タイムは4月第4週、Crypto.com(クリプト・ドットコム)と提携し、ビットコイン(Bitcoin)をはじめとする31種類の仮想通貨による有料購読の支払いを受け付け始めた。100年近い歴史を持つ同誌だが、スポンサーの広告キャンペーンの支払いにもビットコインを利用できるようにしている。
タイム(Time)が、仮想通貨革命におけるパブリッシャーの役割を確立するという目標に向かって邁進している。同社のバランスシートがその証明となるよう、抜かりはない。
タイムは4月第4週、Crypto.com(クリプト・ドットコム)と提携し、ビットコイン(Bitcoin)をはじめとする31種類の仮想通貨による有料購読の支払いを受け付け始めた。100年近い歴史を持つ同誌だが、スポンサーの広告キャンペーンの支払いにもビットコインを利用できるようにしており、その2週間前に暗号資産運用会社グレースケール(Grayscale)と第1号の契約を結んだ。Crypto.comとの提携、および同スポンサー契約の詳細は公開されていない。
プログレスマーケティング担当シニアバイスプレジデントのマヤ・ドレイシン氏は、現在の購読者が仮想通貨での支払いに切り替えるよう求められることはないと述べる。仮想通貨での支払いは、仮想通貨ネイティブのユーザーにタイムというブランドを知ってもらい、利用しやすい支払い方法を提供するものだ。また、「クリプトの世界をのぞいてみたい」という現在の購読者にも、仮想通貨への入り口として、実際に仮想通貨が使用される場面を見てもらえることを期待する。
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仮想通貨は「価値の貯蔵手段」
ビットコインは1週間で価値が1万ドル(約110万円)以上下落することもある。それが6桁規模の広告キャンペーンに与える影響を挙げて批判する声もあるが、タイムの社長、キース・グロスマン氏はそのリスクは厭わないと語る。そもそもビットコインは「通貨というより価値の貯蔵手段」と見なしているため、それほど大きなリスクにもならないそうだ。
タイムは2018年にセールスフォース(Salesforce)のCEOマーク・ベニオフと夫人のリン・ベニオフに買収され、現在では非公開企業となっている。グロスマン氏は、このおかげで「帳簿をどうしたいかを検討する贅沢が許される」と語る。
ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)とAP通信(Associated Press)でR&D・戦略主任を務めたこともある、アプライドXL(Applied XL)のCEOフランチェスコ・マルコーニ氏によると、「価値の貯蔵手段」は金に投資する戦略に似ているそうだ。「ビットコインは、特にインフレに対するヘッジとなる。また、資産価値を高める可能性もある」という。
グロスマン氏は「ほかの何も犠牲にせずに実現できる、追加的な事業分野だ。一部の従来の事業に比べると、少し変わったリスクモデルを持つ[ことができる]」と述べる。「そのリスクを引き受けることで、メディア企業の可能性について異なるモデルが採用できる」そうだ。
新風を吹き込む役割を期待
仮想通貨決済企業ロケットフューエルブロックチェーン(RocketFuel Blockchain)のマーケティング担当バイスプレジデントであるカート・クマール氏は、ビットコインがその変動性にもかかわらず、平均的には上昇軌道を描き続けてきたと指摘している。
タイムの最高技術責任者であるバラート・クリシュ氏は「企業のビットコイン採用が進み、そのテクノロジーがよりユーザーフレンドリーなものになってくれば、ビットコインの価値も上がるだろう」と述べる。
ロケットフューエルブロックチェーンのCEO、ピーター・ジェンセン氏は、タイムのビットコインへの投資は、外貨資産の保有や金への投資に似ている、と付け加える。自動車メーカーのテスラ(Tesla)が今年2月に15億ドル(約1650億円)分のビットコインを購入したのにも似ている。
ある意味、常に変化を迫られている業界にとって、仮想通貨は新風を吹き込む役割を果たすかもしれない。ジェンセン氏は、ウーバー(Uber)やリフト(Lyft)がタクシー業界を席捲したように、仮想通貨が投資だけにとどまらず、「旧態依然とした業界において変化を推進するテクノロジー」としても活用できると語る。
低価格のなNFTの提供も
タイムの仮想通貨に対するもうひとつの取り組みが、最高技術責任者バラート・クリシュ氏の下でのテクノロジー部門の拡大だ。昨年5月の就任以来、同部門は現在は40人と、人員を倍以上に増やしている。その多くは、従来のメディア系の経歴を持った者ではなく、ウーバーやGoogle、Amazonなどの企業出身者だ。
タイムは3月、同誌のデジタル表紙を3つの非代替性トークン(NFT、詳細はこちら)のコレクションとして売りに出し、NFT市場への参入を果たした。NFTはオークションで最高入札者に落札され、もっとも高いものは最終的には25万ドル(約2740万円)近くになったという。だがグロスマン氏は「仮想通貨の領域における動きはNFTのみをベースとするものではない」と述べる。
たとえば、タイム誌の表紙の複製品や印刷物が購入できるオンラインストアという既存の資産をNFTショップに転換したら、それを画廊のように運営することができる。その一方で、ニッチな集団を対象としたコミュニティ主催の限定参加型の仮想イベントへの参加費として低価格のNFTを提供することも魅力的だ、とグロスマン氏は述べる。
同氏は「月間ユーザー数1億人というオーディエンスのなかで、タイムがそのコミュニティとの関わり方を変えていくことのできる、真に革新的なテクノロジーとしてはこれが初めてのものだろう」と語る。
「今後100年も繁栄できるように」
クリシュ氏は、現在構築に取り組んでいるインフラが何十万ドルもの高価なNFTに焦点を当てたものではなく、むしろ少々追加の出費をしてもよいというオーディエンスとそのオーディエンスがお金を出してもよいと思う商品・サービスを特定し、それを大きく展開していくようなNFTのユースケースの実装を想定しているという。
いったんそのインフラが整備されたら、ワシントン・ポスト(The Washington Post)のセルフサービス広告プラットフォームのゼウス(Zeus)に似たテックスタックを構築し、ほかのパブリッシャーにライセンス供与して、NFTや各種トークン、仮想通貨をそれぞれの会員サービスで利用できるようにする計画だ。
グロスマン氏は「メディア業界のバックエンドのインフラは、真にコミュニティ的な関わり方や購読・会員サービスの可能性を追求できるようには設計されていない」と述べる。「最終的に我々が目指しているのは、タイムというブランドが今後100年も繁栄できるように保証することでしかない」。
[原文:Why Time sees opportunity in Bitcoin for advertisers and consumers as an ‘additive business line’]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU