匿名アドテクCEOは語った。
Facebookの提案ポイントがソーシャルメディア、Googleのそれが検索志向なのに対し、オースの広告主への提案ポイントは、コンテンツとブランドセーフティが中心になると、このCEOは考えている。「全体的に見ると、Facebookはコンテンツを制作していない。作っているのはユーザーだ。Facebookがマーケターにとって魅力的なのは、ユーザーを細かくターゲティングできるからだ。Googleの売りは大規模な検索だ。そうすると、オースの売りはハフィントン・ポスト(Huffington Post)のような質の高いコンテンツと、立派な広告フォーマットが中心になるだろう」。
アームストロング氏はCNBCのインタビューで、ベライゾンの強みは、米ヤフーのユーザー行動データやAOLのプログラマティックプラットフォームであるOne by AOLにアクセスでき、ヤフー・スポーツ(Yahoo Sports)のようなサイトに広告を掲載できる「ブランドが集う場所の構築」になるだろうと語った。
しかし、エージェンシーのボゼル(Bozell)でメディアディレクターを務めるトレーシー・コエネク氏は、AOLと米ヤフーはどちらもユーザープロフィールの蓄積が大量にあることから、コンテンツよりもオースがどんなデータを提供してくれるかに関心を寄せている。米ヤフーのもつ情報の多くはメールとユーザー登録によるもので、これは、生活が変わっても登録情報を更新しない人がいるため、誤っていることが多いと同氏は指摘した。
「米ヤフーとAOLは、このデータ不足の問題を解決できるのならば3番手につけられる。しかし、3番手のパートナーを使っているといっても、それではセールスポイントにはならない。FacebookとGoogleに追いつくために米ヤフーとAOLは、何をする必要があるのだろうか?」と、コエネク氏は語った。
Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)
Image from 米DIGIDAY