「デザイン・ホーム(Design Home)」は、9000万回超のダウンロード数を誇る人気のインテリアゲームアプリだ。同ゲームを手がけるグルー・モバイル(Glu Mobile)は9月、オンラインビジネスにフォーカスするだけでなく、「デザイン・ホーム」を通して本格的な小売ビジネスに参入することを明らかにした。
「デザイン・ホーム(Design Home)」は、9000万回超のダウンロード数を誇る人気のインテリアゲームアプリで、ブランドとのコラボレーションに関して豊富なノウハウを持っている。プレイヤーは、ゲーム内のデジタルストアでラグやソファ、観葉植物を手に入れ、バーチャルハウスのインテリアをデザインし、その出来栄えをほかのユーザーから評価してもらう。ゲーム内ストアでバーチャルなインテリア製品を販売しているのは、ウィリアムズ・ソノマ(Williams Sonoma)、ウェストエルム(West Elm)、ポッタリー・バーン(Pottery Barn)など、デザイン・ホームと提携しているインテリアブランドだ。プレイヤーは、たとえば1.99ドル(約208円)でウェストエルムのバーチャルソファを購入できる。
しかし、デザイン・ホームを手がけるグルー・モバイル(Glu Mobile)は9月、オンラインビジネスにフォーカスするだけでなく、「デザイン・ホーム・インスパイアード(Design Home Inspired)」と呼ばれる、同社が調達したホワイトラベル製品を集めたデジタルストアをオープンし、本格的な小売ビジネスに参入することを明らかにした。これによって、バーチャルハウスに配置したラグが気に入ったプレイヤーは、本物のラグをゲーム内で直接購入できるようになる。つまり、このゲームはインテリアショップを兼ねることになるのだ。
ゲームが小売店化する未来
小売業者とビデオゲームの提携は以前から見られるが、今回の提携には注目すべき進化がある。それは、ビデオゲーム自体が小売店化するという未来を示唆していることだ。
Advertisement
小売ブランドは、何年も前からビデオゲームに進出している。グッチ(Gucci)とモスキーノ(Moschino)はそれぞれ「ザ・シムズ4(The Sims 4)」で新しい服を発表しているし、ユニクロはマインクラフト(Minecraft)と提携して、マインクラフトをテーマとしたTシャツを制作して、両社の店舗で販売している。一方、「どうぶつの森」では、ネッタポルテ(Net-a-Porter)、グッチ、ディオール(Dior)、バーバリー(Burberry)といったファッションブランドが、アバター用の服をプレイヤーに提供している。また、eスポーツ団体でライフスタイルブランドの100シーブス(100 Thieves)も、ゲーム内で新しいアパレル製品の販売を開始した。
ブランドがゲームに惹きつけられている背景には、人々が一般的なテレビコマーシャルを見る時間より、ビデオゲームの世界で過ごす時間のほうがはるかに長いという単純な事実がある。ビデオゲームとの提携でブランドを支援しているコンサルティング会社ツーファイブシックス(Twofivesix)の創業者、ジャミン・ウォーレン氏によれば、ゲーム空間内で自然なインタラクションを実現できたブランドは、これ以上ないほど強力なエンゲージメントを獲得できるという。
だが、今までこのような提携は、ブランド側がビデオゲームの世界に飛び込むという点で似たりよったりだった。しかし、デザイン・ホームの発表はこのモデルを反転させるものだ。彼らは既存の小売製品をデザイン・ホームの世界に持ち込むだけでなく、「さらに一歩先を行くものだ」と、ウォーレン氏は話す。そのうえで、「このゲームのなかで目にする製品のホワイトラベル版を実際につくる」と語った。「ブランドの領域にある製品を顧客に直接提供するというのは、きわめてユニークな取り組みだ」。
没入感の高さが特に革新的
デザイン・ホームが革新的といえるもうひとつの点は、そのホワイトラベルストアが完全なショッピング機能を備えていることだ。プレイヤーはゲームを離れることなくソファやラグを購入できる。ユニクロとマインクラフトのコラボ企画のように、ゲームから出なければ商品を購入できないような仕掛けとは一線を画しているのだ。
デザイン・ホームの開発元であるグルー・モバイルは、素晴らしいチャンスがあると考えているようだ。同社はこの新しい店舗を「大きな利益を得られる機会」と呼び、これから急成長すると予想している。同社は現在、少数のサプライヤーから調達した枕、装飾品、ラグ、ウォールアート、食器を販売しており、eコマース業務はオンライン小売業者のバーク・デコール(Burke Décor)に委託している。「我々はデザイン・ホームを、消費者がクリエイティブな遊びを通じてブランドを発見し、ブラントと関わることができるプラットフォームだと考えている」と、グルー・モバイルのエグゼクティブバイスプレジデント、マーク・ファン・リスウィック氏は、米DIGIDAYの姉妹メディアであるモダン・リテール(Modern Retail)に対してメールで述べている。また、これまで提携したことがある企業の数は「数十社」だが、今後さらに増えるに違いないという。グルー・モバイルにとって、この店舗は「ブランドパートナーが将来参加する機会をさらに増やすための基盤となる」と、リスウィック氏は付け加えた。
小売業者とビデオゲームの提携は、自然な形で行われているものもあれば、そうでないものもある。ウォーレン氏は、広告宣伝のためだけにビデオゲームに参入したと思われるブランドの事例を数多く見てきた。だが、それではプレイヤーに見抜かれてしまう可能性があると同氏はいう。たとえば、中世ヨーロッパが舞台のファンタジーゲームに、キッチン用品ブランドのウィリアムズ・ソノマ(Williams Sonoma)の広告をそれとなく配置するのは難しい。「どのブランドもビデオゲームと仕事できるが、すべてのビデオゲームがブランドとうまく提携できるわけではない」と、ウォーレン氏は語る。
「シムズ(Sims)」や「FIFA」など、実際の「世界」を再現したシミュレーションゲームでは、このような提携がうまくいく可能性がきわめて高い。なぜなら、「ブランドが存在することで没入感が高まるケースが多い」からだとウォーレン氏はいう。たとえばFIFAなら、ペプシ(Pepsi)の広告がゲームの世界にうまく溶け込むだろう。FIFAは、自身のゲームの世界にできる限りリアリティを持たせたいと考えている。そして、本物の競技場にはたいてい炭酸飲料の広告が掲げられているため、ペプシとの提携は本当に競技場にいるかのような感覚をさらに強めるはずだ。
ブランドが躊躇する点もある
とはいえ、ビデオゲームとの提携を検討しているブランドが躊躇する点もある。そのひとつは測定基準の不透明さだ。エンゲージメントを測定するためのインフラが整備されているビデオゲームはほとんどない。そのため、ブランドがプロダクトプレイスメントを購入しても、その商品広告にエンゲージしたプレイヤーの数やプロフィールに関する詳細なデータを得ることができない。
いくつかの中小企業がこの状況を変えようと取り組んでいる。その筆頭がビッドスタック(Bidstack)だ。同社は、ビデオゲームに表示される看板やプレイヤーのジャージのロゴといったプロダクトプレイスメントを販売している。これまで、同社の案件はほとんどが小規模なものだったが、最近になってゲーム大手のユービーアイソフト(Ubisoft)との提携が実現したことは、ゲーム内広告が急速に発展する兆候かもしれない。
ビッドスタックを含め、ほとんどの提携はまだプロダクトプレイスメントが中心だ。それでも、デザイン・ホームが単独で小売部門に進出する最後のビデオゲームになることはないだろう。そう考えられる理由はたくさんある。たとえば、ビデオゲーム会社は、プレイヤーが積極的にゲームをして収益をもたらし続けてくれるようにする新たな手段を常に探し求めている。実際、大手ゲーム会社のあいだでは、K-POPグループと提携したり、ラッパーのトラヴィス・スコットのライブを開催したり、クリストファー・ノーラン監督の映画『インセプション(原題: Inception)』をゲーム内で上映したりする取り組みが行われている。
とはいえ、参入ハードルは低い
「ビデオゲーム会社は、人々が常に戻ってくるようにするための手段を探し求めている」と、ウォーレン氏はいう。ライブの開催はそのような目的に役立っているようだが、ゲームを小売店化することも、同じような効果をもたらす可能性がある。
しかも、eコマースショップを立ち上げるのにそれほど多くのインフラを追加するはない。ウォーレン氏が指摘するように、少額取引がすでに活発化しているおかげで、「彼らはすでにプレイヤーのクレジットカード情報を握っている」からだ。実際のところ、大きなハードルは実際に人々に利用してもらうことにあるのだ。
[原文:Why video games are the next retail frontier]
MICHAEL WATERS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)